第3話 イルカのセラ

食事が終わると、再びお姉ちゃんが遊んでくれる事になりました。

今度は彼氏も一緒です。

4人で思いつく限りの遊びをしていると、お父さんがやって来て言いました。

「今日は本当にありがとうございます。

実はこの後、イルカと泳げる体験の予約をしていまして、そろそろお別れしなければなりません、この子達に素晴らしい思い出を作って頂きました」

何となく意味が分かった一太が、泣いてグズり始めました。

「イャダー、もっとお姉ちゃんと遊びたいよ」

私はお姉さんだったので、ガマンしていましたが、どうしても涙が溢れて止まりませんでした。

私と一太は昨日まで、ガイドブックの写真を見て、イルカさんに会うのをとても楽しみにしていたのでした。

私は涙を拭いて、一太に言いました。

「じゃあ、イルカさんは乗らなくていいの?」

「イルカさんにも乗るし、大きいお姉ちゃんとも遊ぶ」

「一太、お姉ちゃんとっても楽しかったよ、イルカさんも一太と遊びたくて待ってるってよ。」

お姉ちゃんも、別れを惜しむ私達姉弟を見ていて哀しげな顔をしていましたが、気が付いたようにこう言いました。

「ちょっと待っててね」

お姉ちゃんは陣地に走って行って、携帯電話を持ってきてお父さんに渡しました。

「撮って下さい」

お姉ちゃんは、私と一太を両腕で抱き、彼氏にも入る様に指示しました。

「さぁ、笑って!」

お父さんは緊張しながら、シャッターを何回か押しました。

お姉ちゃんは、私の手に小さなメモを包ませて、ギュッと握って言いました。

「写真送るから、電話してね!」

私はコクリと頷いて、本当にお別れなんだと理解しました。

お父さんに引っ張られて、一太は何度も振り返っていましたが、私は、お姉ちゃんに貰った紙をギュッと握り締めて、一度も振り返りませんでした。


イルカ体験のお店に着くと、一太は大きいお姉ちゃんの事などもう忘れてしまったかの様にはしゃいでいたので、私はいつもの様に、ちゃんとお姉ちゃんしなきゃ、と思いました。

一太の乗せてもらうイルカさんは、マー君、私はセラちゃんに乗せてもらう事になりました。

一太は小さな手で、しっかりマー君の背ビレを掴んで、お店のお兄さんと出発しました。

「一太、手を離さないようにするのよ!」

「うん」

私とセラちゃんにはお姉さんが付きました。

私が背ビレを掴むのを確認すると、セラは力強く出発しました。

セラの背中と私のお腹が密着して、クククッ、クックククッ、と不思議な音が伝わります。

私はまだ、大きいお姉ちゃんとの別れを悲しんでいましたが、セラの不思議な声を聞いているうちに、悲しみが消えてゆきました。

新しい友達のセラに頬ずりすると喜びが湧いて来ました。

セラは、友達が安心した事を感じたのか、今まで以上にグーンと力強く泳いでくれました。

セラは不思議な声で一生懸命私に語りかけている様でしたが、私には何を言っているのか分かりませんでした。

セラは時々、水面を鼻で叩いてバシャバシャして泡を作った。

クリクリのお目々が私を見て、ね、綺麗でしょうと言っている様でした。

とても短い時間でしたが、これも素敵な体験でした。

一太も私も満足して、イルカさん達とお別れしました。

不思議と悲しくはなりませんでした。

まだ私の胸に不思議な声が残っでいて、悲しい事があったら、私の声を思い出してと言っている様でした。


お父さんとお母さんが、気を効かせて浜を大回りしてくれました。

大きいお姉ちゃん達が、まだ居るかも知れないと思ったのでしょう。

私は、もう居ないでくれた方が良いと思いました。

結局、大きいお姉ちゃん達は帰ったようで居ませんでした。

車に戻り、お父さんが言いました。

「楽しかったか?」

「うん、凄く楽しかったよ!」

「そうか良かったな! じゃあお家に帰ろう」

車が走り出すと、私と一太は5分もしないうちに寝てしまいました。

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