第13話
「なっ……世間知らずですって!?」
「それ以外に形容する言葉があるか? ここは明らかに未成年のお前が、そんなひらひらした服で来るような所じゃない」
「だって……」
確かに一理ある。でも、私にだって理由があるんだから。
口を開いて反論しようとしたところで、マスターが助け舟を出してくれた。
「まあまあ、グレン。こちらのお嬢さんも初めてらしいし、どんな店かわからなかったんだろ。ほら、椅子に掛けて」
グレン、と呼ばれた剣士は「フン」と鼻を鳴らして私から視線を外した。
ていうかなんでこんな初対面でボロカス言われなきゃならないのよ。店の前に入店制限なんて書いてなかったし、ちゃんと入口から入ったのよ? なによ。ちょっと顔がいいからってなんでも言っていいわけじゃないんだから!
言いたいことは山ほどあるけれど、私もレディですから。グッとこらえて席に着く。
「はい。これを飲んだら帰るといい。ここはね、魔物討伐の仲間を集めるための酒場なんだ。だから、あまり大きな声じゃ言えないがならず者だって来る。そんなところにこんな可愛いお嬢さんひとりでやってくるのはあまりお勧めできないな」
「はい……」
殊勝に返事をして出された飲み物を口にする。優しい甘みが喉を滑り降りて行き、少しだけ冷静さを取り戻した。
あとは静かにクラリスを待とうと思ったのに――
「はん、可愛いだって? マスターちょっと目が悪いんじゃないか?」
はい、第二ラウンド決定。売られた喧嘩は買いますけれども? 私をその辺の静かなお嬢さんだと思ったら大間違いよ! 後悔しても遅いんだからね!
「あなたね……!」
「お嬢さま!!!!!!!!!!」
私のグレンへの怒りの言葉は、それよりも大きな声でかき消された。
呼び声がした入り口へ目を向けると、静かに怒りを湛えた表情のクラリスが仁王立ちしている。
あ、これやっちゃったやつだ。
直前まで抱いてきたグレンへの怒りはしゅうっと急速に萎む。
完全に私が悪い。ちゃんとお怒りを受け止めよう。
「クラリス、はぐれちゃってごめんなさい!」
ツカツカと傍まできた彼女に、素直に謝る。
「ご無事でいらっしゃって安心いたしました。本当に、良かった……」
怒られると思っていたけれど、彼女は眉尻を下げ、ほっとした表情をしていた。額には大粒の汗が浮いている。きっと、必死に探してくれたんだわ。
「本当にごめんなさい。私、少しはしゃいでしまったの。でも、ここならいつかクラリスに会えると思って……」
「ええ、ある意味目立つ店にいてくださったので見つけやすくて助かりました」
「お嬢さん、迷子だったのかい。お連れの人に会えてよかったねぇ」と、マスターも優しい声をかけてくれる。
「リリアお嬢さまにご親切にして頂いたようで、ありがとうございます」
クラリスがカウンターに置かれた飲み物を見てマスターにお礼を言うと、グレンが「リリア……?」とつぶやいた。
「リリアさま、こちらの方はお知り合いですか?」
「いいえ! 全く知らない方です」
「そうでしたか。それではもうあたりも暗くなってきましたのでお屋敷に帰りましょう」
グレンとの会話は最早なかったことにしましょう。
それにしてもいつの間にか時間が経っていたのね。店内は窓も少なくて薄暗かったから全然気づかなかったわ。
「ええ。マスター、お騒がせしてごめんなさい。飲み物とても美味しかったわ。ありがとう。また来るわね!」
そうしてくるりと踵を返し、店を後にした。
◇
お騒がせ少女が去った後の店内は相変わらず喧噪につつまれていた。
「また来るわね、って言ってたけれどこちらの話を全然聞いてなかったってことなのかなあ」
彼女が置いて行ったグラスを洗いながら苦笑する。
「リリア、って言ってたよな?」
「ああ、そうだね。グレン、知ってるのかい?」
「いや――」
天井から下がったオイルランプの芯がジジッと音を立て、光を揺らした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます