4/11〜4/20

11日


朝の電車が好きだ。

満員電車。誰も彼もが殺気立っていて、席が開けばすぐさま戦場。我先にと席を奪いに来る。

でも私が好きなのは、そこじゃない。顔を上げ、窓の外を見る。

誰もが少しでも苦しみを軽減しようと、スマホを見たり寝てたりする。でも私は。

電車の中から見える、美しい景色が好き。


「特等席」




12日


馬鹿みたいに青い空なんだ。こんな日は、ただこうして、空を眺めていたい。何もしない。何も考えない。ただ息をして、ボーッと、空を見上げて。

その時初めて気づくんだ。雲に様々な形があること。風が吹いて流れること。鳥も空中で体制を崩すことがあること。

初めて知ったなぁ。


「休憩」




13日


トーストを齧りながら、テレビを見る。そこでは爽やかな音楽とともに、天気予報が流れていた。

「今日は午後から小雨が降りますので、折りたたみ傘を持っていくといいでしょう」

折りたたみ傘か、と呟き、ふと、とあることを思う。

俺は、部屋に折りたたみ傘を置いて出かけた。


「今日の気分」




14日


中に気持ちを織り込んで、紙を折る。ちょっと不器用なものだから、ちょっと歪な紙飛行機。

今日は風が良く吹く日だ。こんな日は、良く飛んでくれるだろう。振りかざして、投げる。

すると紙飛行機は、あらぬ方向に飛んでいった。やらかした、なんて思っていたら。

君が笑って、手を伸ばした。


「ほんと不器用なんだから」




15日


暗い夜道。薄明かりの街灯。一人歩く、私。

足を止め、振り返る。誰もいない。

再び歩き出し、また足を止めて、振り返る。誰もいない。

「もう、しつこいなぁ」

私はため息混じりにそう呟くと、来た道を戻った。そしてそれを抱き上げて。

「君、家来る?」

返事をするように、それはにゃあ、と鳴いた。


「小さなストーカー」




16日


たぶん君は、大馬鹿野郎なんだ。

だってずっと、こんなに素敵な人間が近くにいたっていうのに、君は他の人のことを好きだと言って、そっちに行ってしまった。

君に好きだと言われたその子もさ、あいつのいいところなんて、何一つ分かってないくせに。

本当に、どいつもこいつも大馬鹿野郎。

でも、


「一番の馬鹿は自分か」




17日


貴方の背中には、翼が生えている。

貴方はどこにも行けないと思っている。でも私は知ってるよ。貴方がその翼を一振りすれば、どこへだって行けることを。

私はそれを見ていたい。

隣で、なんて、欲張りなことは言わないから。

せめて、見ていることだけは許してほしいんだ。


「憧れ」




18日


「わー、席空いてなーい」

「最悪ー」

そんな女子高生たちの会話を聞きながら、私は思わず小さく笑ってしまう。

私にも、あんな時期があった。ここは戦場、過酷な椅子取りゲーム。何度も敗北の味を知らされた。

でも私はもう二年目のベテラン。負けるわけがない。彼女たちの前の席を奪ってやった。


「通勤ラッシュ」




19日


衝動的な感覚だった。

「間もなく、○番線に、電車が参ります──」

その音につられるよう、踵を返した。電車がホームに滑り込む。扉が開く。おいで、と誘うように。

その電車に乗る。反対方面の電車だった。いつもの目的地と、どんどん遠ざかって。


……。

目を覚ます。見慣れた電車の中。


「いつか本当に出来たらな」




20日


沢山吸ってきた。排気ガスのような、肺が痛くなる、そんな空気。吸って、吸って、もう受け止めきれないよ。

我慢できなくて、吐いてしまったんだ。疲れた。そんな言葉と一緒に。

すると、何でか、呼吸が楽になった。

だからもう一度吸って、今度はすぐに吐いてみて。

ああ、楽だ。


「深呼吸」

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