5:錆。
第21話 二人の関係。
雨宮と一緒に寝たあの日から、俺はまた普通の日常に戻ってきた。
変わらない景色、変わらない人たち、そして俺が過ごしているこの時間も…、全部どうでもいいことだった。面白くない授業に集中しなくない、成績は適当に学年30位くらいするから特に問題はなかった。問題は自分にあるってことだよな…。
「海。うん…?また遅刻か…!加藤海!」
「海なら今家から出ました!」
「……のやろ…」
「まぁまぁ…、海ですからー」
「授業が終わったら職員室まで来い!」
「え?」
「えー、じゃねぇ!ついて来い!」
遅刻したのは加藤だけど、結局呼ばれるのは俺だよな…。
俺もそうだけど、加藤もけっこう遅刻するやつだ。理由は知っているから、加藤には何も言えない。そのたび、いつも職員室に呼ばれるのは俺、先生たちとは仲がいいけどな…。加藤の家はお金持ちだから、先生たちも避けているらしい。
直接言うことを嫌がっている。
すごいイケメンで、それに頭もいいやつだから先生も「遅刻だけはどうにかしてほしい」って話している。もちろん、その話を言われるのは加藤本人ではなく加藤と親しい俺だった。正直、森岡より加藤の方がもっと親しいかもしれない。
「なぁ…、柊。海に何か言ってくれよ〜」
「吉田先生、それができるんだったらあいつ遅刻しないんですよ…」
「友達だろう?このままじゃ、あいつ留年するかもしれない…」
「2年生になったばかりなんですけど…?」
「その調子じゃ留年確定だ…!どうにかしろ!それが友達としてやるべきことじゃないか!」
「その前に先生としてやるべきことじゃ…」
「頼むぞ」
「はい…」
やっぱこうなるんだ…。吉田先生は人が良すぎだから、嫌な話は言わない。
俺も加藤のことなら何を言われても適当に聞いている。それから職員室を出て、加藤にL○NEを送ったけど、どうやらまだ電車の中かもしれない。
「……はあ」
あくびをしながら教室に戻って来た時、席でスマホをいじる加藤が俺に手を振ってくれた。
「もう着いてたのか…、返事くらいはしてくれ…加藤」
「ヤァー!柊」
「お前、今日遅くない…?」
「今日はちょっと…忙しいから」
こっちを見て笑っている加藤の頬には、誰かに殴られたような傷ができていた。
「大丈夫か…?顔がちょっと…」
「あ?これ?いいよ。気にしなくても…、それより客が来たようだ」
「客…?」
扉の向こうでちらっと教室の中を見つめている雨宮が、誰かを探しているような気がした。雨宮って2年生に知り合いがいたんだ…。それはちょっと意外だったけど、俺とは関係ないことだから席に座って加藤と話を続ける。
「なんで座る?」
「えっ?なんでって…」
「どう見てもお前に会いに来たんだろう…。早く行け!」
「え…?そう?俺、別に約束とかしてないけど…」
「女の子に約束なんていらない。好きな人ができたらいつでも会いたくなるんだよっ…!」
と、言った加藤に背中を押されて、俺はそのまま雨宮のところまで歩いて行く。
「あっ!柊先輩!」
「……雨宮?」
柊先輩って…、もう俺のことをそう呼ぶことになったのか…?
周りに見る目も多いからな…、呼び方についてはなるべく注意してほしかった…。みんなの前で下の名前か…、雨宮がそれで満足したら俺もいいと思うけど、女の子に下の名前で呼ばれるのはさすがに恥ずかしいことだよな…。
「どうして?こう呼んでもいいって柊先輩が言ったでしょう?」
それは一緒に寝たあの日、どうしても寝られなかった俺が体の向きを変える時だった。先に寝ているはずだった雨宮が、こっそり俺の背中をつつく。時間はもう1時になってるから眠気が完全になくなってしまった。
「なんで寝ない?私と一緒は嫌…?」
「いや…、それより…。雨宮、急にため口になってるけど…?」
「あっ…、すみません…。私…先輩のこと下の名前で呼びたい…」
「です、は?」
「です…」
「そっか…、下の名前で呼びたいならそうしてもいい。今日は雨宮に悪いことを言っちゃったし…」
「本当ですか…?じゃあ!先輩も私のこと、茜ちゃんって呼んで」
「断る…」
「……」
なんで俺がそんなことを言っちゃったのかはよく分からないけど、多分あの時の雰囲気が俺をそう言わせたかもしれない。
「それはそうだけど…」
「寝ちゃったから覚えてないんですか?」
「いや…」
「ちなみに、先輩が私のことを茜ちゃんって呼んでくれました」
「いや、それは確かに覚えている。そんなこと言ってない…」
「チッ…」
「おい…!雨宮!先輩の前で舌を打つのか!」
「何もしてませんー。よく分からないんです!」
ったく…、あいつもこいつも…子供かよ…。
「それで何しに来た…?」
「ちょっといいですか?」
「まぁ…、ちょっとなら」
加藤に席を外すって言ってから、俺は雨宮について人けのない5階の化学室まで来てしまった。何か重要な話でもあるのか、ここまで連れて来たのはやはり言いたいことがあるってことだよな…。先より空気も重くなったし…、なんだろう?
「柊先輩…」
「うん…?」
「あの、一応私が話す前にこのL○NEを見てください」
「L○NE…?」
雨宮が渡してくれたスマホには、知らない相手から届いたメッセージでいっぱいだった。そして内容もちょっと…怖いって言うか、俺ならすぐブロックしてしまいそうな会話が続いていた。もちろん、雨宮は「はい」と「いいえ」しか答えていない。
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