第11話




 ガラス細工の街『オラクル』へと続く中継地点として、多くの人が行き交う街『ラパストレ』。

 この街は『マギステア聖国』の要所に繋がる街道の多くに接しており、馬車の停留所の規模も『チェアーノ』のそれと比べると遥かに大きい。


 そのおかげでマギステア聖国の各地から食品や名産品が集まり、旅の冒険者や観光客を狙って巨大な市場が形成されていた。


「そうかあ、あんたらも『オラクル』に向かってるのか。じゃあ、向こうに到着するまでは一緒ってわけだな」

「べつに、別行動でも構わないんだけどねえ」

「おいおい悲しいこと言うなよお。『冒険者は助け合い』って、よく言うだろ?」

「実際にそうならどれだけ平和なものだろうね」

「うぐっ、そりゃあ、捻くれたやつとか、野心の強いやつとか多いけどよお………ま、良いか。どうせここから『オラクル』に向けて出る馬車に乗るのも明日だろ?」

「まあね。とはいえ、宿に行くにも早い時間だが」


 朝にチェアーノの町を出発して、このラパストレの街まで数時間。今は昼を少し過ぎた頃だが、昼食は馬車の中で軽く済ませてある。

 このまま『オラクル』行きの馬車に乗り込んで出発してもいいが、さすがに馬車に揺られ続けるのも疲れる。だから『オラクル』にゆくのは明日の馬車で、そういう事になっていた。


 つまるところ、暇だ。


「とりあえず部屋の予約だけでしておいて、適当な依頼でも受けて、路銀の足しにしようか」

『依頼?』

「冒険者が受けてる仕事の事だよ。まあ今日は実入りはそこそこで良いから、サクッと終わりそうな奴を選ぶかな」

「よっしゃ。それじゃ、俺と同じだな。俺も適当に稼いでおこうって考えてた所だ」


 そんな訳で、冒険者として依頼をうけてお金を稼ぐことになったのだが、どうもラバルトはそこまで行動を共にする気だったらしい。


「え、キミも一緒に行動するつもりなのかい。ここで別れるものだとばかり思っていたんだけどなあ」

『まあ、いいんじゃない? 3人でやれば、そこそこ難しい依頼も早くおわるかもよ』

「えぇ……こいつが付いたところでなあ。私一人と大して変わらないぞ」


「むう、やっぱ駄目か? 言ってみたらどうにかなるかと思ったんだがなあ」


 彼はそう言って、気恥ずかしそう頭をかく。

 一緒に行動したいとは思っていたが、まあ駄目で元々といったところだったのだろう。


 ニニィと僕は少し顔を見合わせる。

 僅かに頷いてみせると、彼女は仕方なさそうにため息をつき、ラバルトに視線を向けた。


「……ま、今回はいいよ。適当な狩猟依頼でも受けようじゃないか。セシルに実戦経験を積ませておきたいしねえ」

「おっ、本当か! いやあそりゃ助かる! 向こうじゃパーティを組んでやってたんだが、しばらくソロになってたせいで連携の取り方とか忘れちまっててなあ。せっかく冒険者の知り合いが出来たんだし、即席でもパーティ組めたらって思ってたんだよ。それに、魔物含めた三人パーティなんて珍しいしなあ」


 ニニィと僕と、パーティを組めることになったのがよほど嬉しかったのか、ラバルトはもうホクホクと顔をほころばせている。

 ニニィには気を遣わせてしまう結果になってしまったが、今度この埋め合わせはする事にしよう。今の僕がこんな身体だから、色々と返せるようになるまで時間がかかるかもしれないが。


「そうと決まりゃあ早速行くか! 割のいい仕事はさっさとなくなっちまうからな!」


「さてと……セシル、わざわざ人付き合いなんて面倒臭い事させたんだから、後で泣きたくなるほど可愛がってあげるから覚悟していなよ」

『え、あっ』


 ニニィの紅い瞳がキラリと光る。

 大人の女性の艶を感じさせるそんな視線に、思わず鱗がぞわりと逆立った。


 まあ。すぐに借りを返せると言うのなら、それで良いのだろう。










「これで良いんじゃあないかい?」

『モノハウンド、か』

「まあまあ良さげな依頼じゃねえかな。相場よりゃ若干上だ」


 冒険者酒場の依頼受付横に置かれている掲示板。

 冒険者の等級別に受けられる依頼が整理されて貼り付けられていて、受けられない依頼を間違えて取ってしまうことが無いようになっている。


 冒険者の等級は下から順に、


 鉄

 ↓

 銅

 ↓

 銀

 ↓

 金

 ↓

 竜鉄

 ↓

 ミスリル

 ↓

 ヒヒイロカネ


 となっており、自分の等級以下の依頼は受けられる。

 等級は多くの依頼をこなしていくか、難しい依頼を達成する、一部の冒険者酒場に併設されている訓練施設で強さの測定を行う、などをすることで上がるようになっているそうだ。


 僕は魔物なので冒険者の登録は出来ないが、ニニィは最高等級の『ヒヒイロカネ』、ラバルトは『金』と二人とも冒険者としては上澄みにある。

 それ故に、受けられる依頼は豊富にあった。


 見たところ、掲示板に貼られていた依頼も『銀』等級のものが最も多く。そこを超えると仕事の幅もぐっと上がるのだろう。


「おや、どうしたんだいセシル。モノハウンドは知ってるみたいだねえ」

『あ、いや、僕が流されてくる原因になった魔物がモノハウンドだったから。ちょっとね』


 そこで二人が選んだ依頼が、モノハウンドの討伐依頼だった。依頼基準は『銀』等級。

 複数体の討伐だがそのぶん報酬も良いようで、昨日一日の宿代の3倍ほどの金額が提示されている。


 そんな、冒険者の二人から見るとただの割の良いこの依頼は、僕にとってはトラウマを呼び起こすものだった。


 殺されそうになっていたランドとアンリの父親。

 奴らの炎に炙られ、弱り切っていた妹。

 そして、一撃で殺されかけた僕。


「キミも成長してるだろう? 今の君なら、ニ対一でも負けないさ。リベンジだと思って、気合入れていこうか」


 今は、ニニィの声が僕の背を押してくれている。


 そうだとも。

 今度仲間を守るとき、怖がっていては意味がない。

 今ここで、僕も立ち上がらなければ。



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