第50話 友情はバトルの後で





 少しずつ華やか……じゃなかった。

 にぎやかになってきたな。

 俺は目の前にいるシーラと二人の少年。

 そのやり取りを見ながらそんなことを思った。


「ほらほら、早く自己紹介しなよ」

「何で俺が……」

「いいじゃん。せっかく知り合いになったんだし」

「それはお前だけだろ」

「それはそう」


 シーラが催促さいそくし、緑髪の少年が難色を示す。

 どういった流れなのかというと、ただ単に新しい友達ができたから挨拶しろ、ってだけだ。

 他意はない。

 なのだが、どうやら件の少年の方は機嫌が悪いみたいだ。

 さっきからずっとシーラと言い合いを繰り広げている。

 おまけに顔も赤くなっている。

 何か気に入らないことでもあったのかね。


「うちの連中が迷惑を掛けたようだな」

「んえ?」


 二人のやりとりを目を丸くして見ていた俺とアルス。

 そんな俺たちのところに黄髪の少年がのっしのしとやって来る。

 それから俺と目が合うや否や、その少年が話し掛けてきた。

 名前は確か、ルードとか呼ばれていたな。


(それにしても……)


 体は俺よりも大きい。

 しかも、顔は目と鼻がくっきりとしている。

 けど、イケメンというよりは強面こわもてだ。

 あと何か運動でもしていたっぽいな。

 そこそこだけどガタイも良い。

 で、そんなヤツが一体何の用なのか。

 喧嘩はできないから嫌だぞ。

 リアルファイトはダメ、絶対。

 これがせめてもの抵抗だ。

 俺はこちらを見てくる黄髪の少年にジッと目線を返した。


「そっちは……」

「あぁ、すまない。俺はルード・グラダイア。シーラのダチをやっている」

「そうなのか。俺は天見……じゃなかった。クロハル。クロハル・アマミだ」

「クロハル……なるほど」


 名乗られたので普通に名乗り返したら、今度は勝手に何かを考え始めた。

 でも、意外だったな。

 こうして話してみると見た目よりかはあんまし怖くはない。

 むしろ、なんと言うかだな。

 ルードからはシンパシー……みたいなのを感じる。


「……昨日はシーラが世話になったようだな」

「えっ?」


 とか思ってたらいきなり頭を下げられた。

 とはいえ、会釈程度の軽いものだけど。

 でも、だ。

 コイツってもしかして……。


「話はすでにシーラから聞いている。菓子を買わせた、と聞いた時は流石に頭が痛くなったが……」

「あー……うん」


 ルードが話を進める度にドンドンと顔に影が差していく。

 眉間みけんにシワが寄っているのを見ると、本当に頭痛がしたらしい。


(コイツ……もしかして良い人?)


 友達のために頭下げれるとか優しいじゃん。

 良い人じゃん。

 すごいじゃん。

 俺の中でルードの好感度が上がった。


「でも、一緒に飯を食ったりしてさ。俺も色々と楽しかったから」

「……お前、良い奴だな」


 どうやら、いつもはコイツがシーラに振り回されているようだ。

 ルードが俺のことを驚いたような目で見てくる。

 もうそれだけでわかったよ。


「ルードだっけ? お前、いつも苦労してんだな」

「っ! わかって……くれるのか……!」

「あぁ、わかるよ」


 俺も昨日振り回されたからな。

 今ならルードの気持ちを理解できる。

 なるほど。

 ルードにシンパシーを感じていたのはこういうことだったのか。

 体の大きな少年が感激に震えるのを見ながら、俺の目は遠くを向いた。


「クロハルだったな。これからもよろしく頼む。本当に……本当に……!」

「お、おう」


 どうやら本当に今まで苦労していたらしい。

 急に俺の肩を掴むと、その手にグッと力を入れながら涙を拭い始めた。

 涙もろいじゃん。

 というか肩痛い!


(あががががが! 助けてくれ! アルス!)


 痛い痛い痛い痛い。

 普通に痛いんだが。

 力込めすぎィ!

 このままじゃ俺の肩が持ってかれてしまう。

 そう思ってアルスの方を見たんだけど、


(うおおおい!?)


 アルスは俺とルードのことを見ながら口を開けていた。

 ただポカンとしていて動き出す様子は微塵みじんもない。

 何をしてんだアルス!

 助けろ!

 俺を助けろ、ください!

 助けてぇ……!


「そういえば、そこにいるのは……」

「っ!」


 そうやって強く念じたことがこうをなしたのか。

 正気に戻ったルードが手から力を抜いてアルスを見た。

 チャンスだ!

 俺もアルスを見ると、そっちに向かってスッと手を伸ばした。


「あいつはアルス。俺のダチだ」

「そうなのか」

「えっ? あっ、うん! 僕はアルス・アルバート。クロハル君と友達だよ!」

「アルス・アルバートか。良い名前だな。俺はルード・グラダイアだ。よろしく頼む」

「うん! よろしくねルード君!」


 アルス君、良い笑顔です。

 やっとこさ俺から興味が移ったみたいだ。

 さて。

 ルードがアルスと握手をしたことで、ようやく俺の肩が解放される。


(長かった……)


 軽くだけどまだ肩がジンジンするよ。

 筋肉痛か、これ。

 まあいいや。

 自分の肩に触れて、優しく揉みほぐす。

 うんうん。

 普っ通に痛い。


(これもう肩こりだよ、肩こり)


 さっきまでは全然痛くなかったんだけどな。

 握力ってすげえや。

 自分の肩をモミモミしながら、アルスと話すルードを見てそんなことを思う。

 すると丁度その時、


「……おい」

「ん?」


 言い合いは終わったのか、今度は緑髪の少年が俺の方にやって来た。

 チラッと奥の方に目を向けると、そこではシーラが肩をすくめている。

 これはアレだな。

 終わったというよりは保留になった感じみたいだ。

 とか、呑気のんきに考えてる場合じゃなかった。


「お前がクロハルだな」

「まあ、そうだけど」


 何だコイツ。

 俺のことを睨みつけてくるんだが。

 俺、何かやっちゃいました?


「俺とバトルしろ」

「えぇ……」


 何でやねん。

 いや、当たり前なのは知ってるけどさ。

 挨拶あいさつの代わりにバトルを吹っ掛けるのはやめてもろて。

 ここは平和に話し合いでもしようよ。


「何だよ。嫌なのか?」

「嫌とかではないけど」

「ふぅん……」


 なんか高圧的だな。

 どうしよう。

 会話も続かないし、困ったな。


(まあいいか。減るもんじゃないし)


 こうなったら仕方ない。

 とりあえずバトルしよう。

 バトルすれば多少は仲良くしてくれるかもしれないし。

 緑髪の少年のにらみに負けた俺は、ドハッと息を吐き出した。


「……わかった。バトルするよ」

「そうか。……なら来い。ここじゃあ集中できねぇ」

「お、おう」


 そこまでこだわるんか。

 本気ガチじゃん。

 ガッチガチの本気ガチじゃん。

 黙ってついてこい、とでも言いたげに小さな背中が離れていく。

 試しにシーラの方を見てみると、ウィンクが返ってきた。

 可愛い。

 いや、可愛いじゃねえよバカ野郎。


(行くしかないかぁ……そうかぁ)


 自分で決めといて何だけど。

 バトルをするしかないらしい。


(頑張るゾイ、と)


 友達作りも楽じゃない。

 右手をそっとデッキケースに添えて。

 俺は小さく溜め息を吐き捨てた。



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