第28話 その恋は応援できない。−3

「……あっ、先輩」

「へえ、茜ちゃんはここで何してる?」

「ちょっと柊先輩を…」

「……」


 柊の名前に嫌な予感がする翔琉。

 もしそれが本当だったら自分はまたあの二人に負けてしまうから、茜の前で嫌な顔をしていた翔琉は自分が抱えていた不安を除くことができなかった。そしてもう我慢できない翔琉は茜に聞きたくなかったことを、聞くことにした。


「あのさ…茜ちゃん」

「はい…?」

「なんで、俺のL○NEに返事をしてくれないんだ…?」

「それは…」

「俺のことが嫌か…?」


 二人の姿に周りの生徒たちとB組のクラスメイトたちがざわざわしていた。

 そしてまた先輩たちに囲まれた茜は周りの雰囲気に緊張してしまう。柊と海以外の先輩とはほとんど言葉を交わしたことがない茜だったからこそ、この状況で何も話せなかった。翔琉からの話はちゃんと理解していたのに、ざわざわしている周りの先輩たちに何かを言われるのが怖くて足が震えていた。


「答えて…くれない…?どうして返事しないんだ?」

「……」

「あの茜ちゃん…?答えてよ…!」


 大きい声を出す森岡にびっくりした茜が答える。


「先輩が…、ブロック…して…」


 それでも柊の名前を言えなかった茜。


「誰が…?」

「……言えません」


 2年B組の前に人たちが集まって、5階から戻って来た柊と海がそれに気づく。


「おい、柊。あれなんだ…?」

「何が?」


 加藤が指で指したところには雨宮に告白でもしそうな雰囲気を出している森岡が何かを言っていた。周りがうるさくてその声がよく聞こえなかったけど、どうやら雨宮が困っているように見えてすぐ階段を下りる俺だった。


「雨宮…」


 隣の壁に寄りかかって柊を見つめる海。


「好きでもない人のために、走ってるのか…柊」


 なんで狭い廊下に人が集まってるんだ…。

 そもそも、1年生の雨宮が2年生がいるところに来るのもおかしいんだろう…?人が集まってくるのは苦手だったじゃないのか、どうしてここに来たんだ…。雨宮。


「え…」


 人たちに囲まれている森岡と雨宮。

 人混みを通り過ぎた時、森岡はもう周りの人が目に入らないほど真剣になっていた。そして向こうに立っている雨宮は周りのプレッシャーと目の前の森岡にすごく怯えている。一体どんな状況なのか、それが知りたかったけど…。どうやらすぐ連れて行かないと…、二人の後ろから見えていた雨宮は泣きそうな顔をしていた。


「雨宮」


 声をかけると、周りの人たちと雨宮がこっちを見つめる。


「柊…」


 うん…。いい、いいけどな…、こんな状況で下の名前はやめてほしい…。

 どう見ても…、この状況はあれ…あれだろう…?そんな明るい顔をしてこっちを見ないでよ…。みんなに誤解されるじゃん…このバカ雨宮…。


 周りの人にびびっていた雨宮は俺を見つけてから、微笑む。


「柊だ」

「神里くん?」

「え…、どう言う関係?これもしかして三角関係なの?」

「そんな…、えー。それじゃ森岡が入れないんだよ…。二人のレベルが高すぎ…」

「だよね?やはり、あの二人が付き合ってる噂は本当だったかも…」

「やっぱり…、神里のやつはカッコいいなー」

「この一年生、めっちゃ可愛い…」


 ほら、周りが変な話をしてるじゃん…。


「柊…」

「なんでここにいる?」

「忘れ物…を持って来たから…」

「俺の?」

「うん…。私に勉強を教えた後、教科書をそのまま机に放置したから…」

「そ、そっか…。あー!数学の教科書だ!」

「バカ…」

「ありがとう…、ちょうど1限が数学でさ…」

「でも、うちのクラスにあるの」

「お前、何しに来た?」

「……へへ」


 森岡には話をかけたくなかった…。

 ごめん、本当に話しづらいから、何を言えばいいのか分からなかった。そのまま雨宮を2階に連れてきて、忘れた数学教科書をもらって行く。今日はテストがあるって吉田が言ったからさ、適当に見ておかないとまた嫌なことを言われるかもしれない。


「柊くん…、ごめん」

「なんで雨宮が謝る…?」

「私、ただ学校でも柊くんに会いたかったから…。だから、わざわざ教科書を机の中に入れたまま呼びに行ったの…」

「なんで…、そこまでしなくても…。わざわざ…、理由を作らなくてもいいのに…」

「でも、迷惑でしょう…?なんの用もないのに、柊くんに会いに行くなんて…」

「俺たち仲良いでしょう?」

「うん…」

「いいよ。そんなこと気にするな…、雨宮が来てくれるのは嬉しいからね」

「うん…。やっぱり…柊くん好き…優しい」


 しかし、あいつはそんな状況まで雨宮を追い詰めたのか…。

 2階の廊下、人けのない左側の階段で雨宮が俺を抱きしめる。挨拶をして階段を下りる時の俺を、彼女が後ろから抱きしめていたのだ。びくっとして声をかけようとした時、俺の背中にもたれていた雨宮が小さい声で話す。


「……」

「怖かった…。怖かった…柊くんが教えてくれた通り、ブロックしたって言ったのに柊くんの名前は言えなかった…。迷惑かけたくなかった…」

「うん…。よく耐えた…、雨宮は優しい子だね?」

「……」


 俺の名前を言ってもいいのに…、それを言うのも難しかったのか。雨宮には…。


「ねえ、柊くん…」

「うん…」

「私も柊くんをうちのクラスに呼んでいい…?呼んだら来てくれる…?」

「うん…。連絡先交換しただろう?後でL○NEして、先のことも含めてさ」

「うん…。やっぱり…柊くんは優しい私のお兄ちゃんだよ…」


 もっと小さい声で話す茜。


「うん?声が小さくて聞こえなかった」

「柊くんがいて、安心する!それだけなの」

「そっか…。じゃあ、俺はもう戻るから」

「はい!」

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