第4話

「そうだ。今日、掃除の時間に何個か机が倒れたの。神原くんの机も倒れてたから、念のためになくなったものがないか見てくれない?」

 補習を始めてしばらく、気づいたふりで切り出す。耀司は貸し出した教科書をめくる手を止め、素直に机の中をのぞき込んだ。

「大丈夫だろ。元からなんも入れてねえし」

 盗んだのではないのなら、やっぱり何かしようとしていたのか。

 耀司は孤立しがちだから、目に見えて衝突する相手は少ない。それでも、あんなひきょうなまねをするような。

 そう考えて、ふと気づく。私には「隠れて耀司に危害を加えそうな生徒」の心当たりが、まるでなかった。だれもそんなことはしないと信じている、私に問題があるのか。そんなことはないと、信じたいだけなのか。

「小夜ちゃん、なんか今日、疲れてね?」

 首をかしげて私を眺める耀司に、口元をさする指先を止めた。気づいたのは優しさか、それとも。

「昨日、鬼に追いかけられる夢を見てね」

「マジかよ、ガキみてえ」

 ふき出し、鼻にしわを寄せて明るく笑う姿に後ろめたさは見えない。消えた本人説にほっとして、私も笑った。

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