第三章 開店いたしましょう
第19話
あれから一ヶ月。
私はお父さまとダン、そしてクラリスと共に馬車に乗っていた。
「――ということだから、なるべく用心棒として誰かに入ってもらえるようにしたほうがいいと思うんだが……リリア、聞いているかい?」
「え? えーっと、はい、大丈夫で――って用心棒?」
今日は、お父さまが「店が手配出来た」と言って共に建物を確認しに行く日だったんだけれど、興奮して昨夜は寝られず、それに加えてこの馬車の気持ちいい揺れでうとうとしてしまった。
「お嬢さま、旦那さまはリリアさまだけが店にいることを心配なさっておられます。やはり城下町は治安がいいとは言い切れないので、何かあった時に対応できる方がいたほうがよろしいかと」
「う~ん……」
確かにそれは一理あるかもしれない。と、前回のフロギーの酒場に訪問した時に起こったことを思い出す。
あれから数日かけてすっかり足は良くなったけれど、二度とあのような経験はしたくない。
――そういえば、グレンは元気にやってるかしら。嫌な奴ではあるけれど、助けに来てくれた時は心の底からホッとした。
もう、誰か信用出来る仲間を見つけてパーティーを組んでしまったかな?
いやいや、あんな性格だし、一緒に組んで行ける人なんていないわ。だからまた、フロギーの酒場に行けば会えるよね?
「まあ、開業までに考えておきなさい。ただし、ちゃんと用心棒がいないと仕事を始めることは許可しないぞ」
はい、ともうんとも言わない私に痺れを切らしたお父さまがそう言うと、馬車の揺れが止まった。
以前クラリスと来た時と同じ、城下町の入り口に着いたみたい。そこからはダンの誘導についていく。
彼は大通りを左に曲がり、十分ほど歩いたところで赤い屋根の建物の前で足をとめた。こじんまりとした二階建てで、まるでおとぎ話に出てくるような可愛らしい家。
「お父さま、ここが……?」
「ああ、そうだ。これがお前のお城だよ、リリア。なかなか中心部の物件は空きが出ていなくてね。ちょっと外れた所になってしまうが、人通りはそこそこある道に面しているから防犯的な意味でもいいだろう。それに、町の外からやってくるセンティアにとっては一番近い場所になる」
確かに、位置的には城下町の端の方に位置するから、センティアたちは来やすそうだわ。それにしても――これが私の新たなお城。
「私は久しぶりに城下町の散策をしてくるから、あとは自由に見学しなさい。もし必要なものがあれば、帰り道で訊こう。最後に。私からこの店の名前を贈ってもいいかい?」
「まあ、お父さま……! ぜひお願いします」
「リリーフィオーレ。お前の幼い頃の愛称と、この先の成功を願って。私のかわいい娘、頑張りなさい」
「本当に何からなにまで……お父さま、ありがとうございます。私、結果を出せるように頑張ります!」
「ああ。ではまた後でな。それじゃあダン、行こうか」
そうしてお父さまとダンはまた大通りへと道を戻っていく。
私の理想を体現するための場所は準備出来た。あとは中身をしっかり練り上げること。そして、お父さまからの宿題である用心棒を雇うこと。
「用心棒ねぇ……」
私の頭のなかに、一人だけ不貞腐れた表情の人物が思い浮かんだ。
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