4:さくら、舞い散る。
第14話 お花見をしよう。
「はあ…、今日か…」
あくびが出る朝6時、ベッドから起きて歯を磨く。
少し考えてみるって話した雨宮は、結局俺たちと一緒に行くことになった。寝る前に「雨宮、行くって」って送っただけなのに、この朝から電話が引きも切らずかかってくる。正気なのか…、めっちゃ期待してるように見えるんだけど…?
そして玄関からドアにノックをする音が聞こえた。
「……おはようございます!神里先輩!」
「へえ、早い!もう準備終わった…?8時までゆっくりしてもいいのに…」
「昨日は眠れなかったし…。食欲もなくて、朝ご飯も食べずに準備しました…!」
薄桃色のブラウスに白いミニスカート、ちっちゃいけど足が長いから全体的に可愛く見えていた。それと小さい顔から見える大きい目、保護本能をくすぐる笑顔に清楚メイクをしている。自分のことを可愛く見せる方法を知っているようだ…、さすが雨宮らしい…。これじゃ、森岡のやつもKOだろう。
「入って…」
「ありがとうございます!」
「今ちょうど服を着替えるとこだった。待ってて一緒に朝ご飯でも食べよう」
「いいえ…!そこまで気にしなくてもいいです!」
「後でお腹から恥ずかしい音が出ても俺は知らないぞ〜」
「先輩はマナーがないんです…!」
部屋の扉を開けっぱなしにして、雨宮と話しながら服を着替えていた。
「あれ…?」
「どうしましたか…?」
「いや…、Tシャツあっちに置いたのか…」
「探してあげましょうか…?」
「ううん…。どこに置いたのか、大体分かってるからいいよ」
箪笥の中から取り出した黒いジャケットをベッドに下ろして、さりげなく居間に出た。今朝ベランダにかけておいたTシャツを取って部屋に戻る時、ソファに座って両手で顔を隠している雨宮に気づいてしまう。
「何…してる?」
「……あの…、先輩」
「どうした…?熱でもある…?」
今日はお花見のために用意されたようないい天気だったから、体調管理が重要だ。
すぐそばに行って雨宮のおてこに手を当ててみた。一応熱はなさそうだけど、どうしたんだろう…?もしかして眩暈とか偏頭痛かもしれない…。
そしてどんどん赤くなってる雨宮の顔にびっくりしてしまう。
「雨宮?だ、大丈夫…?」
「せ、先輩…の肌が…」
「肌…?」
「あっ…」
しまった…。半裸の姿で居間に出たのかよ俺…、つい癖が出てしまった…。
「ごめん…、それだったのか…!わ、分かった!」
「……」
そのまま部屋に入る柊、そして真っ赤になった顔をどうにかしたい茜が足をバタバタする。
「あ…、ごめんごめん…!着替え終わった!」
「はい…。もう注意してください…」
「いや…、それが癖になってね…。全然気づかなかった!」
「バカ…。変態」
ぶつぶつ言う雨宮がこっちに歩いてくる時、ちょうど部屋を出る俺が足を滑らす雨宮に気づいてしまう。そして床にある何かを踏んだ雨宮が、慌てる顔をして俺の方に倒れてしまった。
「うんあっ…!」
「危なっ…!」
「キャァ…!」
一応俺の上に倒れて怪我はなさそうに見えるけど、右手から感じられるこのふわふわする感触はなんだろう…?雨宮の長い髪の毛に前が見えなくて、俺は右手で掴んでいた何かを軽く叩いてみた。
「やめて…、せ、先輩ダメ…!」
「え…?左手が使えないから…」
どうやら左手は俺と雨宮の体に挟まれたようだった。体重が感じられるのは…、じゃなくてこっちもなんかふわふわするのがありますけど…?もしかして今、俺めっちゃ悪いことをしてるんじゃないのか…?なんとなくそんな気がした。
「左手を抜いてみるから…!」
「ダメダメ…、そっちもダメ…!左手、右手全部ダメ…!」
「えっ…。じゃあ…、雨宮が先に起きてくれる?」
「……っ」
少しずつ体を起こしている雨宮の顔が真っ赤になって、俺の頬に彼女の涙が落ちた。全然知らなかったけど、左手は雨宮の胸を…、そして右手は雨宮のお尻に触れていたのだ。なら先の俺は雨宮の胸を揉んでお尻を叩いたのか…、真っ赤になった雨宮と目を合わせた俺はなんとなく罪悪感を感じてしまう。
ごめん…。
「……」
「ごめん…。雨宮…」
「……私、誰かに触れるの初めてだから…。力入れないで先輩…」
「……マジ、知らんかった。謝る…」
うわ…、お花見に行く前に雨宮を泣かせちゃった…。
タオルのやつはなんで床にあるんだ…。てか、先ベランダに行った時に落としたみたい…だ。結論、全部俺が悪いことだった。
「ごめん…。あの、雨宮が言うことなんでもするから今回だけ許してくれない?」
「……おんと…?」
「そ、そうよ!今日は言ってることなんでも聞くからね?もう泣かないで…」
「本当…ですか…?」
「うん。約束する」
「は…、はい…」
お花見をする前にあっちに行くところだった。
しかも、後輩の体を触るなんて先輩として失格じゃない…?お花見が終わったら、雨宮と少し距離をおいた方がいいかもしれない。彼女には迷惑をかけてしまった。
———お兄ちゃん、そこ触ってみて…。気持ちいいでしょう…?
家を出る時に頭をよぎる女の子の声、これ前にもあったような気がする。
「…んぱい!」
「……」
「先輩!」
「あっ…、うん!何?」
「先のこと、約束はちゃんと守ってください…」
「うん。分かった」
「今日、丸一日私のそばから離れないでください!それだけです」
「……え、でも先…」
「だから、丸一日私のそばにくっついてください…」
「分かった…」
こんな俺がそばにいて嬉しいのか…、でもそれだけって言うから他に言えることはなかった。
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