第11話 二年生。−3

「やはり雨宮の人気はすごいな…」

「そうことないんです!人気なんて…。あ、あの先輩!私聞きたいことがありますけど…」

「うん?何?」


 涼しい風が吹いてくる屋上で、俺は雨宮とゆっくり話していた。


「先廊下で聞いたんですけど、神里先輩は彼女いらないって…」

「あ…、そっか。うん、彼女作らないから…俺は」

「この前のことですけど…。家に帰る時、先輩の家から出る綺麗な人を見ました…!」

「あー!あの人か、彼女じゃないよ?たまにうちに来る先輩って言うか…とにかく彼女ではない。どうした?珍しいね…?」


 美香さんのことを見たのか、隣家だから仕方がないな…。

 なるべく注意したいけど、外で美香さんと会うのは危険が伴う。この関係がバレたら美香さんも困る…、そして今はお互いの存在が必要な時…。雨宮には適当に言っておいた方が良さそうだ。


「変なことを聞いてすみません…」

「気になるのは仕方がないね?大丈夫、雨宮はいい子だから」

「はい…」

「俺の口で言うのは恥ずかしいけど、けっこう告られるからさ…。その度、彼女を作らないって言ってるんだ…」

「そう…ですか…?先輩には好きな人がないんですか?」


 少し震えている手で俺の袖を掴む雨宮に、また懐かしい感覚を思い出してしまう。

 これは一体なんだろう…。


「俺の好きな人…、好きな人か…。多分ないかもしれない」

「はい…」

「でも、いつか可愛い彼女ができたらいいなーと思ってる。それがいつになるかは分からないけどね」


 すると、急に声を上げる茜。


「……私!」

「うん?」

「私、あの…、神里先輩と同じ学校に来てよかったと思います…」

「俺も可愛い後輩が来てくれてすごく嬉しい。そうだ…。制服もすごく似合うよ雨宮」

「……はい。ありがとうございます。先輩」

「そろそろ、戻ろうか?」

「はい!」

「後、うちのクラス2年B組だから今日からよろしくね。後輩ちゃん」

「よ、よろしくお願いします…!神里先輩!」


 それから雨宮を教室まで送ってあげて、俺も教室に戻ってきた。

 なんかこっちを睨む男の視線が気になるけど、面倒臭いから無視してスマホをいじっていた。そしたら、前に座ってる加藤が机にノックをする。


「どうだった?あの新入生は?」

「普通に可愛いけど…?」

「森岡の方はどー?またウジウジしてたのか?いろいろ言われて?」

「まぁ…、そうだよな。森岡にめっちゃ言われたけど…」

「アハハハッ」

「笑ってんじゃねぇよ…。俺はお前みたいに助言するのはできねぇんだから…、今度はお前がなんとかしろ」

「え…、俺先輩が持ってるからな…。今日は大事な日…!」

「どうせあれだろう…?いい加減にしろ…!それ中毒だぞ」


 あのにやつく顔は嫌だな…。殴ってもいいってことか…?


「おーい!加藤、神里」

「あ、本人来た」

「森岡か…」


 何かあったのか、俺たちの前に立っている森岡が堂々と机を叩いた。

 めっちゃ気合いを入れてるから、ちらっと加藤の方を見た。すると、自分もよく分からないって顔をして頭を横に振る。なら、こいつまた変なスイッチが入っちゃったってわけか…。目をキラキラして、こっちを見つめている森岡が怖い…。


「今日、空いてるのか!柊!」

「よく分からないけど…」


 俺の答えにくすくすと笑う加藤、何を考えているのかは大体分かっている…。


「ごめん。今日はちょっと…、約束があって」

「女?」

「……なぜ女だと思う?」

「なんとなく…?加藤も忙しいし、お前もできないなら仕方がないな…」


 その悲しそうな顔、やはり俺は困っている友達には敵わないな…。


「分かった。分かった…。一応向こうも忙しそうだからさ、連絡をしてみる」

「お!やはり俺の親友」

「あ、そうだ。お前ら今週暇なのか?」


 スマホを見ていた加藤が俺たちに声をかける。


「柊は暇だから、森岡はどー?」

「なぜお前がそれを決めるんだ…?」

「俺も暇だけど、何?」

「お花見をしようって先輩に言われたからさ」

「いいな…。でも、二人のデートに俺たちが行ってもいいのか?」

「だから、女の友達を連れてきて」

「……」


 すぐ沈黙する森岡に冷え汗を流す加藤、自分が考えてもそれはNGだったからだ。

 

「あ、そうだ。先輩が友達を連れてくるって言ったから、一人だけ…。ダメか」

「一人か、分かった。加藤、森岡の前でそんなこと言うな…」

「いや…。だって先輩が友達も連れてきてって言うから…」

「本当にありがとう」


 と、言って加藤の頭を叩いた。


「どう見ても怒ってるんだけど…?柊」

「じゃあ、日程はお前に任せる。森岡も後で電話とかL○NEするからな」

「オッケー!」


 それから授業を受けて、嵐のような1日が過ぎてしまった。

 家に帰ってきた俺がすぐ美香さんに電話をかけてみたけど、やはり今日は大学の課題で忙しかったんだ…。仕方がなく、森岡に連絡をしてから服を着替える。


 そして脱いだ制服を箪笥の前にかける時、隣に置いている鏡から美香さんが残したキスマークが見えてきた。これ、ちょっとかゆいかも…。このキスマークを見るたび、体を重ねていた時の美香さんを思い出してしまう。やはり、こんな行為は高校生にとって刺激的だったかもしれない。


 ———お兄ちゃん、これは私とお兄ちゃん二人だけの秘密だよ…。


「……っ!」


 急に首筋のところがピリピリする…。

 今のは…、何?

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