第12話
冒険者酒場の依頼受付でニニィとラウルド(僕はニニィのペットあつかいなので登録の必要はない)が今回即席のパーティを組むことを報告し、先程の依頼の受付を行った。
依頼の詳細の内容は、まとめるとこんな感じだ。
所有している畑にモノハウンドの群れが現れ、毎日のように荒らしていくようになってしまい、困っているから駆除してくれ。
とまあ、そんな内容。
ここのところ、モノハウンドによる被害が各地で発生しており、モノハウンドが対象になっている討伐依頼もかなり増えているようだ。
『それにしても、モノハウンドは随分広く生息してるんだな』
「繁殖力が凄まじいからねえ。あいつら、群れのリーダーのオスが変わるたびに群れのメス全部と交尾するものだから、ぽこじゃか子供が生まれてくるんだよ。しかも元々いた子供はそれで群れを形成したりもするからね」
『凄い生命力だ』
「その癖、食べる量に大してよく動くから、あんまり飢えることなんて無いはずなんだけどねぇ。ここまで同時多発的にモノハウンドの被害が起きるなんて珍しいよ」
「確かになあ。割のいい仕事が増えるぶんには俺たち冒険者にとって嬉しい話なんだが、それで畑や家畜がやられると今度は食うに困る」
長年冒険者を続けているニニィ達からしても、ここのところのモノハウンドによる被害の増加は珍しいようで、ラウルドは「ツマミ用に使うジャガイモが買いにくくなる」とぼやいていた。
ならば、善は急げだ。
僕らは冒険者酒場を後にして、目的の場所へと向かった。
依頼の場所はラパストレの街のはずれにある、大きな農場。依頼主はその農場の農場主であり、今回は芋類を中心に育てていた畑がモノハウンドの群れに荒らされ、売り物にできなくなってしまったそうだ。
「ウチの規模からしても結構な被害ですよ。数が多くって雇ってた警備員にも被害が及んでしまって」
「警備員までやられちまったのか。一応、そいつだって多少なりとも戦えるだろうに」
「ええ、元々『銀』等級の冒険者でしたから腕は信頼してました。それでも一人だと流石に大変だったようで……」
「群れ相手に一人かあ。『銀』等級じゃあまあキツイな」
元々この農場では警備員として元銀等級の冒険者を一人雇っていたらしいが、その人もモノハウンドの群れにやられてしまい、今は入院中だという。
腹をすかせた魔物の群れに襲われて、命があっただけまだ良かったと、農場主の男はため息をついていた。彼もまたモノハウンドに襲われたのだろう。シャツの裾からのぞいている腕には生々しい傷跡がのこっていた。
彼の相手をしていたラバルトは腕組みをしながらうんうんと頷いていたが、両腕をといて目を見開きドンと胸を叩いてみせる。
「でも、もう大丈夫だ。俺は『金』だし、そこの嬢ちゃんなんて『ヒヒイロカネ』だぜ。絶対に成功するから、安心しときな」
「『ヒヒイロカネ』等級まで!?おお……それは心強い! ぜひ、お願いします!」
「あのガキ。私をダシにしてくれちゃって。二度と組んでやるもんか」
『ガキって……』
「180は歳下だぞ? ガキに決まってるだろう」
『ニニィ? 抑えて?』
「ンフフ、冗談だよ」
そうは言いつつも、ぴしりと胸を張るラバルトの陰で、ニニィは額に青筋をたてていた。笑顔で。
「こちらが現場です」
「おお、こりゃあひでえ。根こそぎ掘り尽くされちまってる」
農場主の男に連れられて件の畑へと来ると、それは酷い状態だった。
元はイモのつるで一面の緑だっただろう畑はすっかり掘り返され、ぐちゃぐちゃに千切れたつるや葉が至るところに散乱している。中には齧られたあとの残るイモも落ちており、農場主の無念が伝わってくるようだった。
「ふむ、足跡は……向こうに続いているんだな」
『ニニィ、何かわかったの?』
「そうだねぇ。セシル、魔物のお勉強の時間だよ」
彼女はそう言うと、肩に僕を乗せたまま少し歩き、足元を指さした。
「土にたくさんくぼみが出来てるだろう? これ、全部足跡なのさ」
『え、この凸凹みたいなのが?』
「よおく見てご覧よ。魔物の足跡だってわかるから」
じっとそのくぼみを見つめていると、それが獣の足跡が集まったものだと気付く。
「弾力のある肉球と、はっきりとわかれた指、そして鋭い爪。見ていれば、その特徴がつかめてくるだろう?」
『ホントだ……』
足跡の大きさも大小様々。
畑に埋まっていたイモを掘り返しながら、そこらじゅうを歩き回ったのだろう。足跡の向きもぐちゃぐちゃに、別方向を向いている。
『でも、こんなに指長かったっけ……』
「モノハウンドの指は長いよ。特徴として、単眼だっていう点ばかり注目されるけど、指も同じくらい突出した特徴だとも。近縁種と比較してもモノハウンドの指はかなり長いし、爪も長い。まあ、そもそも草原を走り回ってるような種族じゃないからねえ」
『違うの?』
「こいつらは普段、土の中で生活してるのさ。群れで大きな巣穴を作ってねえ、狩りのときだけ外に出てくる」
『見た目からは想像できないなあ。それにしても、ニニィは博識だね』
「ンフフ♪200年も生きてれば相応に知恵も貯まるさ」
彼女は機嫌良さげに鼻を鳴らし、足跡を辿りながらスッと腕を持ち上げた。
「巣は……あっちだね」
「おーい! 何か見つかったのか?」
「少しは声の大きさを下げ給えよまったく。ほら、奴らの巣は向こうだよ」
依頼者の農場主もいつの間にか帰っており、どすどすと音を立てながらラバルトが駆け寄ってきた。
ニニィの小言も全く気にせず、彼は森の方を見て大きな声をあげる。
「もう居場所がわかったのか!早いな!」
「完全にはわかっていないよ。むこうに巣があるだろうってだけさ。それより声を落とせと言っただろう。奴ら逃げるぞ」
「いやいやまさか。奴ら飢えてるんだろう?人間の声を聞けば、むしろ寄ってくるんじゃないか?」
「本当に脳筋だな。奴らはそんなホイホイつられてくるほど馬鹿じゃない。飢えて弱ってる時ほど警戒心が強くなる。奴らは強い人間と弱い人間を区別して判断してるからね。一匹一匹の強さの割には厄介な奴らさ」
「ええ、そうなのかあ?」
ラバルトはそう言って目をぱちくりと瞬かせた。
見た目から察するに彼もいい歳だろうに、その様子は何も知らない子供のようだ。
ニニィはそんな様子の彼を見てため息ついた。
「なあ、一応『金』等級なんだろう? もう少し頼れるところを見せてくれよ」
「んにゃあ……現場の調査は仲間に任せっきりだったもんで。倒すってだけなら、まあ結構いけるぜ?」
『脳筋だあ』
「脳筋じゃないか」
思わず僕とニニィの声が重なる。
当のラバルトはと言うと、ドヤ顔でサムズアップなんてしている。
凄まじい脳筋だ。そういえば妻がいるとか言っていたが、こんな脳筋の彼と結婚する人はいったいどんな人なのだろうか。きっと、相当に肝の座った女性か、もしくは彼と同じレベルの強烈な脳筋か。
「ま、場所がわかったんなら行こうぜ!」
『ラバルトさん、あんまり突っ走り過ぎないでね』
「応よ! 今日はな、いいもん持ってんだ。巣の中にいるってんならうってつけだぜ」
彼は腰のベルトから下げていた袋から黄色の結晶を取り出して、いたずら小僧みたくニヤリと笑った。
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