2:それぞれの時間。

第7話 慰め。

 終業式の後、クラスメイトたちに嘘をついて今日は早めに帰ってきた。

 なぜなら会いたい人がうちに来る予定だったから、みんなとカラオケに行く暇などなかった。しかし、こんなに寒い日に来るって言うあの人もよく分からないな…。大学の方は大丈夫か、忙しい時期にわざわざ来るような気がしてちょっと引っかかる。


 そして先に着いた俺は部屋に暖房をつけてから、あの人が来る時までじっとしていた。そしたらベルの音とともにドアが開いて、玄関からぶつぶつ言う彼女の声が聞こえてきた。もちろん、あの人はうちの鍵を持っている。でも、ちゃんと自分が来たのを教えるためにベルを押してくれるのだ。


「はぁ…、寒っ!」

「美香さん…」

「ヤッホー!シュシュー」

「いつまであの呼び方で呼ぶつもりですか…?」

「じゃんー、アイス買ってきたよ!」

「……しかと」


 マフラーをソファに投げてすぐ俺に抱きつく美香さんはモデルの仕事をしている大学1年生だった。それより、なんかモジモジしてる…。抱きつくだけで足りなかったのか、美香さんは俺をソファに倒してからさりげなく体を重ねていた。


「会いたかった…?」

「……知らない」

「素直じゃないねー。最後のチャンスだよ?私に会いたかった?」

「……はい」

「よろしい!」

「……馬鹿みたい」

「仕事も大学も忙しいからしんどい…、やっぱりここが一番楽だよねー」

「大人でしょう?ちゃんとやってくださいよ…」

「あれ…?」

「どうしましたか?」


 体をくっつけて、胸元の匂いを嗅いでいた美香さんがこっちを睨む。


「他の女と寝た?」

「……え?いや、そんなこと…」


 あったよな…。この家着は雨宮が着ていたから…それより分かるのか…?


「これ、女の子の匂いだよね?」

「え…、そんな柔軟剤の匂いですよ…?」

「私はシュシュの匂いなら全部知ってるから嘘ついちゃダメだよ…」

「はいはい。ちょっと困っている女の子を家に入れただけですよ。それでこの服を貸してあげただけ…」

「彼女じゃなきゃダメ…」

「はっ…」


 答える暇もなく、美香さんが俺にキスをしようとした。


「いや…。それはちょっと…」

「シュシュが私に逆らうことができる…?」

「いいえ…。生意気ですみません…」

「そう。素直に身を任せて…それでいいの」

「はい…」


 それから俺たちは唇を重ねてしまった。目を閉じて美香さんの体を抱きしめると、そのいい匂いに悪い記憶を忘れるのができる。思い出したくないことも、美香さんが消してくれるんだから…、彼女は俺にとってみたいな存在だった。


「ソファ…、狭い。ご飯はいい、私は今やりたい…」

「はい」

「その前に…、一緒にお風呂はどー?」

「はい…」


 服を脱いでお互いの体を洗ってあげた後、裸の二人は風呂に入る。

 肌と肌が触れ合う狭い風呂の中で、美香さんが俺に抱かれていた。年上だとしても身長はこっちが高いからそれは仕方がない、さりげなく俺に寄りかかる美香さんが微笑んだ。モデルをしている美香さんの体はいつ見ても美しい、その白い背中を見つめてぼーっとしていたら、体の向きを変えて俺と目を合わせた美香さんが声をかける。


「何、考えてる…?」

「いいえ。何も考えていません…」

「じゃあ、キスしよっか…?」

「はい…」


 やばい、美香さんの胸に触れている…。

 慣れないこの状況、それでも彼女は俺の膝に座って長くて濃厚なキスをくれた。


「……ちょっとキスに慣れちゃったかも、シュシュ」

「知らない…」

「それで、あの女の子はなぜ家に入れてあげたの?」


 隠すことでもないから美香さんに雨宮のことを話してあげた。


「へえ…、そうなんだ。それは困るよね?」

「ですね…」

「そこまでやってあげるなんて、シュシュ優しいね。ちょっと顔色が明るくなったかも…?」

「美香さんのおかげです」

「はぁ…可愛い。ねえねえ、私もう我慢できないから…そろそろ…、風呂から上がろう」

「はい…」


 湯気が立つ体、お互いの体を拭いてあげてから髪を乾かす。

 彼女の髪の毛はいつも俺が乾かしている。その間に美香さんは俺のモノを触ったり体を舐めたりして、裸の俺にいろんなことを試していた。特に何も言えない立場、俺には美香さんの言葉を逆らう力がないから言うことをよく聞いているワンコだった。


「ベッド」

「はい」

「やはり、私シュシュの体好き…。今夜は私を抱いてくれるよね?」

「はい…。もちろんです」


 その夜、俺は美香さんと繋がっていた。

 目を閉じて濃厚なキスをする。俺は真っ黒な夜空みたいに、何もないあの夜空みたいに、心を空っぽにしたかった。でも、俺にはこれ以外の方法はなかった。美香さんとするセックスしかない…。そして今日も俺は彼女の胸を揉みながら、彼女の背中を見つめながら、腰を激しく動かすだけだった。


 部屋の中に響く二人の喘ぎ声、そしてベッドには二人の温もりが残る。


「もっと私に強請ってみて、本当に気持ちいいよ…。シュシュ」

「……」

「はぁ…っ…!」


 激しいセックスの後、行っちゃった美香さんの体を抱きしめた。

 息を切らして俺の肩に頭を乗せる彼女は、頬にチューしてから目を閉じる。これは誰にも言えない、そんな関係だった。俺と美香さんだけ、誰も知らない裏で俺たちは密かに絡んでいる。


 あ、そいつなら知っているかもしれない。


 加藤海。

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