第55話 このドローに全て掛ける
「俺のターン、ドロー!」
緑髪の少年
マナ0→4
手札0→1
デッキの上に指を乗せ、一枚ドロー。
……どうやらいいのを引いたみたいだな。
「来たなっ。俺は3マナを使って、手札からスペル『
マナ4→3
手札1→0
「マジか」
「『双来風撃』の効果で俺はドロップゾーンからコスト2以下のユニットをノーコスト召喚できる! さあ来い! 『風少女フワン』!」
『風少女フワン』
コスト2/風属性/アタック1/ライフ1
【効果】
①このユニットがバトルゾーンに出た時、このユニットを破壊して発動できる。相手の手札を1枚選んで捨てさせる。
(『風少女フワン』……)
そんなカードまで持ってたのか。
「そして! 俺は『双来風撃』の更なる効果を発動! このスペルは自分の手札が0枚以下であればコスト4以下の風属性ユニットをドロップゾーンからノーコスト召喚できる! 俺はドロップゾーンから『荒ぶるハヤブサ』をノーコスト召喚だ!」
『荒ぶるハヤブサ』
アタック2/ライフ1
『速攻』
ドロップゾーンから再び
一度は消えたはずの小さな鳥が、新しい風に吹かれて飛び上がる。
こうして。
緑髪の少年のバトルゾーンに、四体のユニットが並んだ。
『暴風龍ゲオゴス』
アタック4/ライフ3
『速攻』
『
アタック3/ライフ2
『速攻』
『風少女フワン』
アタック1/ライフ1
『荒ぶるハヤブサ』
アタック2/ライフ1
『速攻』
「そして、俺はバトルゾーンに出た『風少女フワン』の効果を発動! こいつを破壊し、相手の手札を1枚選んで捨てさせる!」
効果を発動させたことで、長い前髪で目元を隠した緑色の少女の体をいくつもの風が包み込む。
やがて。
少女の姿が消えて、残ったのはグルグルと渦巻く風の塊が一つ。
すると、そこから伸びた小さな風が、いきなり俺の手札に向かって吹き付けてきた。
「うおっ!?」
手札3→2
やってくれるじゃねえか。
でも、今はそんな余裕をぶっこいてる暇はない。
『暴風龍ゲオゴス』
アタック4/ライフ3
『速攻』
『
アタック3/ライフ2
『速攻』
『荒ぶるハヤブサ』
アタック2/ライフ1
『速攻』
(マ、マズイですね……)
どいつもこいつも全部『速攻』を持ってやがりますね。
だが、この中で一番キツイのは『暴風龍ゲオゴス』だ。
アタックも大きいし、攻撃する時に相手の手札を一枚捨てさせる効果も持っている。
早めにヤツをどかさないとそのハンデス効果によって俺の手札は毎ターン削られることになる。
……アイツ、強くね?
「あと『7』か……」
ゲオゴスで四ダメージ。
風来坊で三ダメージ。
で、ハヤブサで二ダメージ。
全部を合わせればその合計は九ダメージ。
(……耐えられるか?)
いや、そこまでいったら流石に無理やろ。
風属性は超攻撃特化の属性。
そんなヤツ相手にたった『7』しかないライフを守りきれるほど闇属性は強くない。
マナが多ければどうにかできた可能性もあったけど、これでまだ四ターン目とかいう事実。
一応、次の俺のターンが来れば使えるマナは五マナ。
だけど、この状況を打破するにはちょいと……じゃなくて結構マナが足りない。
前のターンに『死の商人ドエグ』じゃなくて『苦鳴の龍ベルギア』が引けてれば良かったんだけどな。
現実は非情である。
ってことか。
(アレに……かけるしかないのか)
俺に残された手札は二枚。
その中に、この状況で使えるようなカードはない。
となると俺はデッキの中に眠っているであろう一枚のカード。
それを引かなくてはいけない、ということになる。
(
『
自分のデッキを信じ、願いを込めて欲しいカードをドローする。
ただ、それだけ。
要は『全てを掛けたドロー』のことだ。
別の言い方だと『トップ解決』とかもある。
でも、俺は響きが好きだから『
「さあ、かますぜ! まずは『死風の風来坊』で攻撃! 効果発動! 『死風の風来坊』の効果で攻撃する時に相手のコスト2以下のユニット1体を選んで破壊する! 失せろ! 『死の商人ドエグ』!」
「くっ! だが、俺は破壊された『死の商人ドエグ』の効果を発動! ドロップゾーンのカードを一枚デッキの下に置く!」
「はっ、それがどうした! そんなんじゃあ攻撃を止めることはできねぇ! やれ! 『死風の風来坊』!」
「ぐぉあ!?」
『死風の風来坊』
アタック3
クロハル
ライフ7→4
「ぐっ!」
鋭い一撃が俺の体を襲う。
しかし、
「まだまだぁ! 『荒ぶるハヤブサ』で攻撃!」
「ぐっ! 俺は『荒ぶるハヤブサ』の攻撃に合わせて、ドロップゾーンにいる『スケイルゾンビ』の効果を発動!」
「なにっ!?」
『アレ』に全てを掛ける以上、その布石を置かなくてはいけない。
だから、俺は――ここで『スケイルゾンビ』の効果を発動させる。
「相手がユニットで攻撃する時! 『スケイルゾンビ』は自分のライフに『3ダメージ』を与えることでドロップゾーンからノーコスト召喚できる!」
「はっ?」
「『スケイルゾンビ』をドロップゾーンからノーコスト召喚! そして、ガード!」
クロハル
ライフ3→1
『荒ぶるハヤブサ』
アタック2/ライフ1→アタック2/ライフ0
『スケイルゾンビ』
アタック1/ライフ1→アタック1/ライフ0
ドロップゾーンから飛び出した『スケイルゾンビ』が俺と『荒ぶるハヤブサ』との間に割り込む。
小さな翼で打ち抜かれ、ライフのなくなった『スケイルゾンビ』がカードの中へと姿を消す。
宙を舞う『スケイルゾンビ』のカードがひらり空中でその向きを変える。
そして、『裏向き』になった『スケイルゾンビ』はパタリ、と小さな音を立ててドロップゾーンに落ちた。
「はっ! 『2ダメージ』で済んだものを『3ダメージ』にしたとはな! 負けでも認めたか!?」
「……自身の効果でノーコスト召喚した『スケイルゾンビ』はドロップゾーンに送られる時、裏向きにして置かれる」
「ならもう攻撃は防げねぇ!」
あぁ、知ってるさ。
あと残ってるのは、っと。
「こいつで一気にぶっ飛ばす! いけ! 『暴風龍ゲオゴス』! エアロフォース・グラビトン!」
緑髪の少年が声を張り上げ、『暴風龍ゲオゴス』が大きく口を開ける。
その口に続々と風が集まって、大きな塊を作り上げていく。
あんなものを今の状態で喰らえば大怪我なんてものじゃ済まないだろう。
だが、そうはさせない。
「っ、俺は『暴風龍ゲオゴス』の攻撃に合わせてデッキの下から『カースドウォーリアー』の効果を発動!」
「知るか! やれっ!」
相手の『暴風龍ゲオゴス』が翼を広げ、口に溜まった大風を一気に吐き出そうとする。
しかし、それよりも早く。
光を帯びた俺のデッキがその一番下から一枚のカードをドロップゾーンに吐き出す。
そして、その口から暴風が放たれた。
「うぐぁあ!?」
『暴風龍ゲオゴス』の放った暴風に打ちのめされ、体のあちこちから悲鳴が上がる。
あまりの衝撃に膝を突き、ガクンと腰が折れ曲がる。
しかし、俺は
「ぐっ……」
「クロハル君っ!」
(だ、大丈夫だ……)
甲高い声でアルスが叫ぶ。
アルスがこっちに来ようとしたのが見えた俺は右手でそれを制すると、ゆっくりと立ち上がった。
(クッソ……なんでこんなに
けど、ここまでリアルな
そのことで、俺は内心で激しく動揺していた。
(っ!? これ、マジで破けてんじゃん!?)
試しに自分の服を触ってみると、驚いたことに本当に破けている。
うせやん。
今までそんなことなかったのに。
(何で……?)
周りが大きく騒がないのは、まだ
一体、何が起こっているのか。
まだ全然理解できてはいないが、今はこのバトルを続けるしかない。
肩を大きく揺らしながら、俺は緑髪の少年に目を向けた。
「バ、バカなっ! ダメージを、受けていないっ!?」
緑髪の少年がその目を大きく怒らせている。
……このままじゃ
俺はチラリと自分のドロップゾーンを見てから口を開いた。
「……『カースドウォーリアー』の……効果だ」
「何……?」
「『カースドウォーリアー』は……デッキの下からドロップゾーンに送ることで……一度だけ……自分へのダメージを『5』……減らすことができる」
「はぁ!?」
『カースドウォーリアー』の効果を聞いた緑髪の少年が目を大きく剥く。
それはそうだ。
『デッキの下』から効果を発動できるカードなんてヤツからしたら聞いたこともないだろう。
だから、
(……あんまり使いたくなかったんだけどな)
今、このバトルはみんなに見られている。
そんな中で新しいカードを当たり前のように使いこなせば、当然、怪しまれる。
何だったら変に勘繰られるかもしれない。
まあ。
それが嫌だったら使うな、って話になっちゃうんだけどさ。
(キッツイなぁ、本当に)
それでも。
このバトルだけは落としたくなかった。
勝って、アイツに闇属性の力を見せつける。
そんな意地のために俺は『カースドウォーリアー』の効果を使ったわけだ。
悔いはない。
「何でそんなカードがデッキの下なんかに……ちっ! 俺はこれでターンエンドだ!」
「くっ……なら俺は! 相手のエンドフェイズに合わせてスペルゾーンから『呪いの契約』を発動!」
「なんっ!?」
クロハル
スペルゾーン3→2
「『呪いの契約』は自分のライフに5ダメージ以上受けたターンのエンドフェイズにノーコストで発動できる! 本当なら3枚しかドローできないが、この効果で発動した時はカードを5枚ドローできる!」
「はぁ!?」
「えぇ!?」
「っ!?」
あまりにも強力な効果に周りから驚きの声が上がる。
けど、これだけ強力なドロー効果だ。
当然だけどデメリットな効果もある。
「だが、『呪いの契約』は! 発動した次のターンのエンドフェイズに、自分の手札を全て捨て――捨てた枚数1枚につき、自分のライフに1ダメージを与えなければならない!」
「そ、それじゃあ!」
『呪いの契約』の効果を聞いてアルスが悲痛そうな声を上げる。
だが、緑髪の少年は反対にニヤリと嫌な笑みを浮かべた。
「ははっ! 『最後の抵抗』ってわけか!」
「……あぁ、そうだよ」
俺のデッキには五枚の手札を一ターンで使いきれるようなデッキじゃない。
つまり、次のターンで何もできなければ、
――俺の敗北が、『決定する』。
(頼む……来てくれ!)
デッキの上に指を乗せ、グッと力強く目を閉じる。
そして、
「5枚! ドロー!」
一気に五枚のカードを引いた。
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