第27話 その恋は応援できない。−2

 彼女でもないのに、俺は朝から苦しめられて今日も二人で登校している。

 なぜかニコニコしている雨宮と歩くこの道、今日に限って歩く時の距離が近いのは気のせいか…?どんどんこっちに近づいてくる雨宮が俺の手首を掴んだ。


「柊くん、約束だよ?今週一緒にハニーモールに行こう!」

「分かったって言ったでしょう?雨宮」

「でも、柊くんいつも女の子に囲まれてるから不安になる」

「脳内妄想やめろ…。俺はそこまで女の子と話さないから…」


 何を考えているのかマジで分からない…、いつも俺をからかうだけのこのチビ。

 そしてよく二人で登校してる姿をみんなに見られていたのか、いつの間にか俺と雨宮が付き合ってるって噂が校内に広がっていた。


 俺はほとんど気にしていなかったけど、雨宮はそれに意識しているらしい。

 下駄箱からみんなにジロジロ見られて、緊張してしまった雨宮がこっちを見ている。みんなに注目されるのが怖いから俺の袖を掴むけど、それが誤解を招く行為だと思わない16歳の茜ちゃん。2階に上るまでしっかり捕まっていたこの手は俺を離してくれなかった。


「あのさ、雨宮…。みんなに見られるのが怖かったら次は別々で…」

「いやー」

「何それ…、先から俺の袖離してくれないじゃん。プルプルしながら」

「むっ!知らない!バカ!」


 と、怒った雨宮が俺の足を蹴る。


「痛っ…」

「反省しなさい!柊くん!」

「え…」


 そのまま教室に向かう時、俺を待っていた加藤が声をかける。


「朝からモテモテだなー」

「……なんだ。朝から」

「吉田に頼まれてこのプリントを運んでる」

「量が多いな…、手伝う」

「ありがとうー」


 二人がプリントを持って階段を上る姿を見つめていた翔琉が、廊下で立ち止まる。二人に話したいことがあってL○NEを送る翔琉、でも二人からの返事は来なかった。廊下に立ち止まったままウジウジしていた翔琉は仕方がなく茜にもL○NEを送ったけど、それもまた返事がなかった。


「……」


 チャットルームの画面を上にスクロールして茜に送ったL○NEを確認する翔琉は、ふとおかしいところに気づいてしまう。それはもしかして自分が無視されているんじゃないのか、と言う疑問だった。ずっとスマホの画面を見て不安に怯えていた翔琉は柊と海に電話をかける。


「出ないのか…?柊、海」


 一方、話しながら階段を上っている二人は翔琉からの電話やL○NEに気づく。


「あ…、なんかめっちゃかけてるな…」

「そうだよね…。どうする?電話に出ない?」

「俺は出ないけど?柊は…?」

「俺はちょっと…、なんって言うか苦手だから…」


 これは一方的に避けていることだった。

 俺も加藤も森岡のことを避けている。加藤にもそれなりの理由があるし、俺にも雨宮が見せてくれたL○NEがあったから…さりげなく声をかけるのができない。そのせいで森岡と話すと、なぜか気が詰まる。また何かを要求するための電話だろう…。


「お前も出ないのかー」

「ごめん…。ちょっと」

「なんで謝る、始まったのは俺だけど…?」

「そうだよな…」


 プリントを教卓に置いてから、隣の机に腰をかける。

 一息ついてから戻ろうとした俺たちは静かな教室で話を続けていた。


「なぁ…、柊」

「うん?」

「ごめん…」

「なんで?」

「あの人…、もう戻ってこないかもしれない…」

「そっか…」


 その話の対象はもちろん美香さんだった。

 なんとなく分かっていたから、今更そんなことを言われてもショックを受けたりしない。どうせ、こうなるかもしれないって思っていたからだ…。ただ心が痛くなるだけ、美香さんと俺は元々いてもいなくても構わないそんな関係だったから…。


「俺は…、それでも説得しようとした…」

「大丈夫よ…。約束は約束…、俺は美香さんにそんな感情持っていないからいいよ。加藤、お前が謝らなくても俺は平気だから…」


 実は…、雨宮のせいで心がつらい。

 でも雨宮は何一つ間違っていないから、こっちから言えることはなかった。全部俺のせいでこうなったから、これが俺に与えられた罰だったら素直に受け入れるべきだった。けっこう楽しかったと思う、美香さんのおかげでいろいろできたし…。


「まぁ…、心配していたけどさ」

「うん?」

「どうやら、彼女ができたみたいで俺も安心した。柊」

「彼女…?」

「茜ちゃんのこと」

「はあ…?雨宮はただの後輩、それ以上の関係じゃないって…」

「でも、茜ちゃんはそれ以上の関係を欲しがっているなら?」

「なんでお前がそんなことを知ってるんだ…」

「お前は知らないと思うけど、茜ちゃんはいつもお前を見ていた。ちらっとお前の方を…」


 雨宮が俺を…好きになるってこと…。


「そんなこと…、できない」

「確かに、あの子は…ちょっと似ているかもしれない。と…」

「……そうか」

「ごめん…、嫌なことを言っちゃったか…」

「俺は…、気にしない。もう昔のことなんか、頭の中に残っていない…」

「うん…」


 ……


 二人が5階の教室で話している時、2年B組の前である先輩に声をかける茜。


「あの…、すみません…。柊先輩いませんか…?」

「あ…、神里くんのことよね?うん…、さっき加藤くんとプリント運んでたからすぐ戻ってくるかもしれないよ?」

「あ…!ありがとうございます!」


 先輩に感謝の言葉を残して教室に戻る時、後ろから茜を見つけた翔琉が声を上げる。


「あれ…?茜ちゃん!」

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