第4話 綾乃さんと一緒に寝る

 着替えをクローゼットに入れ、学校関連の物を学生鞄に移す。

 本はそのうち本棚を買って収納するとして、ノートPCは床に直接置いとけばいいだろう。


 私物を配置し終わった俺は、浴室のほうに目を向ける。

 こんなに部屋が広いんだから風呂場も大きいんだろうな。今は綾乃さんがシャワーを堪能しているので確認できないけど。


 ……あのドアの向こう側に裸の綾乃さんがいるんだよな。

 それを意識したら、なんだかドキドキしてきた。


 綾乃さんは女性にしては高身長で細身の体型だ。しかし出るところはしっかりと出ていて、実に女性的である。そんな魅力溢れる肢体を持つ綾乃さんが、すぐそこで裸になっているのだ。これでドキドキしない男なんていないのではないか。


 なんて考えていると、浴室のドアが開いた。

 そして出てきたのは……バスタオル一枚だけ身体に巻いた綾乃さんだった。


「あーさっぱりした。やっぱり広い浴室でシャワーを浴びるのは最高ね」

「ちょっと綾乃さん! なんて格好してるんだ!」

「着替え忘れちゃってね~。悪いけど、そこのチェスト開けて取ってくれる?」


 綾乃さんは恥ずかしがる素振りもなく、大胆に歩み寄ってくる。

 バスタオルから伸びる素足の肌色が眩しくて直視できない。


 綾乃さんを見ないように視線を必死に逸らしながら洋風のタンスを開けると、目に飛び込んできたのはアダルティックな下着。ブラはともかく、レースのTバックは非常に布面積が少ない。こんなの穿いたらお尻が丸見えじゃないのか。


 恐る恐る下着と上着を手に取って綾乃さんに献上する。

 もちろん視線は逸らしたままだ。


「怯えなくてもいいわよ。いきなり取って食ったりはしないから」

「いきなりそんな格好で出てくる人の言葉は信用できない……」

「この程度の格好でびくびくされても困るわ。これからはもっと凄いところを見せてあげる予定なのに」


 服を受け取った綾乃さんは、俺を挑発するようにバスタオルの脚部分をちらちらと捲る。ほどよく膨らんだ柔らかそうな太ももが目に入り、これ以上は股間が反応しそうだったので後ろを向いた。


 綾乃さんが服を着る音が聴こえ、一分も経たないうちに止まった。

 ここで振り返ったらまずい気がする。衣擦れの音はフェイクで、全裸になった綾乃さんが飛びかかってくるかもしれない。俺は騙されないぞ!


「もう振り向いてもいいわよ?」

「ぐぬぬ……ちゃんと服を着てるんだよな……?」

「ふふ、どうだと思う? 振り向いて見なきゃ分からないわよね?」


 ぺたぺたと裸足が床を踏む音がして、綾乃さんが俺の側面に移動する。

 ここは慎重に横目だけでチラ見して肌色率を確かめるべきだろう。


 というわけでチラっと横目で見たら、普通にTシャツとショートパンツを身に着けた綾乃さんがいた。


「裸じゃなくて残念だったわね~思春期男子くん♪」


 にやにやと意地悪い笑みを浮かべる綾乃さんが、まるで悪戯好きの悪魔のように思えた。


 綾乃さんにからかわれた後、夕食を取ることに。

 料理を作るのは綾乃さんが担当する。交代制のほうが負担が少ないと提案したが、どうせ暇だから食事を用意するのは任せてほしいとのこと。もともと料理は得意らしく美味しい食事が期待できそうだったので、ここは彼女の厚意に甘えることにした。


 テーブルに並んだ夕食にありつく。

 料理上手を自負するだけあって、とても美味しかった。

 ただ美味しいだけなく、俺好みの濃い味付けなのが最高だった。


 夕食を終えたら風呂に入り、今後の生活について話し合った。

 恋人とはいえ決めるべきルールはある。立ち入らない領域をしっかりと定めた俺たちは寝ることにした。


 ベッドは二つあり、三十センチほど離れて並んでいる。

 綾乃さんは壁際の内側、俺は外側のベッドを使うことに。

 電気を消して、俺たちはベッドに横になる。


 目を閉じて寝ようと心がけるが、すぐ横のベッドに綾乃さんがいることを意識すると、なかなか寝付けない。恋人ができたのは初めてで、異性と同じ部屋で寝る経験なんてなかったから緊張する。


 しばらくドキドキした気持ちを持て余していると、綾乃さんが寝返りする気配がした。


「うーん、なんだかムラムラして眠れないわ」

「そんな男子みたいなこと言って……」

「あら、女もムラつく夜があるのよ? 私は特に性欲が強いほうだから、定期的に発散しないと眠れないのよね」


 綾乃さんが性欲強いってことは、今までの言動でなんとなく気づいていた。そういうところを解消してあげるのも彼氏の役目なのだろうが、いかんせん性知識が少ない童貞には荷が重い。


「ねーハルくん?」

「無理」

「まだ何も言ってないでしょ?」

「どうせエロいことしようって言うつもりだろ?」

「そうだけど。ハルくんはエロいことしたくない?」

「したいけど、今じゃないよ。今日はもう疲れたんだ」


 ありきたりな言い訳の言葉を伝えると、綾乃さんは諦めたようだ。

 三十秒も経たないうちに寝息が聴こえてくる。めっちゃ寝付きが良いじゃんか。ムラムラして眠れないとは何だったのだろうか。


 ……俺も寝よう。


 明日から本格的に始まる同棲生活に期待と不安を覚えながら、俺は眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る