第52話 相性にプレイング
「俺のターン」
クロハル
マナ0→2
「ドロー!」
手札4→5
(さて)
先行の二ターン目。
俺はドローしたカードを持ったまま、ジッと手札に目を向ける。
(どうすっかな)
風属性か……。
厄介だ。
ものすごく厄介だ。
(風属性……風属性なぁ)
相手のフィールドを見る。
そして、そこに並ぶ二体のユニットの姿に、溜め息を吐く。
結論から言ってしまおう。
『闇属性』は『風属性』に弱い。
残念なことだけど、これは俺だけがそう思っているのではない。
多分だけど、全てのキンマスプレイヤーが同じ答えを出すはずだ。
理由はたった一つ。
それは――『風属性』自体が他の属性よりも『攻撃』に特化している属性だからだ。
デッキタイプで言えば、『速攻』。
要するに風属性のデッキはとにかく速く、とにかく荒れる。
そういう属性なわけだ。
それに対して。
本来、闇属性はカードの合わせ方でデッキタイプを自由に変えられるという強みがある。
だけど、俺が今使っている闇属性デッキは、どっちかというと『コントロール』に近い。
で、ここで一つ。
デッキタイプの相性を思い出して欲しい。
『速攻』は『ミッドレンジ』に弱く。
『ミッドレンジ』は『コントロール』に弱い。
そして。
『コントロール』は――『速攻』に弱い。
ここまで来れば流石にわかるだろう。
そう。
今の俺の闇属性デッキとヤツの使う風属性デッキはまず、デッキタイプの相性って時点で不利。
さらに、闇属性はライフが減ってからが本番なのに対して、風属性は弱った相手を一気に仕留めるのが得意。
こういう理由で、『闇属性』は『風属性』に弱い、と言われている。
まあでも、だ。
「俺は2マナを使い、手札から『闇少女ダキア』を召喚する」
クロハル
マナ2→0
手札5→4
『闇少女ダキア』
コスト2/闇属性/アタック1/ライフ1
【効果】
①このユニットがバトルゾーンに出た時、このユニットを破壊して発動できる。相手のライフ、または、相手ユニット1体を選んで2ダメージ与える。
「『闇少女ダキア』だと?」
「俺は『闇少女ダキア』の効果を発動。召喚したこのユニットを破壊し、俺は『干からびた
「くっ、めんどうな……!」
『闇少女ダキア』の効果によって。
散り
あとは、
「さらに。俺は手札から――カードを2枚、スペルゾーンに『セット』」
手札4→2
スペルゾーン0→2
「っ!? そ、それはっ!」
「そして、アタックフェイズ。俺は『ダークスライム』で相手の『グリンスライム』に攻撃!」
「ちっ!」
俺の指示でもぞもぞと黒いわらび餅が動く。
対する相手の緑色のわらび餅も、もぞもぞと黒いわらび餅にわらび餅する。
これ、攻撃なんか?
自分で言っててわかんなくなってきたけど、まあいいや。
とにかく。
正面からぶつかる二つのわらび餅。
だが、わらび餅たちはぶつかったまま動きを止めると、いきなりぐったりとその場に溶けた。
不覚なんだけど。
それを見た俺はちょっと可愛いなと思った。
『ダークスライム』
アタック1/ライフ1→アタック1/ライフ0
『グリンスライム』
アタック1/ライフ1→アタック1/ライフ0
ライフが『0』になり、ゆっくりと蒸発するスライムたち。
だがそこで、俺は一人でムズムズと動いていた『ダークスライム』の効果を発動させた。
「俺はバトルで破壊された『ダークスライム』の効果を発動。相手のライフに2ダメージを与える」
「ぐぎっ!」
緑髪の少年
ライフ20→18
蒸発しながらも、急に破裂した『ダークスライム』。
そこから飛び散った小さな破片がちょこちょこと降り掛かると、相手のライフが少しだけ減った。
けど、なんだろう。
これじゃあイジメで精神ダメージ与えてるみたいやん。
やめてよ。
「……俺はこれでターンエンド」
最後は少し微妙な気持ちになってしまったが、何とか心を入れ替える。
(風属性……ほんと、ダルいなぁ)
相性が悪い、だとか。
何だとか。
色々言ったと思う。
でもな。
そもそも『キング オブ マスターズ』は相性だけで全てが決まるようなカードゲームじゃない。
(まあ)
デッキや属性の相性が悪いなら。
それを自分のプレイングスキルでカバーしてしまえばいい。
簡単な話。
(勝つけど)
相手がどうであれ、勝ってしまえばいい。
つまり、
――勝てばよかろうなのだ。
☆☆☆
クロハル君と、緑色な髪の毛の男の子のバトル。
それをジーッと見ていた僕は、いきなりのことに頭にハテナを浮かべた。
「カードを『セット』……?」
……知らないやり方だ。
メリルさんなら知っているのかな。
そう思って、僕は隣にいたメリルさんに話しかけた。
「ねえ、メリルさん。クロハル君がスペルゾーンにカードを置いたんだけど、あれってなに?」
「えっ、アルス知らないの?」
「うん」
そんなに不思議なことだったのかな。
僕のことを変な目で見てくるメリルさん。
だけど、すぐに一人で納得すると大きな溜め息を吐いた。
「いい? あれはね『セット』っていうの」
「セット?」
「そう。スペルゾーンってスペルを発動するために使うのは知ってるでしょ?」
「うん!」
スペルカードを発動するためには、コストの分だけマナを使ってからスペルゾーンにカードを出す。
そうしないと、ちゃんとスペルカードを使うことができないのだ。
そのことはクロハル君が僕に教えてくれたことだからしっかりと覚えている。
でも、それだけじゃないみたい。
「だけど、それだけじゃない。スペルゾーンではね、もう一つできることがあるの」
「それが『セット』ってこと?」
「そうよ」
僕の目の前にメリルさんは右手を持ってくる。
するとそこから、ピシリと人差し指を上に向かって伸ばした。
「スペルゾーンでは、ああやってカードを裏向きにして置くこともできる。それを『セット』って言うの」
「へぇ~、そうなんだ!」
「そうなの。でも、『セット』ができるのは『スペルゾーンだけ』だから間違えちゃダメよ?」
「うん! わかった!」
やっぱり、メリルさんもクロハル君もすごいや。
僕の知らないことをたくさん知っているんだ。
いいなあ。
僕ももっと頑張って二人みたいに強くならないと。
だけど、そうやってグッと手を握り締めた僕の横。
そこでメリルさんは、小さな声でポツンと呟いた。
「でも、何故かしら」
(……?)
話しかけられたのかと思ったけど全然違った。
メリルさんは口の下に丸くした指を当てながら一人でポツポツと言葉を続ける。
「カードを『セット』するのは多くなった手札を整えるためにやるのが普通のはずだけど」
「えっ?」
それを聞いた僕は思わず声を上げた。
もし、メリルさんの言ったことが本当ならクロハル君はカードを『セット』する必要がない。
だって、
――クロハル君の手札はほんのちょっとしか残ってないから。
「一部のカードは『セット』することで効果が発動できるものもある、なんて聞いたこともあるけどクロハルのデッキにそんなカードはなかったはず。……何か、狙いでもあるのかしら?」
「……」
わからない。
でも、クロハル君のことだからきっとカードをセットしたのには理由があるんだと思う。
(ちゃんと、見ておこう……!)
いつか、あの戦い方が必要になるかもしれない。
だったら、ああいうやり方も覚えなきゃいけない。
そう考えた僕は、クロハル君たちのバトルを忘れないようにしっかりと目を向けることにした。
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