-15- 防衛本能

デート!デート!

でも、デートって、何をするんだろう。

「礼央、何がしたい?」

「動物園に行きたいな。」

「いいね!そうしよう!」

「勉強の支障にならない?」

「いい気分転換になるから、大丈夫だよ。」


動物園は小さい頃以来行っていない。楽しみだ。

私は、子供の頃、家族で動物園に行ったことを思い出した。

私には弟がいる。弟が動物に凝っていて、とある日曜日に、疲れていて外出したくないお父さんを弟と私で前日の夜に説得して、動物園に行ったのだ。

最初こそ気乗りしないお父さんだったが、途中から誰よりも盛り上がっていた。


「琴葉ー。勇気ー。サルだぞー!ニホンザルだー!」


と、私と弟(勇気)相手に騒ぎまくっていた。

お昼には、お母さんが作ってくれたお弁当を食べたんだっけ。美味しかったな。

確か、大量のおにぎりと、唐揚げと、甘い卵焼き。ブロッコリーに、トマト。

そうだ!お母さんに、頼んでみよう!


家に帰るなり、私はお母さんに、


「今度、動物園に行くんだけど、二人分のお弁当作りたいんだ。作り方、教えて!」

「あら、私が動物園に持って行ったお弁当のこと?」

「うん。」

「あんなの、私に教えてもらわなくても出来るわよ。」

「私には、今までろくにお手伝いをしてこなかったツケが回ってきているのです。」

「じゃあ、今から、一緒に練習してみる?」

「うん!」


私は、簡単そうに見えるお弁当でも、たくさんのコツがあることを知った。

卵焼きは、甘い卵焼きにも塩を少し入れること。料理酒も入れるなんて。

ブロッコリーを茹でる前には、これまた熱湯に塩を入れること。

トマトには簡単に皮をむける方法があること。

高校に入ってから、一気に生きていく上でのスキルが上がっている気がする。


「ただいまー。」

お父さんが帰ってきた。

「お父さん、今日ね、琴葉がお夕飯作ったの。」

「珍しいな。なんだか、お弁当みたいなメニューだな、がはは。」

反抗期真っ最中の弟も、部屋から出て来た。

「唐揚げ、うまそう!」

「ほとんどお母さんが作ったがな。本番は、自分だけで作ります!」


懐かしい味がした。もう、自分は子供の頃には戻れないんだなと、やんわり思った。運動部の弟は食べ盛りで、ほとんどのおにぎりと唐揚げを食べられてしまった気もするが、まあ良い。成功ということだろう。


部屋に入って、私は、窓際のサボテンに声をかけた。


「サボテンよ、今日も一日いい日だったよ。…ていうか、サボテン、トゲが急に伸びていやしないかい?」


私の中にあった防衛本能とか、ガードの硬さが緩んだと思ったら、今度はサボテンが、私の身を守ってくれているかのように、トゲで身を固めていた。

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