告白2 クリスマス

「モウヤダオウチカエル」


「俺も帰りてえ・・」


クリスマスの夕方の渋谷。

俺達は家から出てくるべきではなかったのかもしれない。

俺、城崎蒼汰。16歳。

で、俺の隣で小っちゃくなってるのが栢野結衣。16歳。

昔からの友人で、いわゆる幼馴染という奴だ。

結衣が家に遊びに来てた時に、外に出ようという話になって出たは良いのだが・・。


「なにこれ人多すぎない!?」


「さっきからそれ言ってんだろ!!」


そうなのだ。

今日は12月25日。

考えれば簡単なのだが、クリスマスにはカップルが街中に溢れかえり、その光景を見た人々は幸せを噛み締めたり、逆に悲しくなったりするのだ。


「うぅ・・・私達場違いじゃない?」


「今更かよ!」


周りの人は皆恋人とイチャイチャしてるのに俺らだけこんな感じだからね?

周りからはどう思われてるのかしら。

まあどう見られても構わないけど!


「あっ、雪降って来た」


「まじかよ」


空を見上げると確かに白い物がふわっと舞っていた。

ホワイトクリスマスとでも言うんだろうか。ロマンチックやんけ。

そんな事を考えている間にどんどん降り積もり始めてきた。


「ねえ蒼太、あれ見て!」


「どれだよ」


結衣が指差す方向を見るとそこには綺麗に輝くイルミネーションがあった。

キラキラと光り輝くそれはまさに幻想的で、思わず見惚れてしまう程だった。


「すごい・・・綺麗だね」


「ああ、そうだな」


なんて事のない会話だが、俺はこの時間が好きだ。

小さい頃からずっと一緒で気付けば隣にいるような存在になっていた。

そして今もこうして一緒にいる。

しかし、高校生になってからというもの、お互いに少し意識するようになってきて、何とも言えない距離感になっている気がしていた。

ただ、それでも何も変わらない関係のまま今まで続いていて、それが心地良かった。


「ねえ蒼太、手繋がない?」


「いや急過ぎじゃありませんかね?」


「いいじゃん別にーっ」


「はいはい分かりましたよお姫様」


「むぅ〜バカにして〜」


こうやってたまに甘えて来る時があるんだよなぁ。

いつもなら断る所だけど今日くらいはいいだろ。

だってほら、俺もちょっとドキドキするしさ。


「んじゃ行くぞ」


「うん♪」


はぐれないようにしっかりと手を握りしめながら歩き出した。


「寒くないか?」


「大丈夫だよ。ありがとね」


「そっか」


なんだか照れ臭くて顔を合わせられない。

きっと結衣も同じ気持ちなんだろう。

頬を赤く染めて微笑んでいる彼女の横顔をチラリと見てみると目が合ってしまった。

慌てて目を逸らすと結衣がくすりと笑った声が聞こえた。

それからしばらく歩くと大きなツリーが見えて来た。


「やっと着いたか・・・」


「もう疲れちゃったよぉ」


2人でベンチに座って一息つく事にした。

するとそこで結衣が何かを思い付いたように言った。


「ねえ蒼太、写真撮ろうよ」


「えぇ・・・ここでか?」


「せっかくだし思い出作りたいもん」


「しょうがねぇな」


とは言いつつも内心嬉しい自分がいたりいなかったり。


「はいチーズ!」


カシャッという音が鳴り響いた後、画面を確認すると2人とも変な笑顔をしていた。


「おいこれ絶対目線ズレてんぞ」


「良いの良いのこれで。記念になるからさ」


「そうか。それなら仕方ないな」


「へへっ、ありがとうね」


写真を撮り終えると次はプレゼント交換をする事になった。


「はい、私の選んだ物ね」


「おうサンキューな」


渡された袋を開けると中からはマフラーが出てきた。

青色の生地の中に白のラインが入っているシンプルなデザインだ。

すっげえ好きなデザインだ。


「うわー、ありがとうなー」


そう言いながら、マフラーを見ていると、マフラーから紙が1枚はらはらと空を舞った。


「ん? 何だこれ?」


拾い上げて読んでみるとそこには『好きです』と書かれていた。

結衣の方を見てみると、彼女は耳まで真っ赤になって俯いていた。


「・・・あのー、これはどういう意味でしょうか?」


「・・・そのまんまの意味」


「・・・俺の勘違いじゃなければ告白されたって認識で合ってるよな?」


「・・・うん」


「・・・マジか」


突然の事で頭が回らない。

確かに俺達は幼馴染みではあるが付き合うとかそういうのは全く考えた事がなかった。


「そのー、とりあえず返事させて貰ってもいいか?」


「う、うん」


緊張して心臓がバクバクとなっている。

深呼吸をして心を落ち着ける。


「その・・よろしくお願いします」


今更だけど超恥ずかしい。めっちゃ顔熱いし。


「そ、蒼太ぁ!!」


「ちょ!? いきなり抱き着くなって!」


「だって嬉しくて!」


「分かったから一旦離れてくれ!」


「嫌!」


「ぐぬぬ」


結局、俺は10分間ほど抱きしめられ続けた。

結衣を何とか引き剥がした後、俺はある事に気付いた。


「あれ、お前の手冷たくね?」


「あ、バレた? 実は手袋忘れちゃって」


「何やってんだよ。ほら手出せ」


「ん? どうするの?」


俺は結衣に手を出させるとその手に自分の手を重ねて上着のポケットに突っ込んだ。


「こうすれば少しマシだろ。少しだけな」


「うん! ありがとね」


はい、カップルみたいですね。

本当にありがとうございます。


「んじゃそろそろ帰るとするか」


「そうだね〜っ!」


俺達は再び歩き始めた。そしてイルミネーションを横目に見ながら歩いていた時だった。


「あっ」


「ん、どした結衣」


「雪止んじゃったね」


「本当だな」


2人で外を見ると先程までの綺麗な景色は無く、ただの曇り空になっていた。


「残念だよね」


「ああ、折角の初デートなのにな」


「ふぇっ?」


結衣が驚きの声を上げた。

俺も自分で言って驚いたけど。


「いや、初デートみたいなもんじゃん今日」


「そ、そっか。うん、私達にとっては大切な日になったよ」


「そりゃ良かった」


「ねえ、これからもずっと一緒に居てくれるかな・・・なんて」


「当たり前だろ。こんな可愛い彼女放っとけるかよ」


「かっ、かかかかかか、かわ」


「おーい大丈夫かー?」


顔の前でブンブンと振っても反応がない。

ただひたすらに手を握っている彼女の顔を覗き込むと、そこにはニヤけきった表情があった。

それからしばらくして我に帰った結衣はいつも通りのテンションに戻った。

そんな彼女に苦笑いを浮かべつつ、家路に着いた。

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告白 田中山 @tanakasandesuyo

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