第15話 お花見をしよう。−2

 雨宮と二人で出かけるのは初めてだった。

 慣れていないこの状況。そしてそばから歩いている雨宮の可愛い姿に周りの人たちが惹かれてしまう。電車に乗ってから降りる時まで、数多い男性たちが雨宮のことをちらっと見ていた。それを意識したのか、雨宮は先より近い距離を維持しながら俺を見つめている。


「どうした…?雨宮…」

「人が多いとこに来るのは初めてで…」

「へえ…、普段は何をしてる?」

「友達と家で話したり、カフェに行ったりします…」

「そっか…?じゃあ、手でも繋ぐ?」

「ほ、本当に…?い、いいですか…?」

「もうすぐだけど。どんどん人が増えてるし、離れないようにちゃんと捕まってね…」

「はい…」


 俺はこの大勢の前に立って森岡を探していた。

 すると、向こうにある大きい桜木の前で手を振っている加藤と森岡が見えてきた。3年生の先輩たちとあの二人が俺たちを待っている。ここじゃ手を振っても加藤には見えないから、L○NEを一つ送ってあげた。


「あっちにいる」

「はい!」

「雨宮、もしかして緊張してる?」

「ちょっと…してます…」

「大丈夫、俺がそばにいるから…」

「はい…!」


 先にお花見をしていた4人のところに近づいて行く。


「あっ、神里くんだ」

「お前、遅い…てか、なんで二人手を繋いでる?」

「あっちに人多いからな…、こうしないと雨宮が道を迷ってしまうから仕方がなかった」

「あ、あの…!雨宮茜です…。よろしくお願いします!」

「こっちに座って〜」


 加藤とその彼女が席を作ってくれて、いよいよこの6人が揃ってしまった。てか、森岡にめっちゃ睨まれてるんだけど…?雨宮のことなら、どうしようかな…。先電車で話してみたけど、どうやらダメっぽい…、俺は俺なりに最善を尽くしたぞ…。


 ———電車の中。


「あの、降りる前に言いたいことがあるけど…?いい?」

「はい…?」

「前にも言っておいたけど、俺の友達がさ。雨宮のことが気に入ったらしい…、だから…少しだけでもいいから話してみたり…、その…」

「先輩、私との約束は…?」

「もちろん守る!守るけど…。実際話してみたら…えっと…いいやつかもしれない…し…」


 それでも無理して雨宮に頼んでみた。


「私は…、先輩のそばにいたいんです…。他の先輩より、私は神里先輩がいるからここに来ました…」

「分かった…。ごめん、変なことを言っちゃって」


 とか、言っちゃってどうしよう…。

 あいつめっちゃ期待してる顔じゃん…、加藤のやつは俺の悩みも知らずに彼女とイチャイチャしてる…。しかも、森岡の隣に座ってる先輩はこの前に会った先輩じゃないのか…、わざわざ俺を呼び出して屋上で告白した先輩だ…。


「てか、二人仲がいいね?柊?」

「うん…。まぁ…、そうだな」

「へえ、茜ちゃんって言うんだっけ?」

「は、はい…」

「じゃあ、茜ちゃんは柊のこと好き…?」


 この馬鹿野郎…!森岡の前でそんなこと言うな…!


「……よく…分かりません…」


 照れる顔でウジウジしている茜を、前からじっとして見つめる翔琉。


「余計なこと言うな…!加藤!」

「ハハハッ、テンションが上がるよな?俺、みんなとお花見したかったぁー」

「はいはい…」


 加藤のやつ、今日はテンションがすごく高い。そのテンションにびくっとした雨宮がみんなに見えないところで俺のジャケットを掴む、後ろで震えながらぎゅっと掴まれているのが感じられた。


「じゃあ、そろそろお昼食べようか…?話しながらさ!」

「お前、本当にテンション高いな…」

「そっか?」


 さりげなくお昼を食べているこの6人、そして向こうに座っていた先輩が話す。


「あ、じゃあ…。私飲み物買ってくるから…」

「一緒に行きます…!」


 と、答える森岡。


「森岡くんはゆっくりしていいよ。柊、行こう」

「え?私ですか…?」


 意外な展開、ジャケットを掴んでいた手を離す雨宮が黙々とおにぎりを食べていた。ちょっとくらいならいいと思って、そばにいる雨宮に小さい声で話してあげた。


「ちょっと行ってくるね…」


 3年生の先輩には逆らえなかった茜はただコクリコクリと頷く。


「うん。一緒に行こう」

「はい。分かりました」


 一人にさせちゃったのが心に引っかかるけど、この先輩はどうして俺と一緒に…。

 苦手だよな…。3年生はいつも権威的に話すから、同級生や後輩ならなんとなく断るけど、先輩はちょっと…なんって言うか…。なるべく絡みたくないけど、さらに面倒臭いことになってしまう感じだった。


「柊」

「はい…?」

「柊はあんな女の子が好み…?」

「え…?別に好きとかじゃないんですけど…?」

「じゃあ、どうして私のそばに来ない…?加藤くんみたいに彼女に従って、私の彼氏になってほしい…」

「え…?なんの話…?」

「まだ柊のことが好きってことよ…」

「先輩…」


 自販機からジュースを買っている時、またあの先輩に告られてしまったのだ。

 どうやってあげたら気が済むのか分からない。告られる人の立場もちょっと考えてほしいんだけど、どうやら加藤に騙されたような気がする。まぁ…、やつにそんなことを決める権利はなさそうだけどな…。偶然か…本当に偶然なら怖くなるけどさ。


「どうせ、今日は森岡くんと雨宮を結んであげるつもりでしょう…?」


 知ってたのか…。


「……」

「あの子可愛いからね…。森岡くんもずっとあの子を見てたし…」

「ですよね…」

「可能性はなさそうだけど、二人っきりにさせた方がいいんじゃないのかなーって。柊たちが来る前に話してたよ」

「……はい」

「今ならあの二人も席を外したはず、ちょっと寄り道をしない?」


 雨宮…。


 ———そしてみんなが席を外した桜木の下、二人っきりになる翔琉と茜。

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