第3話 誰かと食べるご飯。

「はいー。お待たせ!何が好きなのか分からないから適当に鍋にしたよ」


 部屋の中にいる雨宮を呼び出した。

 寒い日はやはり鍋を食べるのが一番だよな…。そうやって俺たちは湯気が立つ鍋の前に座っている。素直に話を聞いてくれてありがたいけど、なんか見知らぬ人が料理までやってあげるのはちょっと煙たいかもしれない。


 ちょっと緊張している様子でなんか悪いな…。


「……ありがとうございます!」

「食べてみ」

「はい…!」


 先に鍋を食べる雨宮、その姿を見ていた俺は微笑んでしまう。

 前にもこうやって誰かに鍋を作ってあげたような気がする。目の前の雨宮は全然知らない人なのに、どうしてこんなに懐かしいんだろう…?帰り道に女子中学生を拾って家に寝かせて、ご飯を作ってあげる男か…、なんかこれもこれなりに楽しいかも。


 腰までくる長い黒髪と透き通るような白い肌、そしてちょっと垂れた目が男の保護本能をくすぐっていた。初めて見た時は知らなかったけど、雨宮は臆病なところがあってそのままほっておいたら本当にやばくなるかも知らない…。


 もぐもぐと食べるのは可愛いけど、口に合ったらいいな。


「どー?」

「美味しいです…!」

「よかった…」


 ご飯を食べながら何か話題を考えないといけないのに、このすごい静寂を破れる方法が分からない。雨宮はそのまま黙々と食べてるし…。てか、それより先から気になっていたけど、俺があげた服ちょっと大きくないか…?雨宮、肩が丸見えだけど。


「あのさ、雨宮」

「はい?」

「服、やはり大きいよな…?」

「……」


 顔を赤めて肩を隠す雨宮を見ると、なんとなく罪悪感を感じてしまう。

 なんか…、すみません。


「大丈夫です…。むしろ、服を貸してくれてありがとうございます…」

「そっか…、ごめん。変なこと考えてないから…、誤解しないで…」

「はい…」


 今まで見てきた女子と違って、どう話したらいいのかマジ分かんね…。


「そうだ。あの、雨宮ってどこに住んでる…?」

「〇〇マンションです…けど…」

「え?マジ?」

「はい…?なんかおかしいところでも…?」

「そのマンションってここよ」

「え…?そうですか…?高校生になったら一人暮らしをしてもいいってお母さんに言われて…、今年からこのマンションに住むことになりました」

「そっか…。じゃー、家に帰るのは問題ないよね」

「……」


 俺と同じマンションに住んでるのか、遠かったら帰るのも問題になるからよかった。食べ終わったら雨宮を家まで送ってあげよう。それからゆっくりお風呂に入って、あのバカたちとゲームでもしようか…。


 しかし、よく食べるな…。小動物みたいで可愛い…、満足しているその顔が見られてよかった。俺も久しぶりに誰かとご飯を食べて、すごく楽しい。


 そして思わず、雨宮の頭を撫でてしまった。


「えっ…?」

「……あ、あ!ごめん!つい」

「……いいえ、大丈夫です。ちょっと恥ずかしいけど…」

「ごめん…。雨宮と二人でご飯を食べてるからね。昔誰かにこうやってあげたことを思い出してつい…。それが雨宮でもないのに…ごめん」

「はい?本当ですか?」

「え…、うん」

「覚えて…いますか…?」

「いや…、感覚的に覚えてるって言うか…。小学生の時だから、顔とか名前とか…思い出せないな…」

「はい…」


 なんか落ち込んでるような…。俺もしかして変なことでも言ったのか…?


「そう言えば、雨宮って探してる人がいるって言ってたよね?」

「はい…」

「探すってことはやはり連絡ができない人?」

「はい…。この辺りに住んでいます…」

「へえ、羨ましいな…」

「何がですか?」

「お母さんに一人暮らしの許可をもらったら、残ったのは友達、あるいは男だろう?こんなに可愛い女の子が探しにくるなんて、羨ましいじゃん…普通に」

「……そんな、私あんまり可愛くないです」

「そういうところが可愛いんだよー」


 ちょっと待ってなんとなく話したけど、これはまるで加藤と同じじゃないのか…?俺はいつかこんな気持ち悪い話ができる男になったんだ…。あいつが毎日言ってるからか、来週学校に行ったら一言言ってやる。


 よく分からないけど、多分加藤のせいだ。


「じゃあ、そろそろ食べ終わったし。片付けるのは俺一人でいいからカバンとかちゃんと確認して、家に送ってあげるから」

「はい…?いいえ、大丈夫です」

「いやいや、むしろこっちが心配になるから家まで送ってあげる」


 そのまま服を着替えた雨宮と家を出る。

 そしてすぐ雨宮の家に着いてしまう。まさか、すぐ隣の家に契約するとは思わなかった…。だから、出る前にウジウジしてたんだ…。すぐ隣だったから、でもこれでいいと思う。なんかあったらこっちも心配になるから…、うん?心配になるから…?


 あれ…?俺、なんで雨宮のことを心配してるんだ…。先から…。


「じゃあ、失礼しまーす」

「汚いです…。まだ荷物が全部届いてないので…」


 引っ越ししたばかりだからボックスがいっぱいなのは分かるけど、なんか物足りないこの気分はなんだろう…?


「あれ…?ベッドないじゃん?今日はどこで寝るつもり?布団もなさそうだし…」

「床で適当に…」

「はあ?それはダメだ。やっと体が回復したのに、これはダメだよ」

「いいです!これ以上、迷惑をかけるのは…」

「いいからうちで寝ろ。あの人を探すのは明日からやってもいいだろう?」


 心配になって知らないうちに声を上げていた。


「はい…。ごめんなさい…」

「ごめん…、声が大きかった…?」

「ちょっとびっくりして…」

「ごめん…。やっぱりいいよな…。変なことを言い出してごめん」

「ごめんなさい…。あの、今日だけ…、今日だけ…お願いします」

「うん…。分かった」


 そして今俺のベッドに雨宮が寝ている…。

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