5/21〜5/31

21日


写真を撮ることが苦手だ。何を撮ればいいかわからないし、撮ったとしても絶対ブレるし、とても人に見せられるものじゃない。

それでも撮ることは好きだ。この瞬間を切り取るその時、その一瞬は私だけのものになる。

下手だけど、頑張るよ。せっかく撮るんだ。この一瞬を、綺麗に残してあげたいから。


「好きこそものの上手なれ」




22日


貴方の存在が、私の価値を作る。

私に選択権は無い。それと同時に、貴方にも選択肢は無い。私と貴方は運命共同体。私たちは、運命で出会う。誰かがこうしろ、と指示をするわけではない。本当に、全くの偶然だ。

一方的な愛を注がれ、私は水の中を揺蕩う。やがて光が差し込んで。


「生まれましたよ!」


「親子」




23日


「今日キスの日なんだって」

「何で?」

「さあ」

彼女がスマホ片手にそう言って、あっ、と声をあげる。

「初めて映画でキスシーンが流れたとか」

「ふぅん。それに乗じてイチャつくカップルは滑稽だな」

「捻くれてるなぁ」

横を向く。次いで、唇に柔らかな感触。

「ほら」

「ほらじゃないわ」


「滑稽なカップル」




24日


誰もがな、「そんなこと無理に決まってるだろ」ってこっちを指さして笑ってくんだ。でもな、お前ら、一度でもやったことあんのかよ?これを全力でやって、それで無理だったんなら、まだ言う権利はあるかもしれねぇ。でも、何も知らねぇやつが口出すな。

俺は必ず不可能を可能にする。叶えてみせる。


「見てろよ」





25日


意識して歩くと、少し景色が変わるらしい。

例えば、今日は防犯カメラを意識して歩こう、今日は猫を意識して歩こう。そう決めると、歩いていて自然とそれらが目に付くようになるだとか。

だが僕は一つだけ、不思議なことがある。それは、そう決めたわけではないのに、いつも君の姿が目に付くことだ。


「いつも君を意識して」




26日


感情を言葉にすることは、とても難しい。

感情の名前なんて、知らなかった。周りはムカつくものばかりだった。でも突然現れた貴方が、俺に名前を教えた。「それは悲しいということよ」「それは腹が立ったということよ」。俺は感情を知った。


今、貴方は箱の中で目を閉じて喋らない。ああ、ムカつく。


「ムカつくの裏」




27日


雨の日は好きじゃない。

濡れて気持ち悪いし、髪はぼっさぼさになるし、頭痛くなるし。

しかも風が強いから、傘の骨が折れた。はあ。

下駄箱で待っていると、君が来た。まさかこれは、相合い傘をする流れ……。

「お前も傘忘れたのか?」

「忘れてない。折れた」

「じゃあ走るか」

「一緒に?」


「相合い傘ではないけれど」




28日


この世界は乙女ゲームになったらしい。

寝るだけでも「寝ますか? はい/いいえ」といった選択肢が出るようになったのだ。何でもかんでも選択肢。少し面倒だけど、これなら気になる彼にもアプローチが!

そして朝、彼に会って


「俯く/無言で通り過ぎる」


世界が変わっても、私は変わらないらしい。


「乙女ゲームのヒロインに」




29日


今日は何もしていない。

おかしい。こんなはずではなかった。今日は掃除をして、少し凝った料理を作って、外に散歩に行こうと思って。なのにこれはどういうことだ。私はリビングで大の字になって寝ていた。朝からこうだ。何もしていない。時計が鳴り、正午を告げる。

まあ、たまにはこんな日もいっか。


「昼間」




30日


気づけば、春用の上着は必要なくなっていた。

出かけるときに帽子は必要だし、そんなに飲まないから、と言って半分くらいしか入れていなかった水筒も、満タンにしないと足りない。いや、満タンにしても足りない。

靴下ももういらない。サンダルを出して……私は息子を送り出す。行ってらっしゃい。


「夏の母」




31日


……。

……あ、もしもし〜、聞こえてっか?……こっちも聞こえてる!

いや〜、結婚おめでとう!ていうかお前ら、付き合ってたのかよ!?俺ら幼馴染なんだから、教えてくれても良かっただろ〜?幸せにな!

……って何だよ、泣くなよ〜!何か俺も泣いちゃうだろ!

スピーチも用意するから!任せろよ!


「道化師」

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