第16話 茜の時間。
お兄ちゃん…、どっかに行っちゃった。
先の先輩…お兄ちゃんの方を見る前に私を睨んでたから怖くて何も言えなかった。そしてお兄ちゃんの友達だと言った加藤先輩も彼女とどっかに行っちゃって、話しづらい。森岡先輩と二人きりなったこの状況をどうしたらいいのかな…。
苦手だから…、声が出ない…。
「あ、あの…。雨宮…?」
「はい…?」
「なんか二人っきりになっちゃったよね…?」
「そ、そうですね…」
こっちも緊張してるけど、あっちも緊張してるみたいだ。
声が少し震えている森岡先輩に私は何を言えばいいのか分からなかった。だって、私はこの先輩に興味がないから…、断るのも上手くできない私に森岡先輩が告白でもしたらどうしよう…。
そしてどんどん近づいてくる森岡先輩はいつの間にか私のそばに座っていた。
「……」
「あの、柊は言ったかな…?」
「はい…?」
「俺さ、雨宮に興味あるんだ…。もっと知りたい…、雨宮のことが知りたい…!」
お兄ちゃん…、早く戻ってきて…。
「あの…、私男子とかそんなのよく分からないんです…。誰に興味があるとか、言われるのも今日が初めてで…」
「本当に…?雨宮ってけっこうモテそうな女の子なのに…、意外だ」
「普段は友達としか遊ばないので、男子と会う機会はほとんどないんです…。神里先輩が初めてかもしれません…」
「へえ…、柊と仲がいいんだ…」
「はい…!神里先輩はいつも私の力になってくれるんです…!」
「……そっか」
なんか…、悪いことを言ってしまったのかな…?
でも…森岡先輩には悪いけど、私は先輩に興味ないから仕方がなかった。はっきり言わないといけないのに、私はただ言い回してこの状況を回避している。お兄ちゃんが早く戻ってきてほしいけど、今はスマホも出せない…。森岡先輩がすぐそばに座ってるから…、空気も重いよ…。
「あのさ…!雨宮、よかったらL○NEの交換しない…?」
「はい…?L○NEですか…?」
「やっぱり…、ダメ?」
「……」
L○NE…、私のスマホ…友達と神里先輩以外には家族だけなのに…。
「雨宮…?」
「はい…!」
「L○NEはダメかな…?」
「私はあの…、いいえ。交換しましょう!」
私を見て何かを期待しているあの目を…、私は拒否できなかった。
本当は森岡の先輩こと…、よく分からないから適当に誤魔化すつもりだったのに…。お兄ちゃんは一体どこまで行っちゃったのかな…?
さりげなくL○NEを交換している時だった。私は先の先輩に何かをされているかもしれない可能性にびくっとしてしまう。あの先輩の…あの視線は私は知っている…。それは好きって気持ちを抱いている女の子が、自分の獲物を取られたくない時の顔だった。あの先輩もお兄ちゃんのことが気に入ったかもしれない…。
「わぁ…!雨宮とL○NEの交換した…!」
「はい…!これで交換完了です!」
「嬉しい…」
「あの、森岡先輩…!私ちょっとトイレに行ってきます…!」
「あっ、分かった!気をつけてね」
「はい!」
心配になってお兄ちゃんを探しに行く。
そんなことはしないと思うけど、心配になるのは仕方がなかった。あの日、見つめることしかできなかった私の立場を…思い出したくない。今度は私がお兄ちゃんのそばにいたい、誰にもあげない…。私がお兄ちゃんの彼女になる…!
人が多いところは苦手、でもそれより大事だったお兄ちゃん…。
「……お兄ちゃん」
どうして悪い予感はいつも私をからかうように当ててしまうの…?
二人は人けのないところでくっついていた。先輩が私のお兄ちゃんに仕掛けている状況を私は見たくない…、また私の前でどっかに行っちゃうのはやめてほしかった。私は騙されたから、あの子に騙されたから…もう二度と騙されたくないよ…。
「お、にぃ…」
落ち着かない心が私を追い越してしまった…。
「あれ?茜ちゃん…?何してんのここで?」
「……加藤先輩」
ついていない…、よりによってこんなタイミングに加藤先輩と会えるとは思わなかった。お兄ちゃんがすぐ前にいるのに、手が届かない。ふと思い出す昔の記憶、私はもう誰にもお兄ちゃんを取られたくなかった。
私が先に好きになったから…。
「ちょっと…、トイレに…」
「……あれ?あっちに柊もいるんだ」
「……」
「へえ、イチャイチャしてるみたいだね…?」
と、言った二人の首筋には赤い跡が残っていた。
あれは好きな人につけてあげるキスマーク…。意識していないけど、ちらっと見ただけですごくエロかった。最近の高校生はもうそんなことまでやってる…?とか頭の中で考えていたけど、今朝のことを思い出したらなんとなく納得してしまう。
たまには…、お兄ちゃんに抱きしめられて甘えたくなる…。昔はよく私の頭を撫でてくれたから、私は優しく笑ってくれるお兄ちゃんに惚れていた。その時間はそんなに長くなかったけど、徐々に私を思い出して昔のように愛されたい…。
どこにいても一緒だよ…。
「そろそろ戻ろう。茜ちゃん」
「はい…!」
また、私のことを茜ちゃんって呼んで…。お兄ちゃん…。
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