第4話 突然の求愛
アルバは午前の往診を終え、診療所に戻ってきた。
帰宅途中に食堂で買ってきた野菜中心のランチ弁当を広げて、ほっと一息。
──トントン
ドアを叩く音に、フォークを置いて、昼食時間に後ろ髪を引かれつつ、対応する。
予想外の人物に驚いた。
「あら! リオ様」
ドアの前にいたのは大きな花束を抱えたリオだった。その後ろにはカールもいる。
「どうされました? あ、お支払いですか」
いそいそとお金を受け取る準備とばかり、中へ案内しようとする。
「それもありますが、きちんとお礼をしたいと思いまして」
「別に気にされなくていいんですよ」
「そういうわけには……。リオ様」
カールがリオを促し、リオは大きく頷く。
手に持った自分の身体ほどある花束をずずずいっとアルバの方へ押し付けた。
「わわ、何、くれるの?」
お礼の花束にアルバは嬉しくなった。花の色は自分のトリと同じ──好きな青色がメインだったから。
ありがとう、と受け取ろうとして。
「アルバ、僕と結婚してほしい」
「!?」
リオの言葉に受け取れなくなってしまった。
押し付けられる花束を拒めもせず、かといって受け取りもできず、戸惑うアルバはカールに助けを求める視線を投げる。
カールはというと、アルバ以上に慌てふためいていた。
「は、ちょ、リオ様。はあ? 何を、ええ?」
人は自分以上に取り乱すものを見ると、どうやら落ち着けるらしい。
カールの挙動不審さに、大変ねえ、と少しだけ同情心が沸いた。けれど、こっちだって大変なのだ。
「……リオ様? 結婚、って言われましても……。私とリオ様では、こう、立場が違うので。結婚なんて簡単にできるものじゃないんだけど。どうしてそんなことを思ったの」
アルバがリオにしたことと言えば、怪我の治療をしたくらいだ。
まだ幼さが残るリオは、アルバの仕事を理解していないのかもしれない。リオを治したのも、それで助かったのも、すべては仕事なのだから。
戸惑うアルバもリオは意に介さず、にぱっと笑う。
「ねえ、アルバ、リオって呼んでよ」
ああ、かわいい。綺麗。天使。いや神か。
アルバは真顔で咳払いを一つ、それからリオの目線まで身体を落とす。
「じゃあ、リオ。あのね、せっかくの素敵なプロポーズだけど、あいにく私は結婚する気がないのよ。仕事のほうが楽しいから。だからあなたとは結婚できない。ごめんなさいね」
アルバの本音だった。
別に結婚しなくたって人生楽しいし、誰かに気を遣うことなく好きなだけ綺麗でかわいいものも拝めるし、治療師の仕事のおかげでこれからも貧窮することはなさそうだし。
そもそも子供相手に結婚だなんて、考えられるわけないでしょ。
あっさりとお断りをしたアルバに、リオの背後であからさまにほっとした様子のカールである。
いやいやそんなに心配しなくても子供の『将来ナントカ君のお嫁さんになる!』とかそういうやつでしょうに。
そんなのいちいち真に受けないわよ。失礼しちゃうわ。もちろんそこまで慕われていると思えば嬉しいけどね。
「でも、僕と結婚すると楽しいよ?」
「うーんそうねえ。きっと楽しいと思うわ」
「だったら」
「ええ。いつかお嫁さんができたら、うんと楽しませてあげるといいわね」
にこりとアルバはリオとの間に壁を作る。
それをリオが理解できるかはわからないが、貴族だと思われるリオが庶民のアルバに求婚するなんてあり得ないのだ。
だからこそカールはリオの言葉にあれほど慌てたし、断ったアルバにほっとしたのだろう。
言い方が厳しかったかもしれないが、そろそろ理解しなければいけない年頃のはず。
これ以上変に懐かれてからでは情も沸く。今が一番お互いにダメージが少ないのだ。
傷つけてしまったかとリオを見ると、大きく頷いていた。
「わかった、アルバのこと楽しませるから楽しみにしてて」
一つも響いていなかったのだとわかる発言にアルバの目は点になり。
それからというもの、リオは三日に一度、診療所を訪れ、アルバに求婚するようになったのだ。
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