第6話 セラと銀河へ

私は音楽大学を卒業して、中学校の音楽の先生になりました。

嬉しい事に、ニ菜とニ太はよく電話をくれました。

弟の一太は物理学の先生になりました。

ニ太は、一太に憧れて先生を目指す事になり嬉しく思いました。

私は先生の仕事が大好きだったので、結婚はしませんでした。

家の事を全てやってくれる男性がいたら結婚していたかも知れませんが、生まれるのがまだ少し早すぎた様です。

恋もしましたが、私はそこで得た体験を音楽に注ぎました。

幸いニ菜とニ太が、私の事を小さいお母さんと言って慕ってくれたので、自分に子供がいる様な錯覚を起こして満足していました。


私は40歳の時、ピアノ曲「銀河の調べ」を発表しました。

世界的な曲とまではゆきませんでしたが、国内ではソコソコの好評価を頂きました。

あの日、イルカのセラから伝わって来た不思議な声をピアノで表現したものです。

彼女は、この宇宙のとても大切な神秘を伝えようとしていたのだと感じていたので、私なりにそれを音楽にしてみたのです。


48歳の頃、「スティーブ少佐の奇跡」が起こりましたので、それが転換の一つの鍵となり、それから数年で世界から戦争が無くなったのです。

文明ビッグバンによって、月旅行計画「プロジェクトルナ」が始動しました。

意識がエネルギー体系であることが理解され始め、物理学その他の学問が飛躍的に開花しました。

そんな中、ニ太は一太の後を追って大学教授になり、「プロジェクトルナ」に参加するチャンスを得たのです。


59歳、まだまだ元気に学校の先生をしている私の元に、ニ太から手紙が届きました。

「小さいお母さん、お知らせがあります。「プロジェクトルナ」が完成しましたので、関係者親類招待枠で、貴女を月旅行ヘご招待しますのでご参加下さい。父と母は高齢過ぎる為に参加の条件を満たす事が出来ませんでしたので。


ニ太」

私は現地6時間滞在の月旅行ヘ行ける事になりました。


検査とちょっとした勉強等を経て、いよいよ月旅行船に乗り込みました。

ロケットが点火され、グイグイと上昇して身体が引っ張られてゆく感覚には覚えがありました。

大気圏を突破すると、景色が真っ黒になり、光の泡が見えて来ました。

天の川です、モンゴルで見たそれよりも数倍鮮明で、それはそれは美しいです。

グイグイと言うこの感覚、無数の星粒が泡になって、一箇所が集まって目の様になった。

「あっ、イルカのセラだ!」

今私は白髪のお婆さんではなく、セラに必死にしがみついていた小さな女の子に戻って、クククッ、ククッと言うあの声を聞いている。

「あの日、私がなんと言っていたのか教えてあげる」とセラは言いました。

「うん」

「私達イルカは、喜びを表現する為に生まれてくるの、そしてそれは本物はあなた達人間も同じなのよ。

泳いで、遊んで、楽しんで、いっぱい喜んで生きる事を小さかった貴女に伝えたかったの。

貴女は、それに答えて平和で楽しい人生を送ったわ、ありがとう。

喜ぶ事は、感謝する事と同じ。

あの日、貴女を乗せて一緒に泳いだ事を昨日の様に覚えているわ。

さぁ、今度は星の海へ私と泳ぎましょう」


小さいお母さんの手記は、ここで終わっていました。

私がペンの床に落ちる音に気付いて小さいお母さんを見た時、彼女は満足そうに笑みを浮かべていました。

この女性の物語を是非皆さんに知って欲しいと思い、「海と銀河と私」と題してここに寄稿いたします。



                高橋 ニ太


お し ま い


美しいだけじゃダメでしょうか?

このお話しには、争いも不安もありません。

一菜と言う女性の、ただ美しいだけの生涯を紹介したものです。

良かったら、あなたの人生の参考にして下さい。


さようなら、またどこかで。

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海と銀河と私 @mody

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