-3- ときめきって。

礼央は、意外にも迷惑がることなく、丁寧に勉強を教えてくれた。学年トップの余裕なのかもしれない。おかげで追試は、なんとかクリアすることが出来た。

「なんかさ、礼央にお礼、したいんだけど。」

「実は僕、駄菓子屋に行ったことがなくて。」

「ああ、確かに一人だと入りづらいかも。私はよく行ってるから、一緒に行こうよ。少しだったらおごるよ。」

「え、いいの。」

「うん。」

秋奈が私達に近付いてきた。

「思ったより仲良くやってるじゃん。」

「えへへ。そうかな。」

「あ、秋奈も駄菓子屋行かない?」

「今日バイトないし、これからなら行けるよ。」

「わーい。」


(なんか、普通に楽しいぞ?)

と、私は思った。恋人なんていなくても、今までもなんだかんだでやってこれたし、恋人にこだわることもないのかもしれない。


駄菓子屋への道を三人で進む。こういう青春も、ありかも。

すると、大学生くらいのお兄さん二人組に、私たちは声をかけられた。


「おねえちゃん。俺らと遊ばない?」

「この小僧はいいから。もう帰りな。」

と、不穏な雰囲気だ。秋奈が、

(マズイねー)

という表情でこっちを見てくる。礼央は、完全に怯えてしまって使い物にならない。本当に、マズイねー。


すると、

「大丈夫?」

と、うちの高校の制服を着たお兄さんが声をかけてくれた。

背が高くて、かっこいい。

「なんだお前らか。」

と、お兄さん。

「咲人じゃねえか。なんでいるんだよ。」

「塾に行こうと思ってて。この二人には俺からよく言っとくから。中学の頃の俺の同級生なんだ。ガラ悪いし、怖かったでしょ。そんなことばっかりやってるから、モテないんだよ。」

「うるせえな。行こうぜ。」

二人は舌打ちをして、街に消えていった。

「あなたは、同じ高校ですよね。制服がそうだから。」

「うん。俺は、新浜咲人。高一だよ。」

「え!先輩かと思った!私達も、高一。なんか、かっこいいですね。」

「えへへ。ありがとう。」

「あの、咲人くんが、私の運命の人であるっていうことはないでしょうか。」

「え?なんで、急に?」

私はいつも焦りすぎる。もし植物を育てていたら、水のやり過ぎで枯らしているだろう。

「ああね、この子、今、恋人が欲しくて迷走中なの。」

「もしかしたら、運命の人かもしれないね。」

「え?本当に?」

ついについに。恋愛デビューか。

「でも、ゆっくり関係を育てていこう。まだ会ったばかりだしさ。」

礼央に言われたことと同じようなことを言われてしまった。

やっぱり、恋愛は、ゆっくり育てていくものなんだなあ。

「それにさ、琴葉って、今の段階で、ときめきとか、ドキドキとか、ないでしょ。」

「うん、全くない。」

「それで付き合うとかよく言えるよ。相手に対して不誠実だと思わない?」

「え、別に浮気してないし、思わないかな。」

「恋愛は無理してするもんじゃないからね。」

「そっか。とりあえず、駄菓子屋行こ!咲人くんも行く?」

「これから塾があるけど、ちょっとなら寄れるよ。」

ワクワク、ドキドキ。私は、男の子よりも、駄菓子屋にときめいてしまう。

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