11月
11/1~11/10
1日
誰かからの愛がほしかった。だから私は、誰彼構わず愛を配った。そうすると、誰もがそれを受け取ってくれた。でも私に愛はくれない。
どうしてかわからなくて、どうすればいいかわからなくて、私は泣いた。その涙を、掬い上げてくれた人がいた。それが貴方だった。その時に、私は初めて愛を貰ったの。
「馴れ初め」
2日
貴方が私を疎ましく思っているのは知ってた。でも貴方は私を大事にしてくれている様に感じるから。淡い期待をしてしまったの。貴方も実は私のことが、と。
でも知ってしまった。私は亡くなった貴方の大事な人の代わりなのだと。
じゃあ完璧にその人と同じになってやろうじゃないか。そう思ったんだよ。
「遺書」
3日
いつもの景色に霧がかかると、いつもの景色と違って見える。何だかお伽噺の世界に迷い込んだみたいなの。
あの陰から、兎が飛び出して道案内をしてくれないかな。土竜が軽快に話しかけに来てくれないかな。あの道を行ったら、運命の人に会えるかな?
主人公の気分で、スキップで霧を切って進んで行く。
「お伽噺のはじまり」
4日
この世で最も美しいものがあるとするならば、それはきっと貴方のようなものなのでしょう。
貴方だけがこの世界の正義です。貴方の美しさだけが、間違いのないものなのです。
だから皆が貴方を選びます。各言う私もその一人。大勢の中の一人なのです。
いつか貴方は私を必要としなくなる。その日まで。
「側にいさせて」
5日
俺は今日の日のために猛勉強をした。それはあの人に振り向いてもらうため。よし、問1のこたえは「ス」……っと。問2は「キ」……。俺はたまらず赤面した。まさかあの人も、俺と同じ……!
「先生!俺も好きです!」
テスト返却の日に、俺は叫ぶ。すると先生は眉をひそめ、「何の話?」と言い放った。
「ちなみに結果は赤点だった」
6日
甘い感触のクリームに、カラフルな思い出のフルーツを乗せる。その上に、ちょっと苦い感情のパウダーを隠し味にかけておいて。仕上げに、懐かしい気持ちの生地でそれらを巻くの。
そうしたら、上からパクリと食べて。食べるときに零しちゃ駄目だよ?全部全部、大事な記憶なんだから!大事に食べてね!
「記憶のクレープ」
7日
喋ることが苦手。周りの人は激流の会話の川に難なく乗ってしまって、私も乗ろうとワタワタしていると、もう流れは過ぎ去ってしまっている。
貴方はそんな私の脇にボートを置いて、ゆっくり乗るのを待ってくれる。そして激流の川を、ゆっくり下っていくの。少し悔しいけど、その時間がとても心地良い。
「会話の川」
8日
軽やかに地を蹴って、舞うようにそこにいる君の姿に、僕は恋をしたんだ。
追いかけて、せめてその服の裾だけでも掴もうとするんだけど、あまりにも綺麗な布は、僕の手に掴ませてくれない。滑って、すり抜けていってしまう。
君は僕のことなど露知らず、笑うだけ。ああ、これは……届かない恋なのだな。
「天衣無縫」
9日
今夜。
貴方を奪いに行きます。
太陽や月から、一生見つからなくなるよう、貴方を隠してみせます。
他の誰もいない、貴方と私だけの世界に連れていきます。
貴方が悲しむことも、苦しむことも、何もありません。もしあれば、私のせいにしてください。
さあ、行きましょう。もうすぐ夜が明けますから。
「怪盗」
10日
陳腐な夜明けに、朝焼けはいらない。
そんな下らない夜を超えなければいけないくらいならば、その夜を面白くしようよ。朝に、ああ全部夢だったんだな、と笑い飛ばしてしまうより、この夢から覚めたくなかった、と嘆く方が、何倍も素敵だ。
朝はもう来なくていい。だから、二人でこの夜を閉じ込めよう。
「夜に住む」
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