-6- 勉強よりも大事なもの

放課後、一斉に掃除の時間が始まる。うちの高校は、毎日、全員が掃除当番だ。

だから、うちの高校は「お掃除学校」と言われている。

そして、だから、うちの高校は隅々まで綺麗。

「掃除、かったるいなあ〜。」

なんて騒いでいた私達も、自然に掃除が当たり前のことと思えてくる。


今、六月の終わり。七月初めには期末テストが控えている。

私は、掃除の後に礼央と教室へ。うちの高校は「帰宅部」が多いのと、自習したい生徒が多いため、自由に使える教室を、放課後にいくつか開放してくれている。


「勉強、全然分からないと思ったら、中一の分野から分かってなかったんだね。そりゃついていけない訳だ。」

「桂木さん、よく、ここ受かったね。」

「あ、言ってなかったっけ。私、ここ、補欠合格だから。」

「え、そうなの!でも、なんでそこ、胸はってるの。」

「なかなかいないよ。そりゃ、胸はるさ。でもさ、礼央に勉強を教えてもらったおかげで、毎日楽しいんだよね。授業は呪文聞いてるみたいだったのが、ちょっとずつ分かるようになってるし。新しいことを分かるって、楽しいね!」

「なんか、嬉しいな。」

「ずっと、私、人との距離感が上手くつかめなくて。友達もほとんどいなかったんだけど、秋奈も礼央も咲人くんも、優しいよね。」

「今まではたまたま気が合う人がいなかっただけだよ。それに、全員と仲良くする必要もない訳で。」

「確かにね。礼央は、勉強よりも大事なものって、あると思う?」

「どうしたの、いきなり。」

「いやあ、そこは聞きたいじゃん、学年一位に。」

「あると思う。」

「ズバリ、なんですか?」

「夢かな。」

「礼央の夢って、なんなの?」

「獣医になりたいんだ。」

「獣…ケモノ?」

「うちで猫を飼ってるんだけど、急に具合が悪くなったことがあって。

でも、獣医さんに治してもらって、今はすごく元気なんだ。だから、僕も憧れるようになって。」

「猫、なんて名前なの?」

「あずき。女の子だよ。」

「今度、秋奈と咲人くんと、あずきちゃんに会いに行きたい!」

「それはもちろんいいんだけど。」

「獣医になるのって、難しいの?」

「僕にとっては、結構。だから、勉強、頑張ろう。」

「あ、そうだ、今、勉強してるんだった。」

礼央の貴重な時間を、共有させてもらっていると改めて知った。

礼央の勉強の邪魔は出来ないな。今日からは、なるべく自分で出来る勉強は自分でやろう。

礼央の勉強の様子を見ると、効率的な勉強の仕方がよく分かる。礼央は、学校から配られる教科書や問題集の他に、小さな辞書みたいな参考書を持っていて、パラパラめくって調べながら解いている。よし、私も。


私は学校の帰りに、礼央と別れてから本屋さんに寄った。そして、その日から私を大いに力付けることとなる、有力な味方を手に入れた。


「誰にも聞けない!中学一年生からの復習Book」


ちゃんと、英数国理社の五冊を手に入れた。これらがこれからの私の辞書。よろしくね。

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