真実

 最初に見たのは黒く湿ったコンクリートの天井だった。「ここは何処だ…。確かカールとマヤに連れられ…。」僕はその瞬間、今までの出来事を思い出した。それはまるで、今まで記憶喪失だったのがいきなり記憶を取り戻したかのように。


「そうだ。僕は奴らに連れられてきたんだ。ここは何処だ。」僕は上半身を勢いよく起こうとする。だが両腕両足を何かに縛られて起こせない。「くそっ。手足が縛られていて動けない。」そう呟きながら、必死にもがいた。


その最中、右側の方からドアが開く音が聞こえてきた。それは不協和音のような鈍い音を鳴り響かせながら。そして閉まると、今度は無機質な足音が聞こえてきた。「この足音、ケンドか!」僕はその足音で誰かが分かった。だが分かった瞬間、深い恐怖心が心の奥底から湧き出てくる。


 すると数分経たぬうちに、その足音は急にぴたりと止む。僕の恐怖心も、またぴたりと止んだ。しかし数秒後、ケンドが僕の顔を覗き込んだ。それは白い帽子被り、サングラスをかけながら。「やぁ、マサヤ君。昨夜ぶりかな?」男は僕の顔を覗き込みながら、軽く挨拶をした。


「ケンド!父さんを殺した男。一体何をするきだ。」僕は彼の顔を見て、驚きそして睨んだ。「あぁ、そうさマサヤ君。私が父、ミカイド博士を殺した。そしていきなりだが、君の頭脳にある能力制御装置を取り外す。」ケンドは僕の瞳を見詰めながら、そう話す。「やっぱりお前が父を。それに能力制御装置と言うのは…?」僕は彼を憎みながらも、初めて聞くその装置の名前に首を傾げた。


「その様子だと、ホウジョウ達からは何も聞かされていないようだな。恐らく言いたくなかったのだろう。まぁいい、今から教えてやろう。」そう言った後、ケンドは手術台の周りを回りながら、意気揚々と説明しだした。「能力制御装置。それは複数の能力を持つものが、効率よく扱える補助装置のようなものだ。」


「補助装置?」「あぁ、そうさ。君は体を改造されてね、複数の能力が扱える。それは二人の人間が持っていた能力を移植したおかげだからだ。」「二人の人間の!」僕は目を丸くした。


「はは、驚いているな。まぁ、驚くのも仕方が無い。始めて知ることだからな。」ケンドは僕の顔を見て嘲笑う。「どうしてなんだ?僕に何故二人の…。」僕は余りにの驚きに声がかすれてしまった。


「それはお前の父、ミカイド博士とこの私が複数の能力をもつ超能力者を作ろうとしたからだよ。そのためにはある程度の体質がある超能力者が必要なる。そしてその体質があったのが君だ。それからは君の体に二人の人間の能力を埋め込んだ。そしてそれは成功した。だが君は最初、能力を全く操れなかった。だから博士はさっき言った装置を開発し、君の頭に埋め込んだ。そして君は完成した。」ケンドは一旦そこで話を区切り、歩くことも止めた。


「父さんが僕の体を機械に…。何故なんだ。何故…。」僕は余りにの衝撃で、言葉が詰まってしまう。「人類の進化のためだ。博士は日夜、その目標を追い求めてきた。それはいずれ人類は君と同じくするために。しかしその方法では効率が悪かった。だから私はそれ以前に計画されていた、能力活性剤を提案した。それなら君のように改造しなくても能力を引き出せるようになるからだ。」ケンドはまた僕の顔を覗き込み、そう喋った。


「能力活性剤!でもそれは危険な副作用があるんじゃないのか。」「ははは、確かにそうだ。しかし、副作用が無くて、何が能力だ。それは進化の為には必要なんだ。だが博士はいつも反対していた。いくら話してもだ。それはホウジョウとタクオもだった。だから私はもう怒りが抑えられなかった。そして私は博士に恨みを持っていたカールとマヤを引き連れ、博士を殺した。」そこでケンドは口を閉じた。


 僕は彼の一連の話を聞き、より彼を憎んだ。だがそれと同時に勝手に僕を改造した父を殺してすっとした気分にもなった。その混沌とした気持ちは、僕の心や体全身を気持ち悪くさせた。「でも殺した事は許していないぞ。」僕はカールに憎まれ口を叩き、より彼を睨んだ。


「まさかそこまで睨まれるとは…。でも、仕方が無いのかもしれない。だけれど後悔はしていない。そのおかけで活性剤を作ることが出来る。そして最後の障害として、君のその装置の取り外し無力化する。そうすれば君は能力を持った木偶の坊になり、私達に対抗できなくなる。」カールはそう言いながら、歪な笑い声を出した。


 僕は彼の言ったことを聞き、冷や汗をかく。早くここから脱出しないと。縛られた手足を必死に動かす。「はぁ、全く君は諦めの悪い。大人しく装置を取って、普通になればいいのに。」ケンドは必死にもがく姿を嘲笑いながら、近くにある点滴台を手に取り持ってくる。その中には静脈麻酔薬が入ってあった。


「やめろ…。やめろ…。」僕は唇を震えさせながら、小さく呟く。「ヒヒ。ははは。」ケンドは不気味な笑い声を出しながら、僕の近くに点滴台を持ってくる。そして針を肘筋辺りに刺そうとした。


「やめてくれ。やめてくれ。」僕は針が近づくにつれ、恐怖心が増大していく。反面ケンドは針を近づくにつれ、笑い声が増していく。「もういやだ。やめろ!」僕は針が肌に当たる瞬間、勢いよく叫んだ。するとその時、体全体の力が急速に増していった。それは数秒も経たずに。そして両腕を思いっきり動かす。その瞬間鎖が四方八方に飛んでいった。


「なっ!」ケンドはその光景を見て、目を大きく見開き驚く。「お前!」僕は彼に怒鳴り声を上げながら、左手で思いっきり顔を殴った。


「うぐっ!」ケンドは徒ならぬうめき声を上げながら、向かい側の壁まで飛ばされた。そして思いっきり壁に激突する。それは背中の骨が入れるくらいの勢いで。それからケンドは、その場で倒れこんだ。


「はぁ、はぁ。」僕は息を荒くする。そして彼ををまじまじと見つめ、ただ茫然としていた。「なんだこれは…。今までこんなことは。」「なるほど。あの装置を取り外そうとすると、防御措置が働くようにしてあるのか。フフフ。」ケンドは不気味な笑い声を交えながら、そう呟く。それからゆっくりと立ち上がり、僕の方に目を向けた。


「やはり君の能力、装置はとても素晴らしい。しかもそれが徐々に進化している。博士も天国で喜んでおられるだろう。だが私にとっては、とても危険で障害になるものだ。だがら今から君を殺す。本当はそんなつもりは無かったが、装置を取り外せない今、殺すしかない。」ケンドは左手の人差し指を突き出しながら、僕に向けて宣告した。


「そんな易々と殺されてたまるか!」僕は彼の宣告をかき消すかの如く、そう叫んだ。そして僕は彼のすぐ近くにあるドアへ向けて走っていった。だがそこに行くにはケンドの横を通り過ぎなければならない。しかしそんなことはどうでもよかった。それよりも早くここから出たかった。「だが私はまだ諦めてはいない。いずれ、いや今でも君を殺すことを。」


 ケンドは僕が通った瞬間、念仏を唱えるように呟く。僕はその呟きを耳を入れながらも、彼の横を通り過ぎた。そしてドアを潜り抜ける。その先は、細長い廊下の奥側だった。「向こう側にドアがある。あそこに行けば。」僕はすぐさま向かい側にあるドア目掛け、走っていく。それは勢いよく獲物目掛け、走っていく豹のように。だがその途中、黒い影が目の前の床を覆いつくす。それは水溜まりがたまっているかのように。その中から黒い人影が出てきた。


「マヤか…。」僕はそれを見た途端、一瞬で感ずく。そして黒い影のベールが脱がされてゆき、マヤが姿を現した。「ここから通さない。」マヤは刀のような武器を取り出して、小さな声でそう言う。


「いや、通してもらう。ここから脱出するために。」僕は彼女に向け、そう言い返す。それは左拳を強く握りながら。カヤは僕の返答を受け取り、鋭く光った刃先を向けた。


それから両者見つめ合い、まるで仏像かの如く動かない。だが僅か数秒経った後、カヤが先に攻撃を仕掛けた。それは一瞬で接近し、刀を僕の懐へ切り込む。「早い!」僕は余りの速さに目を見開く。そして両足を弾まし、腹をそらした。そのおかげで間一髪、切り付けられることはなかった。その代わり、着服しているシャツが切られ裂けた。


「ちっ。」カヤは舌打ちをうち、こちらを睨みつける。僕は恐れ慄いた。だが体制を取り戻し、すぐさま地面を右拳で思いっきり叩いた。その時、地響きが唸る様にして揺れ動いた。


「うっ!」カヤは地響きにより、一旦怯む。「今だ!」僕は一瞬に隙を衝き、彼女の懐に迫る。そして初めて戦った時と同じように、一発決め込んだ。しかし手加減した。「きゃっ!」カヤは腹を抑え、その場で跪く。


「今だ!」僕は彼女の様子を見て、すぐさまその横を通る。それからドアまで一直線に走り、開けた。それからは無我夢中で走り抜ける。周りは何も見えていなかった。いや見ている暇はなかった。それから気づけば外に出ていた。


空が鼠色の雲に覆われ、その下に悲しく錆びついた廃工場が聳え立っていた。「ここは確か町はずれにある…。」僕は周りを眺め、その後走り出す。するとその時、カヤの声が聞こえてきた。僕は彼女の声がした方向を向く。


 どうやらそれは廃工場の入り口辺りからだった。そしてそこにはカヤとケイが立っていた。「マサヤ!」カヤがすぐさま気づく。そしてケイと共に走り出した。「カヤ、ケイ!おーい。」僕は彼女たちの名前を叫びながら、向かって行く。そして合流した。


「マサヤ君、大丈夫か?」ケイが僕を左肩を掴み、聞いてくる。「大丈夫だ。それよりも何故ここに?」僕は吐息を荒くし、何故ここまで来れたのかと疑問に思った。


「探知機をつけたのよ。あの時、マヤの影に落ちて行く時、五円玉位の探知機をマサヤの服に発信機を付けたのよ。」カヤは自信満々に説明する。僕は服を当たり障りに調べる。すると背骨辺りに何か、冷たい物がついていた。まるで引っ付き虫のように。


「そう言うことです、マサヤ君。さぁ、こんな所でぐずぐずしていられません。早くここから出ましょう。」「あぁ、早く出よう。もうこんな所には居たくない。」僕はさっきの苦い思い出に苦しめながら、ここから出ようと歩き出す。


カヤ達もその後に付いて行った。だが数歩歩いた時、目の前につむじ風が勢いよく吹き上げる。するとそこからカールとケンドが現れ出た。「やぁ、カヤにケイ。久々だな。一体いつぶりかな?」ケンドは意気揚々とそう話す。「うぅ、ケンド…。いつもと同じくいやな口調ね。」カヤは彼の姿を一目見ると、一歩後ろへ後ずさった。


「やっぱり嫌われているか…。それで早速なんだが、マサヤ君。さっきも言った通り君を殺す。」ケンドは期待と怨念の眼差で、僕の体全体を眺めた。「ほう。遂に奴を殺す決心がついたのか、ケンドも。」カールはその話にニヤリと笑いながら、鋭く光り輝くナイフを見つめていた。


「ケンド、カール。お前たちを必ず倒す。死んだミサキの為にも。」ケイは恨みを込めて、そう吐露した。「確かにね、ケイ。でも今は逃げるべきよ。今回の目的は達成できたわ。それに私達は今戦える準備は出来ていない。」カヤはケイの昂った感情を制止させるため、何とかなだめようとした。


「ほう、逃げるのか。だが何回も言うが、逃がしはしない。カール行くんだ。そしてマサヤ達を殺せ。」ケンドは重圧のある声を出しながら、彼に命令する。「あぁ、分かった。」カールはその命令を聞き、心底嬉しそうにナイフを煌めかせる。


「ケンド、カール。狙いは僕のはずだろ、だったら僕だけを狙えっ!」その時僕は手術台のこと、そしてマヤとの闘いのこと、そのせいで心と体に傷を負いその場で倒れこんだ。「マサヤ、大丈夫!」「マサヤ君、君は動かない方がいい。」カヤとケイは、ナイフが襲う最中、僕を心配する。


「ありがとう。でも僕なんかより、カールとの闘いだ。僕は僕で何とかする。」「こんな所にしゃがみこむなんて、余程切り刻まれたいようだな。」カールはナイフの平面を左手でさすりながら、一歩一歩向かっていた。


「やっぱりあいつらと戦わないと、ここから出られないわね。できれば戦いたくなかったけれど。」カヤは親指を内側に曲げながら、ケイの耳元で呟く。「まぁ、気持ちは分かりますよカヤ。でも僕は奴らに復讐するチャンスがあるから嬉しいですけれどね。」ケイは彼女に同調すると同時に、好戦的な気分を持つと言う矛盾を抱えた。


「僕の体さえどうにかなれば、彼女達と共に戦えるのに。」僕は悔しさを胸に抱いた。「では君達を今から切り刻みましょうか!」カールは眼光を光らせ、ナイフを構えた。それに応じるかのように、カヤ達も構える。そしてカールが襲おうとしたその時、どこからか白い球が投げ込まれる。その瞬間、白い球が爆発し白い煙が全体を覆った。


「なんだ。げほっ。げほっ。」カールはその煙を吸い込み、咳をする。「げほっ。この煙は…。」ケンドは咳をしながら、何かを察した。そのおかげで彼らの動きが一瞬鈍った。


「ホウジョウとタクオね。さぁ、行くわよ。今がチャンスなんだから。」カヤは一瞬の隙を見て、僕の左肩を担ぐ。「そうですね。げほっ。本当は戦いたかったが、仕方がありませんね。」ケイは諦めの様子を見せ、僕の右肩を担いだ。それから急いで彼らの横を通り過ぎ、煙の中を潜り抜ける。


 そして入り口へ向かう。そこには青のセダンが一台止めてあった。そこに乗っていたのはホウジョウとタクオだった。「早く来てください。」タクオは窓越しのそう叫ぶ。僕達はその叫び声に呼応するように、素早く向かって行き着いた。そうして車のドアを開き、飛び込むように中へ入っていった。


「よし。」ホウジョウはそれを確認すると、エンジンを掛け車を出す。そして猪突猛進に道を進んで行った。その合間、僕は目を閉じ深い眠りについた。












  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る