第18話
◆◆◆◆◆
飛空艇港の戦いが始まるより少し前。
アルバータ大森林では、一匹のドラゴンが獣人族の少女を背に乗せて大空を凄まじい速さで飛び回っていた。
『くっ、なんて奴らだ!』
「かみさま、かみさま」
『セレス、今から街に降ろすから、ニニィのところまで逃げて!』
「やだ、いっしょ、いい!」
『我儘を言わないでくれ。あの二匹を相手にして、セレスを守りきれないんだ!』
藍色のドラゴンを追い掛けて飛ぶのは白い羽毛にその身を包んだ獣と、ドラゴンや虫を歪に組み合わせたような不気味な魔物。
前者は聖堂騎士団の騎士であるアルト・ギーソンが【奇跡】の力によって聖なる獣マアトへと変身した姿、後者はアイオーン右頭のアルヴィ・ニグ・アリステラが突如として変化した魔物。
アルト・ギーソン 34歳 ♂
種族:聖獣マアト
体長:2350
状態:死の呪い
生命力 328000
魔力 31000
筋力 7580
防御 5300
速度 7992
魔術 186000
技能:身体強化、個体検査、水魔法系統合、光魔法系統合、龍脈回帰
アルヴィ・ニグ・アリステラ 134歳 ♂
種族:■獣ま亞ト
体長:2710
状態:けン▲ゥ
生命力 666666
魔力 6●666
筋力 16666
防御 6666
速度 66六6
魔術 266666
技能:身体強化、個体検査、炎魔法系統合、雷魔法系統合、闇魔法◆◇◆、光●○系トウ合、龍脈回帰
先程確認したところでは、どちらもかなり強い。特に、アルヴィ・ニグ・アリステラが変化した異形の魔物は所々能力値が読み切れていない上に、読めている部分の数値も凄まじい。おそらく、あれらの変化の本質は同じところにあるのだろう。それぞれの強さに、元となった人間の強さが関係しているように見える。
そんな強い魔物を二体も相手取って、セレスを守りながら戦うなんて器用なことは僕には出来なかった。
『セレス、奴らを振り切るから、しっかり掴まってて!』
「う、うん!」
空中で大きく翼を広げてブレーキをかけ、次の羽ばたきと同時に二匹の魔物に向けて凍てつく氷の風を浴びせかける。それによって尖った氷の壁が大地からそそり立ち、二匹のの進行を妨害。彼らが急停止したと同時に、僕は更に空高くへと急速に飛び上がる。
セレスが落ちることがないように、身体に風属性の保護の結界をかけていたが、それでも風圧が凄まじく、キーンという空気が裂ける甲高い音が耳に響いてくる。
『龍神……!』
いち早くこちらの移動に気が付いたのは、アルトという騎士が変身した魔物。聖獣マアトは遥か上空にいる僕らを見上げて、急上昇しながらガパリと大きく口を開く。
『それを待っていたんだ、聖獣!』
滞空している僕は大きく羽を広げ、天高くめがけて青黒い玉を口から発射した。
雲よりも高く飛んでいった玉。
次の瞬間、その玉はパチンと弾け、渦巻く漆黒の雲を創り出す。そして、暴風と共にその雲からポロポロとひょうが降り注ぎ、意識でも持っているかのように聖獣マアトと謎の魔物へと襲い掛かった。
『なっ、ぐう、あっ!』
「ガァアァッ!グルルゥ、ガラララァア゛ァッ!」
視界もままならないほどの、氷の暴風。
上空に待機していた僕らを見上げていたマアトは、その氷の暴風をもろに受けて墜落していく。あとはエルフの男が変化した謎の魔物もまくだけ。
だが、ここで意外な事が起きた。
「ギシャアァァッ!」
『なにっ!? こやつ意識が……!』
エルフの男が変化した異形の魔物は、墜落していった聖獣マアトを追い掛けて飛んでいってしまったのだ。こちらを狙うばかりだと思っていた為に、思わず拍子抜けになる。
『だけど……今だ、逃げるよ!』
だが、この瞬間こそ逃走のチャンス。
思いもよらぬチャンスの到来に、僕は急降下してオラクルの街へと降り立つ。
「ど、ドラゴンが……!」
「殺さないで、くださ……ひぃ」
「逃げろー!ドラゴンが来たぞ!」
逃げ惑う街の住民たちをよけて歩き、僕はある集団の前で止まった。
「……お前、まさか、セシルか?」
今しがた、馬車をで街を出ようとしていた集団から一人の男が現れる。筋骨隆々な基人族の大男。
脳筋だけど心優しく、亜人の救出のためにマギステアを訪れていたフランクラッドの冒険者『ラバルト・ヘルムート』。
『セレス、降りて』
「……やだ」
『降りるんだ。君を死なせたくない。守りたいんだ』
ラバルトの背後では、警戒した様子の冒険者達が僕を見上げている。だが、そのうちの何人かは背中に乗っている獣人族の少女に気がついたようで、こちらに駆け寄ってきていた。
「セシル、お前」
『ラバルトさん。セレスを頼みます。時間が無いんです』
「……わったよ。でも、ニニィの嬢ちゃんとお前が戻ってくるまでの間だけだぜ?」
僕の背中から降りるのを渋るセレスを、ジャンプして背中に飛び乗ったラバルトが抱き上げて連れて行く。
彼がセレスを連れて冒険者達の集団に戻っていった時には、僕が創り出した氷の壁は凄まじい勢いの光線と熱線によって完全に破壊されてしまっていた。
未だに激しい争いが続くその方向を振り返った僕を見て、ラバルトは叫ぶ。
「死ぬなよ、セシル!」
『……うん』
再び大空へと舞い上がり、聖獣マアトと異形の魔物が待つ戦場へと直進する。
『【
全身を氷の鎧と炎の衣が包み込む。
周囲の自然を灼き尽くし、そして凍り付かせながら、僕は激しく争う二匹の魔物に襲い掛かった。
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