第53話 暴風降臨





「っ、あ、あれは……!」

「へぇ……」


 クロハルのフィールドにセットされた二枚のカード。

 それを見た俺は、驚きのあまり無意識のうちに口を動かしていた。


「あれは、お前がヤツとバトルする時にやっていることじゃないか!」

「そうだね」

「まさかクロハルはヤツのデッキを、いや。――『風属性』のことを知っていたのか!?」

「んまぁ、そういうことでしょ」


 いやー、驚いたね。

 と、本当に驚いているのかわからないような声でシーラがぼやく。

 相変わらずこいつは何を考えているのかがわからない。

 ……一応、驚いているのは本当のようだが、菓子を食べる姿はいつも通りだな。


「クロハルのデッキは『闇属性』が中心。……あの感じだと『ミッドレンジ』か『コントロール』かな」

「あ、あぁ、そうだな。だからこそヤツとのバトルでは相性からして不利だと思ったんだが……」

「ルード。その考え方はちょっと浅いかな」

「なにっ?」


 俺が思ったことを述べると、シーラがそれをバッサリと切り捨てた。


「それは一体どういう……」

「まあ見てなよ」


 袋の中に指を入れ、まみ上げた菓子をそのあでやかな口に押し込める。

 そして、シーラは俺のことを見ると、小さく微笑んだ。




「『キング オブ マスターズ』は相性だけが全てじゃない――そういうことさ」




 ☆☆☆




 後攻の二ターン目。

 緑髪の少年は悔しそうに歯噛みしながらデッキの上に指を乗せる。

 何故かにらんできたけど意外と目力めぢからがあって地味に怖い。


「俺のターン! ドロー!」


 緑髪の少年

 マナ0→2

 手札4→5


「くそっ……俺はまず手札から『荒ぶるハヤブサ』の効果を発動!」


 そのカードで来たか。


(なるほど?)

「『荒ぶるハヤブサ』は自分の手札を1枚捨てることでコストを2減らして召喚できる! 俺は手札を1枚捨て」


 手札5→4


「2マナを使って召喚する! 来い! 『荒ぶるハヤブサ』!」


 マナ2→0

 手札4→3



 『荒ぶるハヤブサ』

 コスト4/風属性/アタック2/ライフ1

 【効果】

 『速攻』

 ①手札にこのユニットがあれば1ターンに1度だけ、自分の手札を1枚捨てて発動できる。そのターンのエンド時までこのユニットの召喚コストを2減らす。

 ②このユニットが攻撃したターンのエンド時に発動する。このユニットを破壊する。



 バトルゾーンの真ん中に大きく風が吹き荒れて。

 姿を現したのは一匹の小さな緑色のハヤブサ。


(まあ、攻めて来るよな)


 今の俺には相手の攻撃を止めれるようなカードがない。

 の方を警戒していたんだけどな。

 これは仕方ないか。


「アタックフェイズ! 俺は『荒ぶるハヤブサ』で相手に攻撃!」

「くっ」


 『荒ぶるハヤブサ』

 アタック2


 クロハル

 ライフ20→18


 小さな翼が飛んできて、俺の腹を鮮やかに打ち抜いた。

 痛みはないけど、衝撃が思ったより強い。

 どんな感じかと言うと、柔らかいバットで叩かれたような感覚……が近いかもしれない。


「最後に『荒ぶるハヤブサ』の効果を発動! 攻撃した『荒ぶるハヤブサ』はターンのエンド時に破壊される! これで俺はターンエンド!」

「……そうか」


 相手のターンが終わる直前。

 『荒ぶるハヤブサ』は力尽きたかのように羽を休めると、そのまま小さな光となって消え去った。

 俺はその光景を見届けてからデッキの上に手を乗せた。


「俺のターン、ドロー」


 クロハル

 マナ0→3

 手札2→3


「俺は手札から『漆黒のダースデーモン』の効果を発動」

「そのカードは……」

「自分のライフに2ダメージを与えることで、このユニットはコストを2減らして召喚できる」


 クロハル

 ライフ18→16


「3マナを使い、手札から『漆黒のダースデーモン』を召喚」


 マナ3→0

 手札3→2


 『漆黒のダースデーモン』

 コスト5/闇属性/アタック2/ライフ3

 【効果】

 『ガード』

 ①このユニットが手札にあれば1ターンに1度だけ、自分のライフに2ダメージ与えて発動できる。そのターンのエンド時までこのユニットの召喚コストを2減らし、アタックとライフを+2する。

 ②このユニットがバトルで相手ユニットを破壊した時に発動する。相手のライフに2ダメージ与える。


「そして、『漆黒のダースデーモン』の更なる効果を発動。コストを減らして召喚した『漆黒のダースデーモン』はアタックとライフを+2する」


 『漆黒のダースデーモン』

 アタック2/ライフ3→アタック4/ライフ5



「……ちっ。めんどくさいのを出しやがって」

「そりゃあどーも。これで俺はターンエンド」


 とりあえず『ガード』持ちをフィールドに出して、お茶をにごしておく。

 しかし、だ。


(……ちょいと痛いな)


 次に相手が使えるマナは三つ。

 そして、相手の今の手札は三枚。

 ドローすれば四枚になる。

 そうなると、『ヤツ』が飛んでくる可能性が非常に高い。


(一応『アレ』のケアはしといたけど、一気に動かれると困るなぁ)


 ここまでは静かにターンが動いてきた。

 だが、重要なのは次のターンからだ。

 できれば『ヤツ』だけはにぎってないで欲しいところなんだけど。


「俺のターン、ドロー!」


 緑髪の少年

 マナ0→3

 手札3→4


「……ふっ。行くぜ」

(……)


 ダメだったか。

 相手が不敵に笑ったのを見た俺は、こっそりと溜め息をこぼす。

 ここからは大変そうだ。

 そうげっそりする俺に、緑髪の少年は一枚のカードを表向きにして見せてきた。


「俺は手札から『暴風龍ゲオゴス』の効果を発動! こいつは手札を3枚捨てることで召喚コストを3減らすことができる!」

(……やっぱり持ってたかぁ)


「俺は手札を3枚捨て」


 手札4→1


「手札から『暴風龍ゲオゴス』を3マナを使って召喚する!」


 マナ3→0

 手札1→0


 ――来る。

 緑髪の少年が高らかに宣言すると同時に、一枚のカードがバトルゾーンに叩き付けられる。

 その瞬間。

 さっきの『荒ぶるハヤブサ』とは比べものにもならない大風がカードから一気にき出し始めた。




「風を宿せし龍よ! 今ここに荒れ狂う嵐となって現出げんしゅつせよ!」




「くっ……」


 カードから噴き出した風が、今度は竜巻のように巻き上がる。

 その勢いに体が引っ張られそうになった俺は思わず右腕をかかげて、抵抗をこころみる。

 そんな俺の目の前に、一匹の龍が姿を現した。




「全てをぶっ飛ばせ! 『暴風龍ゲオゴス』ッ!」




 全身をおおう翡翠ひすい色のうろこ


 ずんぐりとした大きな胴体と、それに不釣り合いな小さな四つの足。


 地に落ちることなく、体よりも遥かに大きな翼を広げ。


 荒れ狂う風の中から紅い瞳をギラギラと輝かせた龍は、




『ギガアアアアアアアアアアアアア!!』




 フィールドに現出するや否や、大きな雄叫おたけびをとどろかせた。





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