第5話 偶然。
雪は止まず、白い空から降ってきた。今日は終業式、俺たちの1年が終わりを告げる日だった。もう2年生になるなんて、時間が早いって言うか…。長く感じられた1年生の時があっという間に過ぎてしまったのが不思議だった。
外を眺めながらぼーっとしてるけど、それより土曜日のあれが気になってしまう。
目が覚めた時の朝、なぜか雨宮がそばから寝ていた。
夢の中で誰かに捕まれた感覚は雨宮のせいか…、しかし床は硬いのにどうしてベッドから降りたんだ…?それよりこの状況は女の子と一緒に寝ちゃったってことになるんだろう…?やばくて少しずつ体を起こしていたけど、ずっと袖を掴まれていたことに気づいていなかった俺は、体を起こすこととともに雨宮を起こしてしまった。
「ううん…」
「……お、おはよう。雨宮」
「……おに、いちゃん…?」
ちょっと悲しそうな声で「お兄ちゃん」と言った雨宮は寝ぼけたまま俺の肩に頭を乗せる。そのままじっとして、数分後、頭を撫でられる感覚に目が覚める雨宮がびくっとした。
「あっ…!ご、ごめんなさい…!つい添い寝を…」
「昨日、よく眠れなかった…?」
「ちょっとだけ、あの…。おかげでぐっすり眠りました…」
「そう?よかった。今日はあの、探している人を見つけたらいいな」
「はい…」
いつも落ち込んでいる雨宮には、なぜか頭を撫でてあげないといけない気がする。
「よしよし…、せっかく週末だからね。少しは笑ってもいいじゃん?」
「はい…」
「ちなみに言っておくけど、俺指一本触れてないから…!心配しなくてもいい」
「はい…」
その顔は何かを話したい顔だったのに、雨宮は何も話してくれなかった。
先からずっとこっちを見ていたから、なんとなく分かってしまう。俺ってそんなに話しかけづらい人間なのか…、髪を茶色に染めたから…?ピアスをしてるから…?
よく分からないな…。
「あの…、雨宮?」
「はい…?」
「袖を離してくれないと、朝ご飯作れないけど…」
「あっ!ごめんなさい」
「ううん…、気にしないけどね。すぐ謝る性格は直して…」
と、言ってからその頭を撫でてあげた。
「待ってて、すぐ作ってやるから」
「はい…」
そしてスマホを取ってくるのをうっかりした俺が再び部屋に入ろうとした時、俺の寝床で俺の枕を抱きしめている雨宮を見てしまった。ちょっとびっくりしたけど、バレたら恥ずかしくなるかもしれないし…。雨宮が俺に気づいていないうち、ゆっくりとキッチンまで戻ってきた。
あれはなんだろう…?
「おいー。柊」
「……」
「柊?」
「……」
「柊!!」
「あ、うん。なんだ…?びっくりしたじゃないか…」
「先からずっと呼んだけど?何してたんだ…?」
「ちょっと、ううん…。もう2年生になるんだ…とか考えてた」
「何それ…」
森岡今日早いな…。普通ならこんな時間に来ないけど、どうしたんだ。
「フフフッ」
「なんか楽しそうだな。お前」
「だろう?昨日、他のクラスの友達から女の子を紹介してもらったんだ」
「へえ…、そうか。よかったな。じゃあ、森岡も彼女ができるってわけ?」
「だから頼む!一緒に行かないか…?」
「どこへ…?」
「あの子と今朝、体育館で会うことになったから…」
「なんで…、今日だ。今日は見学しにくる中学生も多いんだろう?それはともかくなぜ俺なんだ…。加藤の方がそっちに詳しいと思ってるけどな」
「加藤のやつに頼んでみたかったけど、先輩とデートがあるって俺より女子に詳しいやつがそばにいるんだろう?って」
「それが俺…?」
「そう、加藤は女子大生まで落とす恋愛マスターって言ったけど、まじか…?なんか柊に裏切られた気がする」
「俺も彼女いねぇのに、どうしてそんなことを言われてるんだ…?」
やはり加藤のやつはこのまま死んでもらった方がいいかもしれない。
森岡に何を言ったんだ…。恋愛マスターってなんだ…。結局彼女とあれをする時間を稼いだだけだろう…!また俺に任せるのか、加藤のやつ…。と、ぶつぶつ言ってるけど、仕方がなく俺が行くことにした。
悲しいけどこれで8回目の恋愛相談だった。
「分かった…」
「そろそろ時間だ。行こうか?」
「うん」
そうやって俺と森岡が体育館まで歩いて行く時、そばから肩を叩く森岡が大声を出していた。
「おいおい!柊!」
「なんだ…?」
「あの子、あの子!」
「あの子?」
「……やべぇ」
今日は中学生たちがうちの高校に見学しにくる日、軽はずみに振る舞う森岡が指で指したところには中学校の制服を着ている雨宮がいた。それより、本当にちっちゃいな…。友達と学校を見回してるのか、いい時だよな…。俺にもそんな時があったけど、興味なかったから、すぐあの人と遊びに行っちゃった。
遠いところで見るとこんな感じか…。新入生…。
「あの子、めっちゃ可愛いな…!すっげ、めっちゃ可愛い!」
「そうだよな。中学生だろう?それよりお前女の子を呼び出したくせに、他の女の子を見てるのか…」
「あっ!そうだ…!行こう行こう!」
「うん」
向こうから翔琉の頭を叩く柊に気づいた茜、彼女はその場に立ち止まって柊のことをじっと見つめていた。
「茜ちゃん?」
「……柊兄ちゃん、制服もカッコいい…」
「茜ちゃん!」
「あっ…!うん!ご、ごめん…」
「どうしたの?あっちにいる先輩たちを見てた?」
「全然…!」
「あ、あの人!神里先輩だよね?うちの中学校で有名人だよ」
「そうなの?」
「うん。あ、そう言えば、茜ちゃんは3年の時に転学したから分からないよね?」
「……うん。へえ、有名人なんだ…」
「カッコいいし、性格もいいし、頭もいいって…。いつもイケメンの加藤先輩と一緒にいる人なの。ちなみに、これは噂だけどね?周りに女が多いって…」
「うん。そうなんだ…」
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