第23話 二人の関係。−3
屋上まで歩いて行く時、開けっぱなしの扉を見つめながら加藤のL○NEを見ていた。どうやら加藤も何かを悩んでいるように見えて、一気にこの階段を上る。すると、遠いところを眺めていた加藤が少し悲しい顔で俺に挨拶をしてくれた。
「よっ、不良〜」
「こっちのセリフだ…。どうした?加藤、お前が授業をサボるのも不思議だな…」
いつもポジティブだった加藤が…、今は真剣な顔をしている。
風が吹いてくる静かな屋上。
俺のために買っておいたのか…、ベンチに置いていたもう一つのジュースを俺に投げ渡す加藤が微笑んでいた。静かだ…、この雰囲気は静かで怖い。そしてジュースを飲みながら、再び遠いところを眺める加藤がため息をついて話を始める。
「柊、俺…転学したら一人で頑張れる?」
「はあ?なんだ。転学するのか…?」
「ウッソ」
「殴っていい?」
「いやいや…、冗談だよ」
「なんか悩みがあったら話してもいい。聞いてあげるから…」
「ちょっと人間関係に疲れて…、何もしたくないって言うか…」
「……」
隣のベンチに座る加藤が俯いていた。
「俺、彼女と別れたんだー」
「そ、そっか…?なんで…?お似合いだったじゃん…」
「まぁ…、彼女はいい人かもしれないけどな…。どんどん要求するのが増えてるから、疲れてしまった。お花見のことも先輩が話したから行っただけ、そして行ってからこうしないと行けないとか、お節介をする先輩だからさ…」
「つまり、彼女に合わせるのことに疲れてしまったってわけ?」
「まぁ…、それもそうだけど、周りにそんな人ばっかりだからお前を呼んだ。柊」
話しながら隣の席をポンポン叩く加藤、俺は彼の隣に座って話を続けた。
やはり彼女と別れた時は…、悲しくなるかもしれない。俺には彼女がないからその気持ちをよく分からないけど、多分美香さんがいなくなったことと同じだろう。
「俺って、そんなにいい人じゃないよ…」
「俺と一緒だ。柊は…」
「お花見の時からずっと変だと思ってた…。加藤の雰囲気がいつもと違うような気がして…」
「うん。彼女もその友達も、そして森岡のことも…」
「そうか…。だからわざと雨宮に…」
「そうよ…。俺はみんなが言った通りL○NEに女が多い、約80人の女子が俺のL○NEに追加されてる。でも、その中には軽々会える人なんていないよ…」
「だよな…」
「いつも俺のL○NEを見てこの女誰?とかスマホ見せて!とか話して、柊のことを紹介してくれない?私の友達が気に入ってるから…声かけてくれない?とか、彼女って人はそんなバカなことしか言わない」
「……」
「そしてさりげなく性関係を求めるんだ…。カッコいい人とやるのが好きって…」
加藤はモテる人だから…いつも薔薇色の人生を送っていると思っていたけど、それは俺の錯覚だったのか…。
「最近は一年生の中に可愛い子が入って来たって噂があっただろう?」
「うん。雨宮のことだよな?」
「あの日、森岡からどうにかしてくれって言われた」
「あ、それは俺も…同じだ」
「あいつ、俺じゃないとお前しかないから…。俺の口で言うのは恥ずかしいけど、あいつ俺とお前に嫉妬してるんだ…」
「なんで…?加藤なら分かるけど、俺は普通だと思う…どこに嫉妬を…?」
「お前カッコいいよ…。女子に興味ないって言ったくせにあの人と毎週やってるじゃん…」
「うるせぇ…」
「ハハハッ。そいつは…いつも嫉妬が多いから、欲しがってるんだ…。自分にないものを、自分もほしいって…」
これはまるで森岡の悪口…、どうして加藤…。
「今、森岡の悪口って思ってたんだろう?」
「……どうして分かる」
「そう言うところがあの人に好かれてるんだ。柊」
「何が…?」
「可愛いじゃん、お前は嫌だと言ってもすぐ手伝ってあげるし。他人のことは見過ごしてもいいのに、いつも誰かのために頑張ってる。そんな柊を知ってるから、森岡のことを全部お前に任せたんだ…。それは悪いと思ってる…」
背中を叩く加藤はずっと俯いたまま話していた。
俺には分からないことを、加藤はずっと一人で耐えてきたんだ…。そこまで耐える理由はないと思うけど、どうせ人間関係はいつか崩れるものだ。加藤は自分と関わっている人、全員と仲良くしたいことを望んでいる。それができないって分かっていても、それを求めていた。大事なのはそれじゃないのに…。
人を失うのを怖がっている。
「じゃ、その顔の傷は…」
「彼女に別れようと言った時、それを受け入れなかった彼女が殴った」
「マジか…?それはひどい」
「だから、父に話した。なんとかしてくださいって」
「……それで?」
「退学処分だって?」
「す、すごいな…。やはり加藤…」
「俺はやはり彼女なんかいらないかも…、柊の話通りだ。こうやって親友と話すのもいいな?」
「……加藤」
「お前も俺もそれなりの悩みを抱えてると思う…。俺にはあの人の問題もあるから…、今はちょっと…誰とも関わりたくないな…」
「分かった」
俺には何も言えないことだから、そのまま席から離れようとした。
「あのさ、柊」
「うん?」
「お前は、今幸せなのか?」
「……多分、そうかも。お前は?」
「俺?どうかな…?よく分からない。でも、柊みたいな友達がいてそれなりに楽しいかもしれない」
「変なこと言うな…」
そしてチャイムが鳴いた。
「あっ、授業終わったのか…」
適当に話して教室に連れて行くつもりだったけど、加藤の悩みを聞いてあげたらいつの間にか授業が終わってしまった。たまにはこんなこともいいんだよな…。友達が困ってるなら聞いてあげること、俺にはそれしかできないけどさ。それでも役に立ちたい。
「柊、ありがとう」
「何が…?」
「話聞いてくれてありがとう。やはり、あの人が言った通りお前はいいやつだ」
「フッ、だったらラーメンおごってくれない?」
「いいぞー!行こう行こう」
俺はさ、こんな俺を信じてくれるだけで幸せだったよ。
俺はそれでいいんだ。加藤。
……
そして一緒にサボったのに、怒られるのは俺だけだった。
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