第49話 あたらしいおともだち





 というわけで美少女、いや、シーラの名乗りが終わった。

 そこで今度は俺たちの方から自己紹介することになった。

 まあ、そういうわけなんだけど。


「さっきは失礼したね。お詫びに名前を教えてもらっても?」

「……メリル。メリル・サーシュトリアよ」

「そっか。メリルね。よろしく」

「……えぇ、よろしく」


 あの一連のやり取りで機嫌を損ねたメリル。

 けど、相手の方から申し訳なさそうに迫られるとやはり押されてしまうらしい。

 シーラが言った通り、こいつは意外と素直な性格なのかもしれないな。

 渋々と頬を膨らませながらも、メリルは出された手を握った。


「で、君は?」

「えっ、僕?」


 今度はアルスか。

 さっきからずっと黙っていたアルスがギョッとしてシーラの方に顔を向ける。

 いきなり話しかけられたらそうなるよな。

 わかる。

 わかるぞ。


「えっとね、僕はアルス・アルバートって言うんだ!」

「アルス、か。覚えておくよ。よろしく」

「うん! こちらこそよろしく! えっと……名前なんだっけ?」

「シーラ」

「シーラさんか! ゴメンね、名前ちゃんと覚えてなくて」

「大丈夫かな。私もよく人の名前忘れるし」

「あっ、そうなんだ!」


 君たちさ、打ち解けるの早くなーい?

 と言ってもアルスは俺たちの中でもトップクラスのコミュニケーション強者。

 すぐに打ち解けたとしてもそこまで不思議だとは思わなかった。


(相変わらず凄いなアルスは。友達製造機やんけ)


 裏表のない性格だし、人の悪口を言ったりもしない。

 おまけに人の話はちゃんと聞くし、深入りして欲しくない部分は自分から引いてくれたりもする。

 なんかこう、ラインと言えばいいのか線引きと言えばいいのか。

 アルスはそういった部分がしっかりしているので、一回話し始めると後は勝手に話が進んじゃうのだ。

 で。

 気が付いたらいつの間にか友達になってる、ってわーけ。

 本当にアルスとシーラは俺と同世代なのか疑っちゃうね。

 俺を見習ってくれ。


「じゃあ、次は俺か」

「あ、クロハルはパスで」

「アッ、ハイ」


 うん、知ってた。

 まあそうだよね。

 そうなるよね。

 だって、自己紹介で教えるようなことないもん。

 ……自分で言っててちょっと悲しくなってきた。


「さて、と。これでやっと本題に入れそうだね」

「……本題?」

「ふふん」


 色々あったけど、自己紹介は何とか終了。

 だけど、シーラ的にはこれからが本題なのだそうで。

 一体どんな話をするのやら。

 俺は胸をワクワクさせながら、本題とやらを聞くことにした。


「で、その本題というのは?」

「ん? あぁ、大したことじゃないよ。私の友達を紹介するだけだから」

「え、友達……?」


 こいつ、友達なんていたんだ。

 とか思ってたらシーラの澄んだ瞳が俺の目をじっと覗いてきた。

 ……えっ?


「な、何か?」

「いいや? 何でもないけど」

「ソ、ソーナノカー」

「ふふん?」


 お、恐ろしいでぇ……。

 これも女の勘というヤツなのだろうか。

 それとも、コイツ自身の特技か何かなのだろうか。

 兎にも角にも、戦慄した俺はそっとシーラから目をらした。

 ヤマシイコトハナニモナイヨー。

 ホ、ホントダヨー。


「ねね、シーラさん」

「何かな?」

「シーラさんの友達ってどんな人?」

「そうだね。お話するのがちょっと苦手かな。悪い子ではないんだけど」

「そうなんだ!」

「友達ってことはその人たちもマスターよね?」

「まあね。でも、デッキとかは教えないよ?」

「そんなこと聞かないわよ」


 んー、すごいね君たち。

 ガンガン話し掛けるじゃん。

 ということは、だ。


(もしかしてコミュ障なのは俺だけ……ってコトォ!?)


 それはいかん。

 けど、三人は知り合ったばかりとは思えないくらいに談笑してる。

 そこに割り込むのはちょっと気が引けるな。

 と言っても、約一名は表情筋が固いままだけど。

 まあ、いいか。

 俺も聞きたいことあるし。

 聞きたいことだけ聞いてあとは流れに任せよう。


「なあ、シーラ」

「ん? 何かな?」

「その友達ってのは今来てるのか?」

「まだだよ」


 まだ来てないんかい。


「すぐに来るとは思うけど」

「そうか」

「あー、でも、どうだろう。この街には来たばかりだから道に迷ったりで少し遅くなるかも」

「ほーん」


 来たばっかり、ね。

 ということは、シーラは別として。

 その友達とやらは間違いなく『大会』が目当てだな。


(けど、シーラの友達か……)


 俺は頭の中で昨日の見た美少女のバトルを思い返していた。

 巧みに相手の攻めをくぐり抜け。

 一つ一つ着実に相手の力を封じていく。

 攻め手に欠ける光属性を、あそこまで自在に操るその実力は間違いなく本物。

 そんなシーラの友達ともなれば、実力もかなりのモノのはず。

 あとは、


(属性、だな)


 シーラが使ったのは『後期カラー』の一つである光属性。

 だとすれば。

 その友達とやらが使うデッキも同じ『後期カラー』の可能性が高い。

 そうなるとこの街では見れなかった属性とバトルができるというわけだ。

 仮に違うデッキだったとしても実力に問題はないだろうし。

 うーん。

 本当に楽しみだ。


(いつ来るかなー)


 俺との話が終わって、再び俺以外の三人が話し始める。

 仲良いね。

 羨ましいかぎりだよ。

 腰のホルダーから二つのデッキケースを外し、テーブルの上にポンッ、と置く。

 一つはデッキ用で、もう一つは予備のカードを入れる用だ。

 価格は一個で五百ルーツ。

 意外と高かった。

 で。

 それを出してどうするのかというと、こうする。


「デッキの調整でもするか……」


 結局。

 俺は三人の輪の中に入るのを諦めた。

 その代わりに。

 三人の楽しそうな談笑を聞きながら、隣で一人寂しくデッキ調整を行うことにしたのだった。




 ☆☆☆




 しばらくして。

 デッキの調整もとっくに終わった俺は、カードコーナーでカードを漁っていた。


「どうだ? 良さげなカードとかあったか?」

「ううん。あんまりだよ。やっぱりレアなカードは全部こっちに入ってるみたい」

「そうか……」


 カードを漁っていたのは俺だけではない。

 途中でこっちに来たアルスと、あとは、


「へぇ。本当に光属性とかはないんだね」

「言ったろ?」


 何故かシーラもこっちに来た。

 なんでも光属性のカードが置いてないことを信じられなかったそうだ。

 その気持ちは流石に俺でも理解できる。

 俺も最初は『前期カラー』と『後期カラー』が全部あると思ってたからな。

 ずっと待ってても出てこないからさ。

 ない、と分かった時は軽くショックだったよ。


「そういえば、お前の友達っていつ来るんだ?」

「そうだね。すぐ来ると思ってたんだけど……ちょっと遅いかな」


 顔を動かしたシーラに釣られて、俺も壁の時計に目を向ける。

 時刻はさっき話をした時間からもうすでに三十分くらいは優に過ぎていた。

 こうなると見知らぬ人でも少し心配になるな。


「これ、迎えに行った方が良かったんじゃないか?」

「んー、まあ、大丈夫でしょ。地図だって持ってたし、街もそこまで広いわけじゃないから」

「そうかぁ?」


 確かに、地図があるなら大丈夫かもしれない。

 余程よほどの方向音痴、ってわけでもなさそうだし。


(まっ、あんまり遅かったらその時に皆で探しに行けば大丈夫だろ)


 我ながら楽観視し過ぎかな。

 でも、この世界は前の世界と違う。

 たとえ不審者と遭遇そうぐうしたとしてもバトルでぶっ飛ばせばそれだけで無事に解決するのだ。

 そう。

 ううーん、安心していいのかどうか逆にわからなくなってきたな。

 自分で言っといてアレだけど。

 と、再びカードの入ったストレージに目を落として――




「あっ」

「おん?」




 遠くから小さく聞こえたドアの動く音。

 それに反応して顔を上げたシーラが急に声を上げた。


「やっと来たね。こっちこっち」


 シーラが声を出し、ちょっと投げやりな調子で手を振る。

 今ので色んな人の視線が一気にシーラの方へ集まった。

 そんな中、大きな反応を見せたのは二人の少年だった。


「あっちのようだな」

「行くぞ」


 やって来るのは、ちょっと大柄な黄髪の少年と緑髪の小柄な少年。

 その姿を目敏めざとく見つけ、二人と向き合ったシーラは二ッと悪戯いたずらな笑みを浮かべた。


「やっ。二人共遅かったね」

「すまない。途中で道がわからなくなった」

「そうなんだ。ルードも迷子になるんだね」

「お前は俺を何だと思ってるんだ……」


 ルード、と呼ばれた黄髪の少年が額を押さえながら溜め息を吐く。

 だがそこで、妙に黙りこくっていた緑髪の少年が口を開いた。


「お前、ここで何やってたんだ?」

「ん? 見ての通りだよ。カードを見てただけかな」

「ふーん……」


 どうやらこの二人がシーラの友達のようだ。

 だが、高圧的な話し方をする緑髪の少年が何故か俺の方を見てくる。

 なんだなんだ。

 俺、なにかやっちゃいました?

 と言っても俺、何もやらかした記憶はないんだが。


「でも、丁度良かった」

「なに?」

「……?」


 急な言葉に少年たちが眉をひそめる。

 そんな二人に小さく微笑んだシーラは、


「お待たせ。この二人が私の友達だよ」


 そう言いながら。

 二人に背中を向け、俺たちの方を向いてから大きくその両手を広げた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る