140字まとめ

秋野凛花

2022年

4月

4/3〜4/10

3日


ひらり、ひらり。

桃色の花弁が目の前を横切る。でも君はそんなことに構わず団子に夢中。美味しい美味しいって何度も言いながら、何個も笑いながら口に含んで。文字通りの花より団子で、私は思わず声に出して笑ってしまった。

まあ私も、人のこと言えないけどね。


「だって君しか見えない」




4日


タンタラ、タンタラ。

優しい、金属を弾く綺麗な音。

箱の上の小さな人形が、ギクシャククルクル回っていて。

愛おしくて抱きしめたくて、でもそんなことをしたら、壊れてしまう。

タンタラ、タンタラ……。

月の輝く綺麗なこの夜。

私は思い出を壊せず、夜から出られない。


「オルゴール」




5日


水滴が頬を流れる。顔を上げると、雨が降っていた。風が強いから、傘の間を塗ってきたらしい。

傘は好きだ。まるで雨の檻に、閉じ込められているみたいだから。土砂降りであるほど、私達は檻の中。歩けば濡れるけど、歩かなければ、綺麗でいられる。


囚われの姫みたいで、少しワクワクするの。


「囚われの姫は、綺麗でしょう?」




6日


道端に黄色い花が咲いていた。都会の真ん中、アスファルトの隙間から顔を覗かせ、その花弁は、葉は、沢山の人に踏まれたのか汚れている。それでも凛々しく可憐に、咲き誇って。……なんて、どこかの歌詞にでもありそうな言葉だ。

百獣の王の名が付いた花。呟く。

「もう少し頑張ろうかな」


「ダンデライオン」




7日


沢山の人、人、人。そんな人の渦に飲み込まれそうになりながら、私はその波を掻き分け、進む。ひたすら前へ。

この航海に、正解は無い。どこへ向かえばいいのか、誰も教えてくれない。だから我武者羅に進むしかない。

それでも、目的地はちゃんとある。

正解かは別として。

私は貴方の元へ向かう。


「友達」




8日


君の世界は色付いている。

空の青。草木の緑。巡る血の赤。普段それくらいしか意識しない俺とは違う。

君は川のせせらぎ、誰かの歌う声、誰かを思う気持ち、美味しそうなパンの匂い、触れる手の暖かさ、その全てに色があると笑った。

君の世界はこんなに美しい。

君は世界の秘密を知っている。


「世界は美しい」




9日


世界はこんなに、色鮮やかなの。

川のせせらぎは、透き通った瑠璃色。誰かの歌う声は、幸せの山吹色。誰かを思う気持ちは、色んな色が混ざった虹色。美味しそうなパンの匂いは、優しい若草色。触れる手の暖かさは……唯一無二の、桃染色。

これらは全部、


君と見る世界だから。


「with you」




10日


目の前で、川が流れている。

私の目には、全てを捉えきれないほど、それは激しい流れ。

だけどその濁流に、乗れている人がいるの。楽しそうに、いとも容易く。

だけど知ってる、私も前まではあそこに居たんだ。

でも今は一人。激しすぎて、あの波には乗れない。一緒に乗る人もいない。


「仲間外れ」

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