第56話 解放! 死神の力、今ここに




「5枚! ドロー!」


 クロハル

 手札1→6


 目を閉じたまま、デッキの上から一気に五枚のカードを引く。


(来てくれ……頼む……!)


 手が、震えている。

 足だって今にも折れそうなほどに揺れている。

 それでも、グッと口を噛んだ俺はドローしたカードを手札として浮かせる。

 そして、ゆっくりとその目を開いた。




「………………っ!」




 横に向かって一列に並ぶ六枚の手札。

 その中に一枚のカードを見つけた俺は目を大きく見開いた。


(マジかっ!)


 俺のドロー力も捨てたもんじゃない。

 来てくれたのは、このデッキに一枚しか入っていないカード。

 しかも、ちょうど欲しいと思っていたカードだ。


(『運命のデスティニードロー』は、あります!)


 まさか本当に来てくれるとは思わなんだ。


 でも、これでやっと。

 アイツを見返すことができる。


「まあいい! 俺はこれでターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!」


 クロハル

 マナ0→5

 手札6→7


「……よし」


 考えることも。

 悩むことも、ない。


 必要なパーツならもうそろった。


「なあ」

「あ? 何だよ」

「引き算って――知ってるか?」

「はぁ? 一体何を……」


 言っているのか、と。

 緑髪の少年が言い切る前に、俺はくるりと一枚のカードを見せつけた。


「俺は手札の『死神デスピート』の効果を発動」

「『死神デスピート』……」

「『死神デスピート』は自分のライフが少なければその差だけコストを減らして召喚できる」

「自分と相手のライフの差だと……?」

「そう」


 緑髪の少年が、途端とたんに困ったような表情を浮かべる。

 もしかして、敗北者ですか?

 義務教育の敗北者かな?


「俺のライフは『1』。んで、お前のライフは『18』。さあ、ここで問題です」

「はぁ?」

「『18』引く『1』はなーんだ?」

「あ? ……っ! ま、まさかッ!」


 おい、言えよ。

 まあいいけどさ。


「答えは『17』――よって、『死神デスピート』はコスト『20』から召喚コストを『17』減らし、『3』マナで召喚できる」

「なん……だと……?」

「俺は3マナを使い、手札から『死神デスピート』を召喚!」


 手札から一枚のカードをバトルゾーンに出す。

 そして、真ん中のフィールドに着地したその瞬間。

 突如として、俺たちの周りに黒い霧が立ち込め始めた。


「死よりつかわされし使者よ。今ここにその死を宣告せよ! 召喚! まねけ! 『死神デスピート』!」


『ウケケケケケ!』


 マナ5→2

 手札7→6




 『死神デスピート』

 コスト20/闇属性/アタック10/ライフ10




「な、なにぃ!?」

「コスト『20』!?」

「嘘でしょっ!? コスト『20』ですって!?」

「すごい!」

「あれは……」

「っ! 何か知っているのかシーラ!?」


 ……なんかガヤがすごいことになってるけどいいや。

 バトルに集中集中、っと。


「今の俺のライフは『1』。よって! 『死神デスピート』は真の効果を発動することができる!」

「真の効果だと!?」

「そうだよ」


 緑髪の少年がものすごい形相で俺のことを睨んでくる。

 けど、元から目付き悪かったからな。

 もう慣れちまったよ。


「俺は召喚した『死神デスピート』の真の効果を発動!」

『ウケケウケッ!』

「っ!」


 口元だけが笑うのっぺりとした顔に。

 ボロボロに破けた汚れた白いローブが、ヒラヒラとあざ笑うかのように揺れる。

 緑髪の少年がその不気味な姿を見て、顔を引きつらせる。


 『死神デスピート』はその手に巨大なかまを握り締めると、ゆっくりとその少年に近付いた。


「『死神デスピート』がバトルゾーンに出た時、自分のライフが『5』以下であれば相手のライフを自分のライフと同じにすることができる!」

「っ! な、なんだと!?」


 少年の前に『死神デスピート』が舞い降りる。

 そして、その手に握った鎌を勢いよく振り上げると、それを少年の胸に向かって一直線に振り下ろした。


「お前にやられた分! まとめて返すぜ! 喰らえ! ヘルサイス・デストラクション!」

「ぐあああああああ!?」

『ウケッケケケケ!』


 緑髪の少年の胸に突き刺さった鎌が、小さく揺れる。

 すると、そこから溢れたいくつもの赤い光が次々と鎌の中に吸い込まれていった。


 緑髪の少年

 ライフ18→1


『ウケケケ!』

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……クソっ」


 程よく生命力らしいモノを吸いきった『死神デスピート』が、緑髪の少年の胸から鎌を抜いた。

 一気に力が抜けたのか、少年が膝から崩れ落ちる。


(これ、マジで生命力とか取ってるわけじゃないよな?)


 もし、そうだとしたらどうしよう。

 ……いや、これも立体アクティブバトルの演出だと信じよう。

 うん。

 大丈夫だ、きっと。


「クッソ……だが、俺のライフは……『1』……残ってるぜぇ」

「……そうだな」


 ヤツの言う通りだ。

 『死神デスピート』はいくらでも相手のライフを減らす効果を持っている。

 が、どう逆立ちしても相手のライフを『0』にすることはできない。


 それは自分のライフが『0』になっている、ということだからだ。

 だから、『死神デスピート』トドメを刺せない。


(ま、関係ないんだけどね)


 あくまでも『死神デスピート』の効果はリーサル、つまりは『決着』を早めるためのモノ。


 コイツでトドメを刺せないのなら、




 ――『他のヤツ』でトドメを刺せばいい、ってことだ。




「じゃあ、お望み通り終わらせてやるよ」

「……?」

「『死神デスピート』の更なる効果を発動! コーリング・デッドプール!」

「な、に……?」


 右手を伸ばして合図する。

 それを受けた『死神デスピート』が小さくうなずく。

 『死神デスピート』は右手を鎌から離すと、それを地面に向かって叩き付けた。


「『死神デスピート』は1ターンに1度だけ、ドロップゾーンからコスト6以下の闇属性ユニット1体をノーコスト召喚できる!」

「ば……バカなっ!」

「俺が復活させるのは――『闇少女ダキア』! お前だ!」


 『死神デスピート』の手から静かに広がる紫色の沼。

 そこからゆっくりと現れたのは、白黒のゴスロリ服に身を包んだ一人の少女だった。


 『闇少女ダキア』

 コスト2/闇属性/アタック1/ライフ1

 【効果】

 ①このユニットがバトルゾーンに出た時、このユニットを破壊して発動できる。相手のライフ、または、相手ユニット1体を選んで2ダメージ与える。



「そ……ソイツは……!」

「好きな属性をバカにされたんだ。思いっきりかまさせてもらうぞ! 『闇少女ダキア』の効果を発動! バトルゾーンに出た『闇少女ダキア』を破壊し、相手のライフに2ダメージを与える!」

「まず……!」


 緑髪の少年の瞳が明らかに揺れ動く。

 でも、構いやしない。

 バカにされた分はきちっと返す。


「喰らえ! トドメだ!」


 『闇少女ダキア』が足元に闇を広げ、そこに自分の体を沈めていく。

 恨みがましく少年を睨みつつ、闇の中にその姿が消える。

 すると、今度はそこから大きな闇の塊が飛び出した。


 それが向かう先は当然――緑髪の少年、ただ一人だけ。




「くっ……! うぐあああああああ!」




 闇に包まれ、緑髪の少年が苦しそうな声を上げる。

 せっかくだし、ついでに一言付け足してやるか。

 やられた分はきっちりやり返す。


 フッ、と小さく息を吸って。


 そして――吐き出した。







「闇属性めんじゃねーよ、バーカ」




 緑髪の少年

 ライフ1→0










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