第3話 出会い その2
「あら、調子はどう? リオ様?」
アルバが様子を見にくると、少年が身体を起こしていた。
カールも起きており、会話していたようだった。
少年はアルバを指差す。
「アルバ?」
「っ、ああ、アルバさん、申し訳ありません」
初対面の人間に向かって指を差し、年長者にタメ口とは。
カールさんも手を焼いているんだろうなあ、と内心思いつつ、アルバは笑いながら「そうよ、リオ様」と言う。
「アルバが助けてくれたんだって?」
「うーん、私はただ介抱しただけよ、助けてくれたのはここへ運んでくれた人たち」
「でも治してくれたんだよね」
「まあ、ね」
譲らないリオにアルバも早々に折れ、曖昧に頷いた。
「それより、何か口に入れられる? スープを作ってきたんだけどどうかしら」
トレイに乗せた湯気が立つナベを視線で示し、首を傾げてみせる。
いい匂いが部屋に充満し、途端に鳴るリオのお腹の音。
「お腹すいた」
「ふふ、食べましょう。食べないと体力も戻らないわ。もちろん無理はしないで、ゆっくりでいいから」
「アルバさん、ありがとうございます」
器にスープを入れ、二人へと渡す。
ベッドの横にある小さいテーブルを出して、彼らは少しずつ食べ始めた。
空腹が満たされた頃、リオはアルバを呼び、青色の目がアルバを捉える。
その瞳は澄んでいて、アルバの心を見透かすようだった。
「アルバはさ、どうして僕を助けてくれたの」
「……リオ様!」
カールの制止も聞かず、リオは問う。心から疑問に思うような、失礼な物言いにアルバは嫌な顔ひとつしない。
「それがお仕事だからね」
「ふうん、僕がかわいいからじゃなくて?」
それ自分で言っちゃうんだ。
そう思うも顔には出さない。ふふ、と笑って答えた。
「そうね、かわいくてもかわいくなくても助けるわ」
「……お金持ちだから?」
「うーんお金は持っている人の方がもちろんいいけど、別に持っていなくたってここではみんなが患者さんだから。それにお金持ちかどうかなんて見た瞬間にわかるものでもないし。まず治療しなきゃ助かるものも助からない場合だってある」
タダ働きはしないが、お金を持っていない人から大きなお金を取るわけではない。
「うちは良心的なの。患者さんの月の収入の三分の二。それだけもらうことにしているの」
「……良心的……?」
「そうでしょ、ただの擦り傷でこられても私だって困るし、薬屋さんだって困るもの。大きな怪我や病気、そういうときに治療師は必要とされるものよ。ひと月の収入の三分の二なんて安いものでしょ。まあ、お金持ちの人は収入も大きいでしょうから、その分治療費は割高になるかしらね」
いいでしょ、お金は持っている人からもらわないと。
ふふふと気持ち悪い顔で笑うアルバに、リオが嫌悪感を示すことはなかった。
「へえ。そっか。助けてくれてありがとう、アルバ」
そういって見せる満面の笑みの眩しいこと。
寝ているときも綺麗な顔だとは思っていたけど、心に余裕ができた今、ますます綺麗に思えるわ。笑った顔なんて天使のよう。
リオの整った顔に驚きながらもアルバは平常心で「どういたしまして」と返事した。
それから三日後、迎えにきた馬車に二人は乗り込み、帰って行く。
「アルバさん、この度は、本当にありがとうございました」
「アルバ、ありがと。またくるね」
リオはお金持ちの子にしては治療師の生活に興味を示しまくり、安静にしてという診断を無視して、アルバについて回った。
といっても安静にしなければならない二人を置いてアルバも出かけるようなことはしなかったし、とくに急患もなかったので、単純に普段の生活をなぞるだけのものであったのだが、リオにとってはどれも珍しいものであったのだろう。
キラキラと目を輝かせながらいろいろ聞きたがった。
カールが驚いていたから、そんなふうに興味を示すリオはよほど貴重なのかもしれない。そう思うとアルバも嬉しくなり、リオを構ってやった。
「うん。もう怪我なんてしないほうがいいんだからね。気が向いたらまた遊びにきてもいいから。じゃあ、カールさん、道中、お気をつけて」
最後にカールへと挨拶をし、馬車は出発したのだった。
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