-9- あずきとサボテン

今は、七月の半ば。私は礼央の部屋にいる。飼い猫のあずきちゃんを見せてもらいに来ているのだ。礼央のお母さんが、お菓子と麦茶を持って来てくれた。

「うちの子、お友達を家に連れてきたの初めてなのよー。」

「あ、大丈夫でーす。私も友達ほとんどいないんで。」

「ゆっくりしてってねー。」

「はーい。」


あずきちゃんは、ものすごいマイペース。最初は私をにらんでいたが、敵ではないと分かったようで、部屋中を素早く動き回っている。

「可愛いけど…ちょっと怖いぞ?」

「確かにちょっと怖いかもね。顔つきとか。でも、あずきも、桂木さんのこと怖いと思ってるかも。」

「こういう子、キジトラっていうんだよね。」

「うん。慣れるまでは触らないであげてね。」

「はーい。」


あずきちゃんのワイルドさにびっくりしつつ、私は猫のエサを出した。

「持ってきたよー。あずきちゃんのエサ!」

「おお!ありがとう!これ、あずきが一番好きなやつ。」

「そりゃ良かった。あげてもいい?」

「うん。この器に入れてみて。」


あずきちゃんは、すぐに器に近付いて、もっさもっさ食べている。


あずきちゃんをほのぼの眺めている私に、礼央がふと言った。

「桂木さん、『恋活』してるんだよね?」

「ああ、最近は忘れがちだがな。」

「桂木さん、僕と付き合う気はない?」


…へ?


「え?私と?礼央が?付き合う?」

「うん。」

「礼央、私のこと好きなの?」

「うん。」

「なんで?」

「色々話聞いてくれて、そういう人、初めてだったから。」

「どうしよう、動揺して何も言えない。」

「急だったもんね。時間かかっていいから、返事くれないかな。」

「うん。びっくりした。私、告白されたの初めてだよ。」

「僕も、告白するの初めて。」

あずきちゃんが、私達二人をからかうように、ミャーと鳴いた。


その後、私は逃げるように家に帰ってしまった。礼央には悪いことをした。

でも、礼央は優しいし、大事にしてくれそうだし、

(礼央と付き合っても、何も悪いことはないのでは?)

と、気持ちが傾いてきた。ここで付き合えば、私の

「彼氏欲しいー!!」

の日々も終わるだろう。私はサボテンに話しかけた。

「本当、どうしたらいいだろうね。」

サボテンは黙っている。

「ねえ、私達、付き合ってみてもいいかな。」

サボテンは動かない。

「五秒間サボテンが何も言わなければ、付き合っちゃうよ。ごー、よん、さん、にー、いち、ぜろ!」

しーん。よし、付き合うか。

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