第2話 雪の日。−2
あれ、もしかして気を失ったのか…?今日は風も強いから…。
このまま女の子をほっておくのはいけないよな…。仕方がなく、彼女の体を持ち上げて俺の家に連れて行った。家も近くにあるし、この子は意外と体が軽かったから楽にできそうだった。森岡がこれを見たら、また変なことを言い出すかもしれない…。
女子に飢えているから…。
「でも、どうしてこんな寒そうな格好をしてるんだろう…?」
一応俺の部屋まで連れてきたけど…、上着くらいは脱がしてもいいんだよな…?
めっちゃ濡れてるし、風邪を引くかもしれないからタオルと俺の家着を持ってきた。すやすやと寝ているのか…、その前に彼女の熱を測って濡れた顔や脚を拭いてあげた。最後は…濡れた服だけど、これは早めに着替えさせるしかないよな…。
「ごめんなさい…。許して、変なことは考えてないから…」
俺のベッドに寝かせて、暖房をつける。
なんか、これ…外で動物を拾ったような…。そんな気がした。
「この歳で女の子を拾うなんて、なんだろう…」
そして濡れた彼女の上着を乾かそうとした時、ポケットの中からスマホとある写真が床に落ちてしまった。
「うわ…、やばっ…」
瞬発力でスマホはギリギリ落とさなかったけど、一枚の写真が取りにくいところに入ってしまって、まずはこの上着を乾かすことにした。
「すぐ起きるかもしれないから、ココアでも淹れておこうか…」
お湯を沸かして、先に落とした写真を探す。
箪笥の下に入ってしまったこの褪せた写真には小さい子供が3人写っていた。それ以外にはよく分からない。彼女の物だから大切なことだと思って、スマホとともにベッドの隣に置いておいた。
ちょうどお湯が沸いてキッチンからココアを持ってきた時、片手で目を揉んでいる彼女が小さい声でこう話した。
「ううん…、お兄ちゃんなの…?」
「え…っと、なんって言うか…。先遊び場で会った人って言った方がいいかもね」
「え…?先の優しい人…。温かい飲み物を渡してくれた人…」
「そうよ…。気がついたかな…?」
「ここ…はどこですか?」
ちょっと怯えてるような顔をしていて、先にココアをあげた。
「これでも飲んで、外で倒れたからうちまで連れてきた…。ごめんね」
「ありがとうございます…!いいえ、ごめんなさい…」
小さい手でコップを握る彼女は「フー」と吹いてからココアを飲む。
「温かい…、ほ、本当にありがとうございます…!」
「いやいや、気にしなくてもいい。それより体をちゃんと温めて、風邪を引くかもしれないからね」
「はい…、あの…すみません」
「うん?」
「この服、私のじゃないですけど…」
「……」
素直に話してもいいのか、ちょっと緊張してしまう。
「雪のせいで服が濡れちゃってさ…、俺の服で着替えさせちゃった。ごめん…、勝手に手を出して…」
「……あの、あ、ありがとうございます」
ココアのおかげで体が暖かくなったのか、ちょっと赤くなっているその横顔が見られた。時間はもう午後7時になったけど、この子は今起きたばかりだから家に帰らせるのは無理だよな…。話をかけようとしても、女の子とまともに話したことないからいい話題が思い出せなかった。
「……あのさ」
「あの…」
「あ、先に言って」
「いいえ…。えーと…」
「あ、俺の名前は神里柊高校1年生だよ」
「は、はい…。私は…あの
「そうか、雨宮って呼ぶんだ…」
先まで固まっていた表情が和らぐ、知らない男の家に来たからしょうがないよな。
そしてウジウジしている雨宮がコップをいじりながら俺に声をかけた。
「あの、か、神里さん」
「うん?」
「私のスマホ知りませんか…?」
「あ、スマホなら隣のテーブルにあるよ。ごめん、上着を乾かす時に取っておいたから…」
「写真も…」
「うん。そこに置いておいた」
「ありがとうございます…!」
女の子って…こんな感じか…。
いつも怖い先輩ばかり見てきたから、むしろ目の前の雨宮が普通だと思ってしまう。教室にいてもクラスメイトたちとはあんまり話さないから…普通の女の子がよく分からない。しかも、俺に告白した同級生が2年の先輩に呼び出された時は…。
思い出したら怖くなってしまった。
「あの、神里さん…!ココアありがとうございます!」
「そうだ。いっそうちでご飯でも食べたら…?」
「えっ…?そんなに迷惑をかけるのは…」
「俺は一人暮らしだから気にしないけど、嫌だったら後でタクシーを呼んであげる」
「……」
それから二人の間に静寂が流れる。
すると、「ぐぅぅ〜」とお腹から鳴る可愛い音につい笑いが出てしまった。
「フッ…」
「……ひっ、聞こえましたか…?」
「ご、ごめん…。笑うつもりじゃ…」
「……あの、た、食べます!」
「うん…?」
「夕飯…、食べます…。だから先のは忘れてください…!」
「分かった…。じゃあ、部屋で体を温めてね」
「はい…」
そして部屋を出る柊の後ろ姿から目を離さない茜、褪せた写真を触りながら小さい声で話した。
「神里柊…」
何かを思い出したように、茜はその写真をじっと見つめていた。
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