第18話
自分で斡旋所を作ると決めた後、すごい形相で迎えに来たクラリスに連れられて帰宅した私は、お小言を右から左に聞き流しながら足の手当を受け、その間にどんな斡旋所にするのか、イメージを膨らませていった。
昔――私がまだ一条雪だった頃、会社で人員配置について考えることがあった。
新入社員のジョブローテーションや各個人からの異動希望はもちろんのこと、各部署の部長からどんな人材が欲しいかを吸い上げ、また異動したい人からはどんな部署でどんな働き方をしたいかを細かく吸い上げた。
新たな部署でも長く活躍できるように。所属する部署でストレスなく仕事ができるように。
それはさながら緻密なパズルのようだったけれど、うまく皆の希望がマッチした時はとても気持ちが良かった。私のモチベーションの一つだったのは間違いない。
だから今回も、ちゃんとセンシャル一人ひとりの希望を聞き出して、目的が同じ人たちをパーティーにしてあげる必要があると思う。やっぱり相性というものはあるし、取り組む姿勢の向いている方向が違うと、我慢することも出てきちゃう。
それに、金銭的な問題。後のトラブルに繋がらないように事前に分配について取り決めた契約書を斡旋所が仲介して作成すれば問題も起こらないでしょう。
更にこの契約書に公爵家の名前でサインを証人としてサインを入れられれば、更に信用に足りうるものになるはず。
そのためには……お父さまに相談する必要があるわね。
◆
「――という訳なの。だからお父さまお願いします。斡旋所を開くために、力を貸してください」
お父さまの書斎で、難しい顔をした彼に必死に訴える。
私の口から、まさか“斡旋所”なんてワードが出てくるなんて露ほども思っていなかったであろうお父さまは最初は目を丸くしていたけれど、段々と真剣な顔つきになっていった。
経営人として、この話は有りか無しか、娘からということは抜きにして計算しているのだろう。
しばしの沈黙の後、顎に手をやりながら口を開いた。
「最近リリアが城下町に出入りしていることはダンから聞いていたが、まさか斡旋所を作りたいと言い出すとは……正直、驚いた」
そうよね……つい先日婚約破棄して学園もやめたばかりなのに、今度はこんなこと言い始めるなんて私でもびっくりしちゃうわ。
「でも、確かに内容は面白い。センシャルが討伐の際に抱える金銭問題については度々議会でも話題に上がっていた。リリアの考えている斡旋所が本当に上手く機能すれば、解決の糸口になるだろう」
「じゃあ……!」
「だけど、肝心の店の用意はどうするつもりだ?」
――本当だ。肝心なことを忘れていた。でも、私には元手になる資産がない。
そんな私の様子を見てお父さまはハハッと笑う。
「急に大人びたことを言い始めるから驚いたが、詰めが甘いところもあるな。まあいい、これも勉強になるだろう。自分で考えて動いて得たものは、どんな結果になろうと糧になる。リリアは来月で十七だったな。いい機会だ、店は私からプレゼントしよう」
「お父さま、じゃあ……!」
「ああ。リリアは未成年だから私が代理人として役所に営業の申請を出そう。ただ、契約書への公爵家としてのサインを入れる件については、慎重に動く必要がある。まあ……、これも私のほうで上手くやろう。店も含め、しばらく待っていなさい」
「ありがとう!」
お父さまに飛びついて喜びたいところだったけれど、よくよく考えてみたら会って間もないおじさんだと思い直す。
でも、隠しきれない喜びの色が顔にでていたのか、お父さまも嬉しそうに目を細めていた。
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これにて第二章終了(のはず)です!
いつもお付き合い頂きありがとうございます(*^^)
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