戦い

 長い廊下が続いていた。僕達は足音を立てながら進んで行く。その奥にはドアが佇んでいた。それは一回り大きく木製のドアが。「ここよ。」カヤは廊下の奥を照らしながら、恐る恐る呟く。「ここが重要な資料のある部屋…。」僕は隅から隅までドアを見つめる。


「それじゃ、行きましょう。鍵を出して。」カヤは僕の方へ手を出す。「あぁ、分かった。」僕はポケットから古びた鍵を取り出して、カヤに渡した。


「ありがとう。」カヤは僕から鍵を受け取り、ドアノブにある鍵穴に鎖す。そうして彼女は鍵を回した。すると鍵穴から鈍い音を立てる。カヤはその音を確認し、ドアノブを握った。それからドアをゆっくりと手前に開く。僕は固唾を飲んだ。そしてカヤはその先へ進んで行く。僕も戸惑うことなく、扉の先へ進んで行った。


 カヤはライトを辺り一面に照らす。部屋の幅は父の部屋と同じくらいだ。それに左右に置かれた本棚。ここにはファイルが綺麗に並べられてある。その真ん中に木製で出来た机と、ほとんど父の部屋と同じだった。


「さて、ちゃんとあるかしら…。」カヤは心配しながら、ライトを辺り一面に照らす。「父さんの部屋と一緒だ。」僕は余りの一致さに、変な感動を覚えた。


「そうね。でも、ここは厳重に管理されていたからね。入れるのは博士位だったし。」カヤはぶつぶつと呟きながら、本棚に近づいて行く。僕も彼女のつぶやきを耳に入れながら、後を着いて行った。


そして着くと、僕達はファイルをあさり始めた。それは手さぐり手さぐりに。なかったら、また次の本棚に。すると僕は彼女が求めていた超能力活性剤についてのファイルを見つけた。


「あった、これだ!」僕は嬉しさのあまり、甲高い声を出した。「そう、それよ!出かしたわね。マサヤ。それじゃ、早くここから早く出ましょ。」カヤははしゃぎ、急いでドアの前へ向かった。「あっ、待って。」僕はファイルを右腕で挟み、急いで向かう。


そうして僕たちはドアの前に着き、潜り抜けた。その後、階段をひたすら上り、建物の外へ出た。


 太陽が眩しかった。僕が外へ出て、最初に思ったことだ。「それじゃ、帰りましょう。」カヤはそのまま歩き出す。僕も歩き出そうとした。しかし背中に視線を感じた。それは冷たく、殺気を感じるような。しかし気にしなかった。そのままカヤの後を着いて行く。


研究所から二メートル離れた辺りだった。突如、背中に寒気が走った。僕はすぐさま振り向く。そこには黒い影が、まるで水溜まりを描くように存在した。「なんだ、これ?」僕は興味深々にその影を見つめる。しかし時が経つにつれ、見るのが恐ろしくなっていった。


カヤは僕が一人歩かないことに気づき、後ろを振り向く。だが彼女の顔色は忽然として変わった。「駄目!離れて。」と、カヤは木々を轟かせるほどの大声を出した。


僕は彼女の忠告と、余りの恐ろしさにすぐさま離れた。するとその時、その影の中から人影が現れ出る。それが時間を掛けて、人型になっていった。そして遂に黒いベールが説かれた。女性だった。僕より背が低く、茶色の長髪。すらっとした黒のコートを羽織り、鼠色のスカートを履いていた。何処となくカヤに似ていた。僕は漠然と思った。


その間、カヤは親指を曲げ空気の剣を作り出した。そして僕と彼女の間に割って入った。「まさか…、あなたに出会えるなんて。マヤ…。」カヤは額に汗を流しながら、ただじっと見つめる。


「そうね、お姉ちゃん。でも今日はあなたには興味ないの。興味あるのはあそこにいるマサヤとファイル。」彼女は僕に指を指す。それは睨みつけながら。その後、影の溜まりから一本の刀を取り出し手に取る。鞘を抜いた。太陽が刃先に当たり煌めく。


 僕は彼女の殺気に右足を一歩後ずさった。「それはできない相談ね、マヤ。私はあなたを倒してマサヤとファイルを護るわ。」カヤは冷徹に、突き放すようにマヤに向けてそう言い放つ。まるでもう自分の妹だと見なさない風に。


マヤは黙る。カヤも僕も黙った。辺りが静けさに包まれる。嵐の前の静けさのように。しかしその空間を引き裂くかの如く、マヤがカヤに接近した。そして刀をカヤに向けた振り落とした。けれどカヤは、それを防ぐ。


「さすがねマヤ。でもこれはどうかしら。」カヤは右手を大きく広げ、それをマヤの腹に触れた。その瞬間、彼女は建物を超え、勢いよく向こう側まで吹き飛んだ。


だが身体性が良いのか、身体を一回転させ両足を着地させる。その時数センチは後ろへ進み、砂埃が舞い上がった。「チッ!」マヤは悔しく、舌打ちをする。その後体勢を取り戻し、刀を構える。「そんな悠長にしてる暇なんで与えないわ。」カヤはマヤの側に近寄り、そんな隙は与えんとばかりに攻撃を加えた。


マヤは押される。しかし負けじとばかりに刀を振るう。刃先が音を立てて交わる。まるで舞踏会のように。「いいぞ、カヤ!」僕はカヤの勢いある攻勢に、後押しするよう応援した。だがマヤはそれが気に食わなかった。彼女は一瞬カヤが気の緩んだ時に、懐から短剣を取る。そしてアーチェリーのように勢い良く投げた。


「マサヤ!」カヤは叫び、僕の元へ急ごうとする。しかしマヤはそうさせないよう、触手のような形をした影を出し、動きを封じた。「行かせないよ。そこで大人しく見ていて。」


「うわっ!」僕は余りの出来事に体がピクリとも動かなかった。だが鋭い短剣が顔に当たる直前、突如僕の体が強制的に動く。あの時と同じだ。そうして僕は横に避け、何とか顔に当たることを阻止した。けれど、その反動は大きく体全体に痛みが走る。これも同じだ。しかし昨日とは違い、すぐに痛みが引いた。恐らく体が慣れてきたのだろう。


「はぁ。やっぱりこの力はすごい。それに昨日とは違って痛みが一瞬で引いた。」僕は自分でも把握出来ていない力に、深く感心を抱いた。と、同時に力が強くなっていくことに不安を覚えた。


「そんな…。くそっ!」カヤは自分の攻撃がかわされた事に、ショックした。その直後、後ろに刺さっていた短剣が影の中に消える。そしてカヤは手に持つ刀を構え、影の中へ消えた。


「マサヤ!能力を使って逃げて。」カヤは叫ぶ。後ろから影の溜まりが現れた。マヤが出てくる。刀を勢いよく振り下ろして。僕は一瞬の出来事で対処が遅れる。しかし何とか避けることは出来た。


だが余りに急だったので、勢いよく倒れこむ。「甘く見るから。」カヤは鬼の形相の如く睨みつけながら、僕を見下す。それからとどめをさすとばかりに刀を振り下ろす。「やめろ!」カヤはその時叫び、間に合わないと判断したのか短剣を思いっきり投げる。マヤと同じだった。それが刀に当たる。体制が崩れた。僕はそれを狙い、拳を強く握る。


熱かった。拳全体に熱が伝わっていく。何か行けそうな気がした。僕は勢いよくマヤの腸目掛け、殴りこんだ。嫌な感触だった。マヤのお腹に食い込む生々しい感触。途方もない唸り声が聞こえる。それが雑木林全体に響き渡らせた。そしてそのままマヤは倒れこんだ。


「まさか二つの力が使えるなんて…。」僕はただただ唖然として、握りしめた拳を無る。「…。行きましょ。」カヤは驚きを隠せず、動揺としながらもそう伝えた。「分かった…。」僕は立ちあがり、カヤの元へ近寄る。そしてそそくさとその場から離れた。


















 
















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る