-23- ラブレター
私は、リビングで、何から書き始めたらいいのか、思案に暮れていた。
私は、ケンちゃんと違って部屋を持たされていない。それに、私がリビングで何を書こうが、みんなは興味がないのだ。
あまりにも苦労して書いたので、3時間くらいかかってしまった。
途中で、おばさんが麦茶を持ってきてくれた。本当はおばさんに、
「ケンちゃんが誰かに手紙を書いてたよ!」
と、言いたかったのだが、そもそも、おばさんに封筒と便せんをもらっていたらしいので、秘密ではないのだろうなと思い、言うのをやめた。
「礼央へ
私たちが付き合って、1ヶ月が経つね。
私たちは相変わらずいつも通りで、でもそれに安心している私がいる。
キスとか…きゃーっ!できないよ。実は、手をつなぐのとかもよく分からなくて。時々、こんな感じの私が礼央と付き合っていいのかなとか、礼央にはもっとふさわしい人がいるんじゃないかとか、考えることもあるよ。こんな彼女で、ごめんね。でも、礼央は、私にとって本当に大切な人。ずっと、仲良くしていきたい、かけがえのない人です。
私は、今、おじいちゃんとおばあちゃんの家にいます。すっごいムカつく同い年の従兄弟も来てるんだけど、いなかったらいなかったで寂しいもんね。
ちょっと家を空けるだけで、サボテンとコーヒーの木は元気かなとか、思うようになりました。みんなのサボテンも元気だといいな。
あんなに勉強が嫌いだったのに、今、お泊まりしても真面目に宿題をやっているんだ。なんなら、夏休みに入るまであれだけ嫌だった夏期講習も、みんなに会えるから楽しみ。初めての感情がいっぱいだよ。
私は、彼氏ができるまで、彼氏が欲しくてたまらなかった。でも、それはファッションで、
『彼氏が欲しい!』
って言っていただけだったのかもしれない。内心、彼氏がいなくてもいいやって、どこかで思っていた。
私に彼氏ができて思ったことは、
『彼氏』という言葉に囚われなくていいんじゃないかってことだった。
私には、恋愛は、正直よくわからない。礼央の方が、恋愛というものをよくわかっている気がする。でも、今はそれでいいんだ。これからも、恋愛ってなんなのか、よくわからないかもしれない。でも、だからこそ、私は礼央と一緒にいたい。『普通の恋愛』でなくても、私と礼央だからこそできる関係でいたい。これからも、長くお付き合いができたら嬉しいな。愛を込めて。
琴葉より。」
私は、一方通行で意思疎通ができないかもしれない手紙を書いてしまったと感じた。手紙を出す勇気がなかったので、リビングの上に置きっぱなしにして、私は畑の手伝いに向かった。
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