第42話 人間関係。−2

「……この名前は口に出したくなかったけど、やはり神里くんには直接伝えた方がいいと加藤くんが言うから」

「そう…?もしかして俺が知っている人なのか?会長」


 ちらっと加藤の方を見ていた会長に、加藤が頷く。

 周りに迷惑をかけるのはあんまり好きじゃないから、これを聞いて俺が判断するつもりだった。加藤はともかく会長まで知っているのはちょっと意外、会長が壇上で何回見たのが全部だったからな…。それを言った人が一体誰なのか知りたくなった。


「それは神里くんの友達、森岡くんだ」

「……はあ…?森岡…?」


 会長がその名前を話した時、茜の手がちょっと震えているような気がした。

 それに気づいた俺はこっそり彼女と指を絡ませて、会長に答える。


「森岡がなんで…?」

「……」

「それは多分茜ちゃんのせいだと思うよ…」

「おい、加藤…!」

「いやいや!そんな意味じゃない、お前も知ってるんだろう?初日、茜ちゃんにどれだけの人が集まっていたのかを」

「それは知っているけど、それから時間もけっこう経ってるし…。いまだにそんなことを考えてるのもちょっと…おかしいだろう?」

「森岡なりに、自分は柊に裏切られたって思うかもしれない。手伝ってくれるって言ったくせに今は付き合ってる噂まで…あ、もはや付き合ってるけどな…」


 加藤の話を聞いた茜が震えている。これが全部自分のせいだと思わないように心の底から祈るだけ、先からこっちを見つめている茜に俺は何も言えなかった。


 そして会長が話す。


「神里くんには悪口になるかもしれないけどさ、これはいじめだから…。二人は何もしていないのに、全校生が知っている噂になってしまった。神里くんが何一つ反論しないから、みんなはそれを信じてしまう。それにあのSNSの写真まで知られたから…」

「うん…。会長が俺の心配をしてくれてなんか嬉しいな…。でも、やはり何もしなくてもいいと思う…」

「神里くん…」

「それと別でやっぱり聞きたいな…。そんな噂を流した理由だけ、教えてくれる?会長」


 それから会長はなぜ森岡がそんな噂を流したのかに対して話してくれた。

 その噂は多分、俺と森岡が屋上で喧嘩した日から始まったかもしれない。当時の会長は生徒会の資料を持って花岡に向かっていた。そして廊下で走っている生徒に注意をする時、あの生徒から屋上で起こっていることを聞いたのだ。


 でも、会長が屋上に行った時はもう俺たちが教室に戻った後…。


 それが自分を騙すための嘘だったことに気づいて、ぶつぶつ言いながら階段を降りると、他人に俺の悪口を言う森岡と目が合ってしまったのだ。当時の会長は俺のことを知らなかったから、ただありふれたそんな腹いせだと思って無視をした。


「あいつムカつく、いつも他人のことを考えているように甘い言葉だけを話すクズだった」

「へえ…?そう見えなかったけど…、神里ってただモテるやつじゃねぇの?」

「お前はあいつらの友達じゃないから分からないんだ。実際あいつらは誰とも付き合って軽々やっちゃう人間ゴミだからな…、おい、これは内緒だぞ」

「へえ…面白い、本当か?」

「いつも女子に声かけられるんだろう?あいつら」

「そう言えば、そうかもな」


 そして学校内に俺の噂が広がって生徒会長の耳にも入ったのだ。

 それでハニーモールのことを含めて加藤に相談をしたわけ、それよりハニーモールのことも、噂のことも知っている会長の方がすごかった。俺のために話してくれたことだから…、どうにかしないとな…。でも、その相手が友達やつか…。


 今ははっきり言えなかったから…、俺は「ありがとう。会長、ちょっと考えてみるから…」と、言ってから生徒会室を出た。


「また遊びに来てよ。彼女と一緒に…」

「うん」

「バイバイ!茜ちゃん」

「花岡先輩、ありがとうございました!」


 扉を閉じて廊下を歩いている俺たち、そばで俺と腕を組んでいた茜が声をかける。


「柊くん…ごめん」

「えっ?どうして茜が謝る…?」

「私のせいで、こうなったじゃん…。やはり私は邪魔だよね…?」

「そんなこと言わないで…、茜は邪魔なんかじゃないよ。俺が好きな彼女だからもっと自信を持って、会長と加藤の話は心配しなくてもいい。分かった?」

「うん…!分かった…!」

「よしよし…」


 茜は何一つ間違ってないけど、人の欲が今の状況を作り出した。

 この子はこのままでいい、今は俺が茜の彼氏だから幸せにさせないと…。入学してから変なことばかり起こってるのもある意味ですごいな…。森岡のやつもほどほどにしてくれたらいいけど、もし本気で俺に喧嘩を売るならあの時は仕方がないのか…。


「ねね、柊くん」


 横腹をつつく茜がにやついた顔をして話した。


「うん?」

「私がプレゼントした下着はいてみた?」

「あ、うん…」

「サイズぴったりでしょう?」

「サイズ、知ってたのか…」

「洗濯物を取り込む時に見た!」

「はいたけど…、まぁ…ありがとう。彼女にプレゼントをもらうのは初めてだから…」


 そして誰もいない廊下、俺にくっついた茜がつま先立ちをして耳に囁く。


「今日、私もはいたの。同じもの…」


 同じ下着…、俺と…。


「……あ、あ、茜!それを言うために生徒会室までついてきたのか!」

「ピンポンー!へへ…、その反応が見たかった…!可愛い…!」

「何それ…バカじゃん」

「元気出してよ…。何かあったら私も手伝うからね…?そして…柊くんに抱きついていい?」

「うん」


 やはり心配してたのか茜…、なんかごめんね…。だらしない彼氏で…。

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