第6話 偶然。−2

 体育館に近づくと、余計に緊張をする森岡が見えてきた。先まで自信満々だった森岡どこ行った…?こいつ、いつも彼女が欲しいって言ってるくせに、実は女子が苦手だったのか…?遠いところから見える女の子に、森岡の声が震えていた。


「あ、あそこだ…」

「じゃあ、俺はここら辺で見守ってあげるからさっさと行って来い」

「へっ…?一緒に行こうよ…」

「はあ?なんでお前が呼び出した女の子を俺が一緒に見ないといけないんだ…」

「緊張するから…」

「急に乙女モードかよ…」


 そう言えば、森岡は教室でもあんまり女子と話さないから…。

 まさか本当に女子恐怖症だとは思わんかった…。仕方がなく、一応森岡について行くことにした。てか、こいつと一緒に行くのはいいけど、あの二人が会う場所でそばからじっとする俺もちょっと変だろう…?俺の立場も考えてくれよ、森岡…。


「あ、森岡くん。あれ?神里くんも一緒なんだ」

「た、高林さん…」

「……」


 うわ…、この雰囲気はどうしたいいんだ。

 なんとか言ってみろ森岡…、そのまま固まったらむしろこっちが緊張をしてしまう。でも、あの姿をそばから見ていた俺はもうダメだと思ってしまった…。ウジウジして何も喋れない状態、向こうの女の子も何も言えない森岡を見て首を傾げていた。


「おい、森岡!そろそろ人が来るから早めにしろ。好きだったらはっきり言え!」

「……あ、あの高林さん…、そのL○NEの交換どうですか?」

「あっ、いいよ!」


 震える手でQRコードを見せる森岡に高林が微笑んでいた。


「森岡くんは可愛いね…」

「そ、そう?」


 そうやって二人が話している時、俺のスマホに加藤からの電話が来た。


「ちゃんと話してみて、俺は電話に出てくるから」


 その背中を叩いて、席を外した俺は人けのないところで加藤の電話に出る。


「どうした?加藤」

「よっ、あいつはちゃんと話してんのか?」

「まぁ…、それより知ってたら先に話してよ…。あいつ全然喋れないじゃん…」

「そっか。森岡って口だけだからな…。でも、今は森岡の件じゃない。あの人から連絡はなかったのか?」

「あの人って、美香みかさんのことか?」

「うん」

「あったけど…?どうしたんだ。お前には連絡しないのか…?」

「そっか、連絡ができるならそれでいい。いや、なんでもないから気にしなくてもいいぞ。お前はあの人のことを…、いや、やっぱりなんでもない」

「なんだっ…」


 そう言ってから電話を切る加藤に、思わず「はあ?」って言ってしまう。

 なんだこいつ、美香さんと何かあったのか…。気になるけど、一応美香さんに連絡をしておこうか…。あ、それより終業式が終わってから美香さんと会うことになってるよな…?二人の間に何があったのかは分からないけど、今は森岡のことを優先しないといけないから、後で美香さんに聞いてみることにした。


 急いで建物を出る時、柊のポケットから学生証が落ちてしまう。


「……」


 そしてその学生証を拾ったある人が静かに柊の方を見つめていた。


「あれ…?もう行っちゃったのか…?あの二人…」


 周りを見回す時、森岡からL○NEが届いた。


 翔琉「おい!柊どこ?俺今本館」

 柊「そこまで行ったのか…?俺すぐ隣の建物に入っていたけど、そこまで行ったら先に戻れ」

 翔琉「オッケー。なんかいい予感がする!なんかワクワクしてきた!」

 柊「そっか、よかったな」


 上手く行ったみたいでよかった。

 俺もそろそろ教室に戻らないと、何もしてないのに疲れてしまった。


「あの、神里くん」


 その場から離れる時、先の高林って子が俺を呼び止める。


「あ…、確かに高林さんですね」

「うん。そうよ」

「どうしましたか?森岡のことなら電話で呼んであげましょうか?」

「同級生だから、敬語しなくてもいい…けど…」

「そっか、二人きりだからちょっとね…。それでなんで俺を…?」

「あの…、私実は神里くんのことが好きなの…。だから、L○NE交換してもいい…?」


 俺の聞き間違いなのか、今なんつった…?


「はい…?」


 この人、先森岡とL○NE交換したんだろう…?どうして俺にそんなことを言うんだ。実は俺が好きってなんだ…?冗談か、まだ4月でもないのにこんな冗談を言うのか…?そして森岡のことを可愛いって言ったくせに、よくもそんな笑顔を作るんだ。


「私、神里くんに興味あるの。連絡先、教えてくれる?」

「いや。言いたいのはそれだけ?」

「えっ…?私はダメ…?」

「うん。俺は女子に興味ないからね。言いたいことが終わったら、教室に戻る…。あ、そうだ。先のは聞かなかったことにする。森岡のことも断った方がいいと思う」

「……あの」


 高林か、あの人は想像以上のクズだった。これは仕方がないか…。

 とても気持ち悪い、なんか吐き出しそうだった…。そのまま口を塞いで曲がり角を回る時、同じタイミングで回る誰かとぶつかってしまった。


「あっ…!すいません…」

「す…、すみません…」


 この声は…?


「雨宮?」

「か、神里さん…」

「友達と一緒じゃなかったのか?どうしてここに?」

「一人で見回りたくて…」

「そっか…、高校はここに決めた?」

「はい…!神里さんと同じ学校です!」

「うん。同じ学校だよね。新学期になったらここで会えるかもね?」

「はい!」


 それからスカートについた埃を払ってあげて、雨宮と別れた。

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