5月
5/1〜5/10
1日
圧倒的な力を目の当たりにした。
空をかける光。僕の瞳にその目映い光を焼き付けるだけ焼き付けて、とっとと何処かへ行ってしまうんだ。どうやら僕に、興味なんてこれっぽっちも無いらしい。
ああ、悔しいな。あんなに強くて、僕たち人間なんて、本当にちっぽけな存在じゃないか。
足が震えるよ。
「雷」
2日
「危ないよ」
「平気平気〜」
とは言っても、危なっかしいものは危なっかしい。いつ君が落ちるか、こちらはヒヤヒヤしながら見ているというのに、君は楽観的に笑うものだから。
「うわっ!?」
「え、ちょっと!?」
君が海に落ちる。反射的に手を伸ばし、僕も落ちる。
海の中、目が合う。笑い合った。
「テトラポット」
3日
煙草をふかそうと、ライターを取り出した。カチッ、カチッ。何度もスイッチを押すが、火が付かない。そういやここの部位の名称は何なのだろう、なんて考えているうちに、ようやく火が付いた。
煙が空に昇っていく。それはまるで、戦国時代の開戦の狼煙だった。
禁煙のし時だろうか。
「きっかけ」
4日
暗闇が嫌い。
だって、一人ぼっちだから。
隣にいたって見えないから。だったらいないのと同じでしょ?本当にいなくなっても、私はきっと気づけないから。
手が触れる。でもすぐに離れてしまう。待って、と手を伸ばしても、手は何も触れない。
でも不思議。辺りが輝いた。それはそれは、優しく温かく。
「星」
5日
スマホ依存症だ、とよく言われる。
でも違う。私が依存してるのは、こんな薄っぺらい板なんかじゃない。
ピロン、と通知を知らせる音が鳴る。見ると君からで、私は小さく微笑んでしまう。
すぐ返信したら、気持ち悪いかな?ああでも、早く君と話したい。
わかるでしょ?スマホ依存症じゃないもん。
「依存症」
6日
「今日は暑いね」
君がそう笑う。なら家の中にいればいいのに。と言うと、だってあんたといると楽なんだもん。と君は笑った。
「髪、結んであげようか」
私がそう言うと、お願い、と君は頷く。もう一個持っていたヘアゴムで、君の髪を結んだ。項に伝う汗が綺麗で、髪も綺麗で、気持ちが落ち着かない。
「ヘアゴム」
7日
何かをしていたわけではなかった。何かが悲しかったわけではなかった。何かに怒ったわけではなかった。
心当たりなど全く無い。信号待ちをしている間、何も考えていなかった。
なのに、涙が出た。
誰も私のことなど見ていない。信号が青になって、周りは一斉に行進しだす。
それがとても楽だった。
「無意識」
8日
鼻歌を歌う。
それはとてもデタラメな歌で、テンポもメロディーもめちゃくちゃ。それでも私は軽くステップを踏んで、歩いていくの。
「それ、何の歌?」
「何の歌でもないよ」
「そっか」
水溜りを踏んで、貴方の隣を歩く。路傍の花に乗る雫がキラキラ光る。
だから私は、歌いたくなるの。
「歌」
9日
僕の親友が死んだ。自殺だったらしい。
死因を聞いて、思わずあいつらしい、と思った。学校の屋上から飛び降り、朝に教師に発見されたとか。あいつ、学校が好きだったから。
あいつは変わり者で面白い人間だった。でも就活で失敗したのが原因で、と。
あいつがいれば、世界はもっと面白くなったのに。
「面白い世界」
※この140字小説は、自殺を促すものではありません。
10日
私はメイドです。今日もご主人様のために、働きたいと思います。
まずは朝食をお作りしなければ。彼は卵焼きが大好きだから、今日も作ってあげて……あら?どうやらお掃除を先にしなければならないようですね。
私は包丁を手に、静かに肉塊を処理します。
この肉塊、ご主人様、喜んでくれるかしら?
「メイドの土産」
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