第4話 眠れない夜。
今日はゲームの約束があったけど、俺は部屋ですやすやと寝ている雨宮を確認してから居間に出ていた。静かにお茶を淹れて、少し冷たい居間のソファに座る。そして先から鳴いていたL○NEの通知を確認した俺は、すぐ加藤に電話をかけた。
「神里?」
「うん」
「お前、どうしたんだ?今日はランクマッチだぞ?ヒーラーがないから苦戦中ー」
「そっか、ちょっとやるべきことがあって今連絡した」
「女だ」
なんでそれが先に出るんだ…。しかも、正解なのが一番怖いんですけど…?
「ちゃう…」
「お前さ、他のことだったら俺に電話なんかしないからな…。なんとなく分かってしまう。森岡の方は女子に飢えてるから、すぐ怒るし。だから俺だろう?」
「そっか…、やはりこういう時には加藤の方が楽だ」
「それで、あの大学生のお姉さんとはもう別れた?」
「別れてないし、その前に付き合ってないけど…?」
この状況であんな冗談が出るのか、やっぱりこの恥知らずは…。
でも、それが加藤の長所だけどな…。2年の先輩と付き合ったのはあいつがカッコいいこともあるけど、それより人間の心理に詳しいって言うか…。あいつと話してみると、なんとなくこっちの考えが読まれるような気がする。
「へえ、そうなんだ。てっきりもう付き合ってると思ったけど」
「お前のように、軽々付き合ったりしねぇよ」
「こっちも告られたから仕方がないじゃん…?先輩がそんなに好きって言うから、断るのも可哀想だろう?」
「あ…、加藤はそのままで安心した」
「え、悪口?それより今日は来ないのか?何してんの?」
「今はあの子を寝かせて、居間でお茶を飲んでる。多分今日は無理かもしれない。ごめん」
「まぁ…、謝る必要はないけど…。時間も遅いし、早めに済ませた方がいいと思う」
「……本当、加藤らしい」
この状況であれの話をするのか、
「じゃあ、今日のランクマッチは二人でやるからさ。お前もセックス頑張れ!」
「セックスなんかしねぇよ」
あ、電話切れた…。そう言えば、こいつに一言言わせるのを忘れちゃった…。
「まぁ…、いいっか」
「あ、あの…」
電話を切った後の静かな居間で、雨宮の声が聞こえた。
もしかして俺の声が聞こえたのか、びっくりしてスマホを握りしめていた。すると、枕を抱きしめたまま俺のそばに座る雨宮が再び声をかけてくれた。
「あの…」
「ど、どうした?雨宮?」
「か、神里さんはあれがしたいんですか…?」
……やっぱり聞こえたのかぁ。
「いや…、友達が変な冗談をするから一言言ってあげただけ…。俺、不良に見えるかもしれないけど、そんなことしないから…心配しなくてもいい」
「は、はい…。すみません。眠れなくて、居間で温かいのが飲みたくて…」
「あ、そうか…。やはり他人の家で寝るのは大変だよね?ココア?ミルク?どっちがいい?」
「ミルクの方でお願いします…」
「了解」
パジャマのズボンが大きくて床に引き摺られている。
俺が178センチだから…仕方がないか、雨宮はどう見ても155センチくらいだからな…。そしてミルクを温めながら居間の方をちらっと見ていた俺は、座高より大きい枕が見えていて、ついくすくすと笑ってしまう。よく思い出せないけど、雨宮はあの頃の女の子と似ているような気がした。
「はい。どうぞ」
「ありがとうございます…!」
フーフーと吹きながらミルクを飲む雨宮に声をかけてみた。
「もしかして眠れない…?」
「はい…。実は眠いんですけど、ちょっと物足りなくて…」
「あ、もしかして必要な物でもある?うちにあったら用意してあげるから」
「……恥ずかしいですけど、あの…。枕を…」
「枕?」
「もう一つ、お願いしてもいいですか…?」
枕をもう一つか、高さのせいではなさそうだし…。物足りないって言うのはやはり枕で何かをするってこと、なら何を…?それを考えながら箪笥の中で雨宮が抱きしめている枕と同じ枕を取り出した。
「はい」
「ありがとうございます…。そしてすみません…、変なことを…言っちゃってやはり私は迷惑ばかり…」
「いいよ。大丈夫!」
「そしてミルクも…ありがとうございます…!」
そう言ってから俺たちは部屋の中に入る。
二人が一つの部屋に入るのがちょっと引っかかるけど、そんなことはしないから俺は床で寝床を作った。くっそ…加藤のやつ、電話で変なことを言うから寝られないじゃん…。それでも頑張って寝ようとした時、ベッドから雨宮が寝返りを打つ音が聞こえてきた。
枕をあげても眠れないのか…。すぐ床から起きて雨宮の調子を確認すると、枕をぎゅっと抱きしめたまま震えている姿が見えてきた。先の電話を聞いたからか、雨宮すごく震えてるけど…。このまま起こしてもいいのか、余計なことをしてまた怯えてしまったらどうする…?ちゃんと考えろ神里柊。
「……」
やっぱダメだ。このままじゃ雨宮は寝られない。
「雨宮、大丈夫…?」
「……えっ?」
なんで涙を流しながら答えるんだ…。
「いいえ。なんでもないんです…。ちょっと…、いいえ。やはりなんでもないです」
「なんかあったら話して、明日は週末だからゆっくり寝てもいいぞ」
「はい…」
そして深夜3時。ぐっすり眠っている柊をベッドから見つめていた茜は、抱きしめている枕を持って柊のそばから添い寝をする。
静まり返る部屋の中。茜は片手で柊の袖を掴んだ後、その横顔を見つめながらこう話した。
「お兄ちゃん…」
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