第17話


「ええ、一体何がどうなってそうなったの……?」


作業をしていた手元をとめ、困惑の表情でマスターが私を見てくる。そうよね、彼にとったら若い小娘が突然事業を始めるとか言い出したんだものね。


「私なりに考えがあるの。この斡旋所の問題を全てクリアした、新たな斡旋所を作る自信があるわ!」


それに――


「あと、グレン。あなたもそんな調子じゃ永遠に仲間を見つけられないわよ。私、借りを作るのは嫌いなの。だから、私が作る場所であなたにピッタリの仲間を紹介してみせるわ。少しだけ時間をくれればね」


思い起こされるのは、私がまだうら若き新入社員だった頃。部署の大切なデータをふっとばしてしまったことがあった。もうすでに退社してしまった、表計算に得意な人が組んでくれたマクロが組み込まれているデータ。

仕事で成果も出していないひよっこの私が、部署の大切なデータを壊してしまうなんて……と真っ青になったけれど、当時私のメンターだった男の先輩が「俺に任せて」と言って魔法のように直してくれた。今だからわかるけれど、ただ毎日自動で取っているバックアップを引っ張ってきただけだった。

もちろん感謝したし、それで終わったらよかったけれど、何を思ったか先輩は「じゃあ、助けてあげたお礼に食事に行かない?」と言ってきた。

大きなトラブルを回避してくれたという負い目もあって一緒に食事に行ったけれど、その後も要求は続いて――。

結局、私の様子を心配した同期が相談に乗ってくれてなんとか事なきを得たけれど、この一件以来私は誰かに借りを作ることを良しとしないようになった。

だからグレン、あなたにも絶対に借りを作らない。


「寝言は寝て言え。俺はお前に借りを作ったわけでもないし、それに仲間は自分で見つける」

「まあいいわ。準備ができるまでこのカウンターの椅子を温めていて頂戴」

「ブッ……」


マスターが噴き出すと、グレンはより一層不機嫌そうな顔をした。


「リリアさん、楽しみにしているから早くグレンお姫さまを迎えにきてやってね」

「おい!」


暇すぎてどうしようかと思ったけれど、やりたいことが見つかった。みんなが気持ちよく使える斡旋所を作るために、準備しなきゃならないことは山ほどある。


「ええ、任せて!」

「勝手にしろ……」


グレンはプイっとそっぽを向き、ぶつぶつ言いながらジュースを飲んでいる。

私はマスターと目を合わせ、いたずらっぽく笑った。


何だか楽しくなってきたわ!!





突然何を言い出すかと思えば、自分の斡旋所を作ると。


「フフッ、本当に面白い子だなあ」

「一体何なんだ、あいつは」


いつもは冷静沈着なグレンも、お騒がせ少女に翻弄されているのが面白い。


「それにしてもグレン、意外と優しい面もあるんだねえ。歩くのを支えてあげるなんて」


二人で店に入ってきた様子を思い返す。

にも見せてあげたいくらいだ。


「あれは不可抗力だ」

「そっか。で、いつまでその椅子を温めるつもり?」

「お前まで……。俺がいいと思う奴が見つかるまでだよ!」


本当に、面白いよ。

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