第12話 悩み。
その感覚に、変な記憶が頭をよぎった…。
それは微かに見えるあの時の記憶、もう少しでそれを思い出せるかもしれない…。だったはずなのに、ベルの音と森岡の声にびっくりしてもやもやしていた感覚が消えてしまう。一体、俺は何を忘れていたんだろう…。
「ないのか?柊!」
急いでドアを開けると、手を振る森岡が笑っていた。
「よっ、何してたんだ?」
「まぁ…、ちょっと服着替えてた」
「そっか」
ソファに座る森岡にコーヒーを出してから、俺もその前に座って話を始める。
高林の時も助言したけど、森岡は好きな人ができたら真っ直ぐな男になる。それがよくないって話しても、好きな人には本気でぶつかりとか言ってるし…素直なところが魅力だ。こんなにいいやつをどうして誰も連れて行かないのかな…、目の前の森岡を見ながらそんなことを考えていた。
「あのさ、柊。昨日の…あのあま…あま…名前なんだっけ?」
「雨宮のこと?」
「そ、そうだ!雨宮のこと!どうしてその名前を知ってるんだ…!知り合い?知り合いか!」
「まぁ…、一応そうだけど…」
「頼む!今週のお花見に誘ってくれ…!」
「おい、正気か…?2年と3年しかいないところに1年生って…」
「どうせ、加藤のやつは彼女とくっつく予定だから…。残りの先輩はお前に任せる!」
「それで雨宮と二人っきりになりたいってわけ…?」
「そうだ!」
予想したけど、こいつは本当にすぐ恋に落ちるんだ…。
俺もそこまで仲良くないのに、あんな場所に雨宮を呼ぶのか…。花見だけならいいと思うけど、先輩たちもいるから…それが困るんだ…。このバカ、女子とちゃんと話したこともないやつがまた意地っ張りを…。
「ごめん…。雨宮はそんなこと苦手だからダメだと思う」
「はぁ…、そっか…。あの子、人気者だから早めに声をかけないと誰かに取られるかもしれない…」
コーヒーを飲みながら雨宮のことを想像してみたけど、やはりダメっぽい。
「俺も可愛い女の子とデートしてみたい…!うわぁぁぁぁ…!」
「……そこまで彼女が欲しいのか、俺には理解できないけど…」
「お前と加藤はさ…、なんって言うか俺とは別の世界に住んでる人だから…」
「なんの話だ…?」
「加藤のやつもイケメンだし、お前も割とカッコいいからな…」
「普通だと思うけど…」
「いつも、お前らと一緒にいる俺の気持ちなんか分からないんだろう?俺はその普通にもならないんだから、クラスの中ではいつも村人Aだ…」
森岡はたまにこんなことを言う、自分は俺と加藤みたいなイケメンにならないって…。加藤のそばにはいつも女がいるし、俺も学校で同級生や先輩に告られてるからな…。自然に意識してしまうのは仕方がないことだった。でも、俺は外見だけで人を判断したくない…、森岡も自分のことをもっと愛してほしかった…。
「イケメンになりたい…。何をすれば加藤やお前みたいになるんだ…」
「大丈夫、お前にもいつかいい彼女ができるんだから…。雨宮のことは一応聞いてみるけど、それでも俺は無理だと思う…。それでもいいか?」
「分かった…。無理だったら仕方ないけど、頼む」
そして家を出る前に、玄関から小さい声で話す森岡。
「ごめん…。またそんなことを言っちゃった」
「大丈夫。たまには吐き出した方がいいからさ」
「うん!またな」
「うん…」
———誰もいない薄暗い居間の中。
高林…、そして雨宮か…。
森岡、羨ましいな…。そんなに人のことが好きになれるなんて、俺には羨ましいことだぞ。俺だって悩みの一つや二つはあるからな…、みんなにはまだ話してないけど、実は「恋」をするのが怖い。誰かを好きになるのが怖いんだ…。いつからこうなったのか分からないけど、気づいた時はもう告った女の子の前で吐き気を感じてしまう俺がいた。
だから、誰かが好きになるのが羨ましい。どこから間違っていたのか分からない、分かりたくもない。ただ、美香さんと体を重ねているだけでもう十分だった。
「はあ…、また夜になった」
ため息をついて床から立ち上がると、ベルの音が聞こえた。
「美香さん?森岡…?」
ドアの向こうには何かを持っていた雨宮が、慌てている姿で俺を待っていた。
「こんばんは、雨宮」
「こんな時間にベルを押してすみません…。あの、前にアイスとかご飯とか…いただいて…その…お礼として私も作りました。た、食べてください!」
まだ夕飯は食べてないから、そのお弁当をもらってしまった。俺なんかに気遣わなくてもいいのに、いい子だよな。それより雨宮は…まだ俺に慣れていないのかな…、いつも緊張して手が震えてるのが見えるから…まるで俺が悪いことをしてるヤンキーみたいじゃん…。
「……」
俺が怖いのか、男が苦手なのかよく分からない…。
「ありがとう…。今日の夕飯はまだ食べてないから…」
「へへ…、私はこれで…!」
「ちょっと待って…」
「はい…?」
「あの、雨宮は夕飯もう食べた…?」
「いいえ…、私も今から家に戻って食べます」
「一人じゃ寂しいから二人で食べようっか…?」
「私が一緒に食べてもいいですか…?」
「うん。そっちに行こうか…?うちはまだ何も準備してないから…」
「は、はい…!」
ドアを開ける時の雨宮をぼーっとして見つめていた。
家では白いロングスカートにアイボリーのカーディガンか…、森岡がこの姿を見たらすぐ倒れるかもしれない…。
「どうかしましたか…?」
「うん?」
「いいえ。なんか先輩に見られてるような気がして…、私今日変ですか?」
「全然?むしろ可愛いなーと、思ってた」
「……は、はい」
柊にバレないように、こっそり微笑む茜。
「今すぐ電気をつけます…!」
「オッケー。急がなくてもいいから」
「はーい!」
そうやって俺は雨宮の家で一緒に夕飯を食べることになった。
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