目的
家の中はいつものように、静けさを保っていた。「はぁ、疲れた。」「本当。全速力で走ったから。」僕とカヤはその静けさの中、息を上げていた。するとその時、インターホンが鳴る。僕は息を上げながらドアへと向い、開けた。
そこには僕より少し背の高い男性が立っていた。その姿は少し茶色ががった黒髪のツーブロック。服装は白のtシャツに上からパーカを羽織り、黒色のズボンを履いている。「君がマサヤ君?」その男の人はそう呟く。「はい、そうですけれど。」僕は彼に返答する。
「そうですか。それでは自己紹介を。僕の名はケイ・ナカジマ。よろしく。」ケイは自己紹介を終えると、握手を求めた。僕は彼から求められた握手に応じた。手を握った。するとケイが反応する。「何か懐かしい感触ですね。」「…。」僕は首を傾げる。「いや、すまない。」ケイは手をすぐさま離し、頬を赤らめた。「いや、昔いた恋人の感触とそっくりで…。」「そうですか…。」僕はどう反応すればいいか分からなかった。
「それでケイ。どうしてあなたがここに。」カヤはケイに対し、驚いた様子を見せる。それは思いがけないことに遭遇した時のように。「今日の昼頃、マサヤ君のお家に行くことになっていたからね。」彼は紳士な態度で、僕達に向け喋る。
「あっそうだ!すっかり忘れていた。」僕は突然閃いたかのように、昨日のことを思い出した。「そうですよ。家で安静にしといてくださいって言ったんですから。」ケイの後ろからタクオが現れる。「あぁ、そうだ。」それに続きホウジョウも現れた。
「あっ、ホウジョウ、タクオ。」カヤは彼らを見た瞬間気まずい顔を表した。「カヤ。まさかマサヤ君と共に行動していたとは…。」ホウジョウは呆れかえっていた様子を見せた。
「それに研究所まで足を運ぶなんて…。危ない行動は慎んでください。それにマサヤ君もあれだけ注意したのに…。」タクオはまるで親のように、僕達に説教した。
「ごめんなさい。でも私、黙っていられなかったの。博士の研究があのケンドに悪用されることを。それにマサヤ君も知りたいってい言っていたし…。ほら、能力活性剤の資料も手に入れた。」カヤは僕の手からそのファイルを取り、彼らに見せびらかした。
「それはそうだけど…。でも余り無茶はいけない。」ホウジョウはそれでも意見を曲げない。「はい。僕も知りたかったんです。何故父が殺されたのかを。それが我慢できなくて…。後それに、昨夜の晩に恐らくケンドから電話がかかってきたんです。」「ケンド!」ホウジョウはその名前を聞き、目玉が飛び出そうな位驚いた。
「…。分かった。その話は家の中で聞こう。」ホウジョウは一旦冷静な態度を取り戻す。それから僕は皆を家の中に招き入れた。その後、リビングに入りソファに座ると昨日の出来事、そして今日の出来事を線目に話した。
「なるほど。そう言うことか…。」ホウジョウは深く感心した様子を見せる。「まさかカール、そしてマヤとは…。ケンドも本格的に動き始めたというわけですね。」タクオはホウジョウに向けてそう話す。
「えぇ、そうよ。苦戦したわ。でもマサヤ君のおかげで何とか退けりことは出来たわ。正直きつかったから。でもまさかマヤが」カヤは僕に感謝すると同時に、マヤの事が気になっていた。
「でもどうしてカヤの妹がケンドに味方を?」僕は今の今まで気になっていた事を彼女に聞いた。「さぁ、分からないわ。いくら妹とはいえ、ちゃんとお互い分かり切っていることはないんだし…。」カヤは顔をそむけた。僕はそれ以上、彼女には聞かなかった。
「でも、マサヤ君にも能力があるなんて…。しかもそれは僕達のように親指を曲げることではなく。強制的に。それに発動するタイミングも殺されそうになるなど、ピンチな時ばかりだ。」ケイは右手を握り、それを顎に当てながら考え込んでいていた。
一方ホウジョウとタクオは、僕の能力の話をするたび冷や汗をかいていた。まるで詳しく話して欲しくないように。
「それでマサヤ君。体の方は別になんともなかったんですか?」タクオは声を震わせる。「最初の頃は体がついていけなかったのか、全身に激痛が走りました。でもそれはマヤとの戦いでは殆ど痛みは感じませんでした。」「そうですか。それは良かった。」タクオは胸を撫で下ろす。まるで僕がこうなるだろうと知っているみたいに。
ケイは彼らの不審な態度を気にしながら、口にを動かす。「高速移動ができるのですか…。そう言えばミサキの能力もそんなんでしたね。」「ミサキさん?」僕は唐突に出てきた名前に困惑を抱き、ケイに聞いた。
「僕の恋人ですね。…。もうこの世にはいないですが…。」「もういない。」「はい、ミサキはもいません。ケンドに殺されたんです。」ケイは両手を組み、強く強く握りしめる。そこには悲しみと憎しみ、両方が込められていた。
「そうなんですか…。」僕は彼の思いに、なんと言えばいいか分からなった。カヤはただ黙って顔をしかめる。しかしホウジョウとタクオは、体を震えさせ唇を嚙んでいた。まるでまざまざと殺される光景を思い出し、日々助けられなかったと悔やむ人のように。
「ゴホン。それじゃ、話を変えてカヤ達が持ってきたこのファイルの話をしよう。」ホウジョウは唐突に咳払いをし、話題を変えようとした。「そうですね。こんな思い出話よりもこちらの方が大切だ。」ケイは話を遮ったことを、申し訳なさそうに思った。
「それじゃ率直に言って、このファイルは今すぐ処分する。これを悪用されないために。」ホウジョウはそのファイルを見ながら、強く握った。それは今にも壊れそうなくらいに。「そうね。私も同意見よ。」カヤはファイルを破棄することに賛成する。「はい、そうです。活性剤はあってはならない物。だから。」「僕も同意見です。」タクオとケイもカヤに続き、賛成した。
しかし僕だけは、その活性剤の詳細が何なのか分からず、話についていけなかった。「あの、いきなりなんですが、その活性剤とは何なんですか?カヤからは名前は来たのですが、詳しい内容が分からなくて…。それにどうしてあってはならない物なんですか?」僕は恐る恐る皆に質問する。そしてその質問に答えたのは、ホウジョウだった。
「あぁ、マサヤ君は知らなかったね。超能力活性剤とは文字どうり、超能力を強制的に活性化する薬だ。それを使うと潜在的に秘めている超能力を引き出すことが出来る。だがそれは強制的で、人体に過度の負担をもたらす。最初はまだ大丈夫だが、使っていく内に、負担が積み重なっていく。そして最終的に負担に耐えられなくなり、崩壊してしまうんだ。とてもあやふやだが、正直まだわかっていなんだ。」ホウジョウはそこで話を区切り、お茶を飲んだ。それはもうこれ以上話したくなかったかのように。
僕はその話を聞き、全身に寒気が走るほど恐ろしくなった。だがもしその恐ろしい副作用のことを聞かされていなかったら、恐怖せず欲しいと思っただろう。「そんな恐ろしい物が…。でも何でそれを作ったんだ?いくら力が手に入るとはいえでも。」僕はそんな素朴な疑問を抱き、それを呟いた。
そしてそれを答えたのがまたホウジョウだった。「…。最初は人類を幸福に導き才能を開花させるためだった。ご存じの通り、超能力はごく一部の人しか開花しない。だから他の人も開花させようと思った。だが研究していく内に、超能力を強制的に活性化させるのは、危険な物だと分かってきた。本来超能力は自然的開花するものだ。そうしないと所々でバグが起こってくる。この続きは隣のタクオが詳しいから、彼の口から話してもらう。」そこでホウジョウは話を一旦区切り、タクオに話を託した。
「ではホウジョウさんに代わり僕から。まず超能力が目覚めた後、発動するには親指を内側に向けるんだ。で、その能力は常時発動することが出来ない。それを常時稼働させていると、脳や体に異常をきたしてしまうんだ。恐らくここら辺の話はカヤから聞いていますね。活性剤はそれを無視してしまうんです。言うなればその工程を飛ばすんです。そうなるとオンオフができない。そうして脳や体に異常をきたす。だから危険なんです。」タクオはまるで演説をするかのように、熱弁した。
僕は彼のその説明を聞き、理解した。その後、皆に向けてこう聞いた。「けれど奴らは何故それを狙ったんだ?何か目的はあるのか?」「恐らくは活性剤を量産し、日本にいや世界に配り人類を超能力に目覚め去ることだろう。奴の目的がそれだからな。」ホウジョウはまた説明しだした。
「ケンドの奴ですね。でもあいつ一体どうやって大量生産するんだ?そんな施設あるのか?」ケイはそうホウジョウに向けて言う。「正直今の段階では分からない。だがケンドのことだ。今頃何処かに作っているだろう。」そうホウジョウは憶測した。
僕は彼らの話を聞き、喋ろうとしたその時、背中に冷たい風が吹きつけた。そよ風のようだった。しかし気持ちよくはない、冷徹だった。それは公園にいた時に感じた時とそっくりだった。
「カールだ。カールが来る。」「カール?」カヤは首を傾げる。するとその瞬間、リビングの窓ガラス一つ、勢いよく割れた。その破片はまるで結晶の如く、床に散っていった。幸い、その窓からは多少の距離があり、誰もその破片に当たらずに済んだ。そしてその散らばった破片の上を、一人の男が歩いてくる。その正体は昨夜の晩、戦ったカールだった。
「カール!どうしてここに!」ホウジョウは余りにの驚きに、いつも出さないような裏返った声を出した。「カール。」ケイは憎しみのこもった眼光を彼にぶつけるよう見つめた。「ふっ、ホウジョウ余りにみすぼらしい姿だな。ケイも過去に引きずられて。それにカヤ、タクオ。そしてマサヤ。お前らも揃いも揃って腑抜けたざまだ。」カールは僕達を見下げるような物言いで、そう喋った。
「あら、カール。私たちは別に腑抜けてなんていないわ。それよりもあなたは礼儀を学んだらよろしくて?」カヤは負けじと劣らず、彼を嘲笑した。「ふっ、別にいいさ。今回は別に悪口を言いに来たんじゃない。それよりもマサヤ、君をケンドのもとに連れていく。そのファイルと共に。」
カールはそう口にしながら、ナイフの刃先を僕の方へ向けた。「何故連れていくんだ。本来は僕を殺すんじゃなかったのか。」「それは俺の目的だ。本当は貴様を殺したいが、ケンドが殺さず連れていけと言うんだから仕方が無い。だが怪我はするぞ。」カールは簡潔に答える。その直後、彼はナイフを左手に握りいきなり襲い掛かってきた。
「しまった!」僕はすぐさま避けようとする。そして何とか避けれた。「くそっ。」カールは小さく重みのある恨み口を叩く。「今よ!」カヤは彼が動かぬうちに叩きのめそうと、親指を曲げる。その瞬間、彼女の左手に空気を纏わせ、まるで糸を縫い合わせるように剣を作る。それを持ち、カールに接近し切り刻もうとした。
しかしカールはそれを読んでいたかのように、ナイフで剣を防いだ。まるですべてがお見通しだと行っているかのように。そのままカールは、力いっぱいカヤを押し倒した。「きゃっ。」彼女は少し甲高い悲鳴を上げ、尻餅をついてしまう。「カヤ!」僕は高幅跳び選手の如く、ジャンプしカールに近づく。そして彼の腹に、一発拳を入れた。
「うっ!」カールは唸り声を上げて、リビングの窓付近まで飛ばされた。「マサヤさん、使わせてもらいます!」ケイは親指を曲げ、近くに置いてある何も入っていない花瓶を手に取る。それをカール目掛け思いっきり投げつける。そしてケイはそれが彼の顔に当たる直前、左手を大きく広げる。その瞬間、花瓶が勢いよく割れる。その破片がまるで矢のように、彼の顔目掛け飛んで行った。
カールは破片が刺さる前に避けようとする。そして避けた。だがすべて避けきれず、破片が三つ頬に刺さった。血が流れ落ちる。顔をしかめた。
「ケイさん。これがあなたの…。」僕は彼の顔を見る。「そうです。私の能力は物体を振動させる能力です。かなり限定的なものですが。」ケイは自信満々に能力を語った。
「ケイめ、少しは強くなったか。しかしいい気になるなよ。」カールは頬に刺さった破片を抜きながら、意気揚々と喋る。「何?」ケイは彼が言った言葉に疑問を抱いた。
するとその時、僕の真下が一面影に覆われる。それは半径一メールの円を描きながら。「これはカヤの!」僕はすぐさま気づき、その場から離れようとした。しかしそこから触手のような物が伸びてきて、僕の体全体にまとわりついた。
「しまった!」僕はまとわりつく触手を振り払おうともがく。だが振り払えない。その合間にも影が濃くなっていく。すると僕の隣から人型が現れていく。それが最終的にマヤとなった。
「久しぶりマサヤ。あなたを殺したいけれど、今は連れていく。」マヤは妙に落ち着いた声で、僕の耳元で呟く。「よくやったぞ、マヤ!」カールはまるで子供のようにはしゃぎながら、マヤの方へ向かって行った。「しまった!まさかマヤがいたなんて。」カヤはそこまで思い至れなった、自分の愚かさに悔しがった。「そう言うことなのか。一杯食わされた。」ケイはカールの言葉の意味を知り、彼も拳を握りしめ、悔しがった。
「くそ、離せ、離せ。」僕は叫び、動かないながらも、必死に両手を動かそうとする。「諦めて大人しくしろ。」マヤは冷淡に、一言言い放つ。「暴れん坊の小僧だな。よし、それじゃ行こう。それじゃ、皆さん。またのご機会に。」カールは軽くお辞儀をすると、僕諸共影の中に沈んで行った。
それはまるで底なし沼に沈んでいくように。その時僕は、冷たい感覚が体全体を刺激した。それは下に行くにつれ、段々と増していく。と、同時に気力も失われていった。「なんだこの感覚。とても冷たいし、じめっともする。うぅ、気持ち悪い。それに体全体が重くなって…。」僕は遂にそこで気力をなくしてしまった。そして遂に、僕は影の中に消えてしまった。
だがその直前、僕の耳にカヤの声が聞こえた。「待ってて、絶対助けに来るから。だからそれまで耐えて。お願い。」「あぁ…、カヤ。」僕はカヤの声を聞き、走馬灯を見ているんじゃないかと一瞬思えた。その後、僕は気を失ってしまった。
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