第9話


まさかこんな展開になるなんて。


倒れた女性はやっぱりお母さまで、今はお医者様が来るまで自室のベッドで休んでいる。いくら私が溺愛されていてどんな行動でも許されていたとはいえ、退学&婚約破棄のダブルパンチはちょっと刺激が強すぎたよね。


もっと慎重に事を進めるべきだったかも……。ううん、でも早々に耳に入ってしまったはずだから、ちゃんと自分の口から言えてよかったのかもしれない。


「――リリア。なぜ学園への入学をせず、婚約が解消になってしまったか教えてくれるか?」


ひと騒動の後、私は書斎でお父さまと向き合う事になった。

ちゃんと説明すれば、理解してもらえるはず。でも、そのためには。


「お父さま、理由をお話しするには私たち二人にしていただけますか?」

「ダンにも聞かせられないことなのかね?」


この部屋には、私たちのほかにもう一人、黒のテール・コートに身を包んだ男性が控えていた。おそらく私の部屋にお父さまとお母さまを連れてきてくれた、あの神経質そうな声の持ち主だと思う。

彼はダンという名前なのね。さっきの私の発言に対して、唯一無表情を貫いていた人。こういう何考えてるか分からない人って、苦手なのよね……。


「ええ。お父さまとお母さまのみにお伝えしたいのです」


クラリスの話によると、予知夢についてダンは知らないはずだから。

すると私の言葉を受けて「それでは旦那さま、失礼いたします」とすぐに部屋を出て行ってしまった。さすがお父さま付きの執事。行動に無駄がない。


「ほら、二人っきりだよ。一体何があったんだい?」と、お父さまが柔らかい表情で次の言葉を促してくれる。


そうして私は、一連の事情を伝えた。


「予知夢」を見たこと。

そしてギルがそれを受け入れてくれたこと。

ギルの配慮によって、おそらくこの“家”には問題が及ばないであろうこと。

そして、私のわがままとして学園には通いたくないということ。


……最後の「わがまま」は、ただ勉強したくないだけなんだけど、この流れで聞くと「ギルと新しい女性が仲良くなる様子を見るなんて耐えられない」って感じで受け止められるかもな、という打算もあっての言葉選びだ。


全てを聞き終えたお父さまは、「そうだったのか」と深くソファーの背に身を委ねながら天井を仰いだ。


「リリア、それは辛かっただろう。まさかそんな夢を見るとは。学園のことも問題ない。リリアのやりたいようにしなさい。今後の結婚についても心配するな。私がいい相手を見つけてあげよう」


――よしっ! なんか最後の言葉はまあ気になるけど、大きな問題は乗り越える事が出来たわ! 嘘をついて心が痛まないわけじゃないけど、全てがいい方向に行くと願って。


リリア・ロレーヌ十六(三十二)歳。第二の人生始めます!




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これにて第一章終了です!

お付き合い頂きありがとうございます(*^^)

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